一
桜花の宴が内裏であって
帝の左に東宮(こうたいし)さま
帝の右には中宮(きさき)即ち
藤壺さまのお席があった
東宮(こうたいし)さまの母の女御は
おもしろくなくお思いになる
右大臣さまの姫君で
帝の最初の女御となって
帝の最初の皇子(みこ)を産み
その子は東宮(こうたいし)となるが
自身は中宮(きさき)になれずに終わった
弘徽殿住まいの女御さま
弘徽殿さまは藤壺さまも
源氏の君もお嫌いだけれど
東宮(こうたいし)さまは そうではなくて
紅葉の賀での源氏の舞を
また見たいものとご所望なさり
一さしだけと源氏は舞った
左大臣さまの姫君は
源氏の君の奥方なのだが
仲睦まじくはないようで
源氏はそれほど通われぬ
左大臣さまは恨めしかろうが
見事な舞には涙する
二
酔いのまにまに源氏の君は
その夜藤壺を訪れてみる
忍び入る隙を探したけれど
まったくそんな緩みなどない
仕方がないので引き返す折
通りかかったのは弘徽殿よ
帝のおそばに上がられて
御殿のあるじはおいでにならず
女房(おつき)もそれほどおらぬよう
源氏は勝手に入り込み
戸締まりもせずに無用心だなと
そのくせ内心批判する
そこへ誰かが近づく気配
「朧月夜に似るものぞなき」と
歌を口ずさむ声が聞こえた
嬉しくなって袖をつかめば
当然怯えた若い女は
源氏と知って少し落ち着く
一夜を過ごして朝が来る
名前を問うても答えはなくて
周りがだんだん起きてきて
とうとう別れてそこを出た
見つけてみせると約束なさって
扇を形見に取り替えて
三
弘徽殿さまの妹だろう
婿取り前なら五女か六女か
義兄の妻の四女であったら
おもしろかっただろうけれども
六女であれば東宮(こうたいし)さまに
差し上げなさるご予定だとか
その日は後宴があったので
有明の月を追うかのごとく
帰る人々を見張らせる
右大臣さまのお身内が
帰っていかれたようだとわかって
いよいよ心は落ち着かぬ
姫君もまたお悩みになる
四月になれば東宮(こうたいし)さまの
おそばへ上がると決まってらした
三月の末 右大臣家の
藤の宴があり源氏も参る
酔ったふりして姫の近くへ
催馬楽(うた)をただ歌うようにして
「扇を取られて辛き目を見る」
本当は「帯」であるところ
「扇」と言い換え 試みる
ついに姫君は返事をなさった
源氏は嬉しく思うけど
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