『じゃまけんっ! ~望嘉大付属高校 ジャマイカ音楽研究会~』session:24


「岳兄ちゃぁ~~~ん。はーやーくー! 」
冬休みを利用して久美は実家の方に戻って来ていた。大晦日の今日、岳歩は家族で久美の家に遊びに来ていた。岳歩は車を持っているので何かあると休みには実家のある茨城の方へと足を運ぶこともあったが、久美は芽衣子と同じく寮生活をしているため、帰る事が少ない。そのため久しぶりに2人揃って地元に戻ったこともあり、両家族の親が宴会をしようと話を膨らませたのが事の発端。岳歩は寝正月を決め込むつもりでいたのだが結局連れ出され、久美の家まで足を向けたのである。久美は久美で紅白を見終わったら部屋に下がるつもりでいたのだが、酒に寄った大人達に絡まれ全てのタイミングを失した。呑みの席に付き合わされていた岳歩は、どれだけ呑んでも酔わないのを詰られ中身が空かない状態が続き、痺れを切らして久美をだしに外へ出て今に至る。
「っるせぇーよ。呑み過ぎて気持ち悪ぃんだよ」
「断りなよ~、あたしも紅白ほとんど見てないよ。まだ途中だったのにっ」
「どうせ録画してんだろ」
「リアルタイムで見るのが楽しいんじゃんっ。っとにもー、それにしても大丈夫なの? 」
「前に断ったことまだ根に持ってやがんだよ、あんの馬鹿共が・・・」
「・・・兄ちゃん早く好い人見つけなよ」
久美は岳歩の逃げの理由に使われたのをまぁ良しとして、酔いさましがてらの散歩に付き合った。
「・・・時間も時間だ。初詣にでも行くか」
「あー、いーね。ついでだし行こっか」
時刻は12月31日23時を過ぎた頃。2人は流れるままに神社に歩を進めた。

ーーーーーーーーーーーーーーー

神社は参拝客でごった返していた。
「凄い人~」
「まぁ此処らじゃ一番有名な神社だしなぁ」
パワースポットとしても有名で、全国からも参拝客が足を運ぶ程のお社。久美はすでに人にのまれかけていた。
「おい、はぐれるなよ」
急いで久美の腕を掴んで引き戻すと、岳歩は盾になる様に人の流れに混じった。
「ごーめーん」
「まぁチビだしな、お前」
「チビ言うなっ! 」
高身長の岳歩と並ぶと久美は本当に小さく、端から見れば年の離れた兄妹か親子にしか見えない。
「はいはい、おみくじ引かせてやるから」
「500円の石付きのヤツねっ」
「普通ので験担げよ」
「やだっ」
それにしても凄い人だと2人はもみくちゃにされながら順番を待った。人混みに酔ったのか、岳歩は気持ち悪そうに口元を抑えてる。
「ちょっ、岳兄ちゃん大丈夫? 」
「・・・多少は」
「それ大丈夫じゃないじゃん。もーあんなに呑むから~」
「あれぇ。荒巻先生? 」
突然横手から声をかけられる、その方へ振り向くとそこに居たのは氷川だった。

ーーーーーーーーーーーーーーー

事情を聞いた氷川は久美の面倒を引き受けると、岳歩をその場から送り出した。
「すみません、氷川先生」
「いえいえ。困った時はお互いさまですよ」
氷川はいつもの微笑みで久美に応えた。
「それにしても何でこんなとこまで参拝を? 」
「いやぁ、験担ぎといいますか。今度も無事に受験がすめば良いなと思いましてね~」
岳兄ちゃんとは偉い違いだと久美はまじまじと氷川の顔を覗き込んでしまった。
「ん、どうかしましたか」
「あ、いえ、すみません。別に何も」
「あぁ。荒巻先生はあれはあれで思ってることもある様ですから、そう比べる程のものでもないですよ」
何で解ったんだろうかと怯えずにはいられない久美だった。
暫くして岳歩が戻ってきた、その手にはビニール袋が1つぶら下がっている。
「お待たせ。氷川先生もすみません、助かりました」
「気にしないで下さい。1人気侭な身分でしたから」
「岳兄ちゃん、それ何? 」
聞かれて取り出したのは年越し蕎麦だった。先の宴会で久美は蕎麦を食べそびれていたことを思い出す。
「もし食べられていたら申し訳ないのですが」
「いえいえそんな。食べてなかったんでよかったです。頂いても? 」
「えぇ、どうぞ」
そうして3人はその場で蕎麦を啜った。
「それにしても凄い人ですねぇ。此処には初めて来ましたけどさすがに参りましたよ」
「此処は毎年こうですよ。ここいらじゃそれを知ってるんでこの時間は避ける人だっているくらいです」
「ぷー、食べたっ。岳兄ちゃんゴチソウサマー」
久美は食べ終わった椀を岳歩が持っていた袋に入れる。そしてポケットから携帯を取り出すと何やらカチカチ打ち始めた。
「たまには遠出してみるものですねぇ。しかしまさかこんなところでお会いするとは思ってもみませんでしたよ」
「オレもですよ」
久美から氷川が此処に来ていた理由を聞いて岳歩は納得していた。氷川の性格からして無くはない話である。岳歩とはまた違ったタイプの真面目さだ。
「ねぇねぇ、岳兄ちゃん。氷川先生も。写メ撮りましょう、写メ! 」
「突然なんだ」
「僕は構いませんよ」
近くの参拝客に頼んでシャッターを押してもらう。そのまま3枚程写真に収めると、久美はお礼を言って携帯を返してもらった。
「凛に送るんだ~」
「仲が良いですねぇ」
「双子のことだから炬燵でだらけてそうだな」
「あ、今まさにそうしてるって」
そうこうしている間に流れは先へ先へと流れており、3人の参拝の順番も間もなく訪れた、

ーーーーーーーーーーーーーーー

2礼2拍1礼。儀礼に則ってお賽銭を投げ、挨拶をすますと、3人はすぐに横にはけた。そこではお神酒配りをしていて、ついでだからと岳歩と氷川はお神酒を貰いに向かって行った。
「岳兄ちゃん。さっきあんなだったのにまた呑むの」
「何を言う。よくなったから口直しに仕切りなおすんだろう」
どんな屁理屈だろうかと久美は目の前を行く背に冷たい眼差しを向けた。
「甘酒なら森園さんも呑めると思いますよ。ご一緒に如何です」
「ん~、じゃぁ少し」
3人は並んで杯をあおる。杯を返すとその場を離れて境内から出た。
「本当付き合わせてしまったみたいですみません」
「こちらこそ助かりましたよ。知らない場所だと勝手がよく解らないから」
「見つかったのが氷川先生で本当良かったですよ。これが他の先生方だったらそうはいきませんからね」
「ご家族同士の付き合いにまで口は挟みませんよ。お2人の場合はそこら辺が難しいんでしょうけど」
「大丈夫ですよ、氷川先生。岳兄ちゃん身内にすら容赦ないから」
岳歩が苦い顔をして久美を睨んだ。その光景が微笑ましかったのか、氷川が笑って返す。
「それじゃぁ僕は戻りますかね。改めて明けましておめでとうございます。良いお年を」
「こちらこそ、良いお年を。道中お気を付けて」
「氷川先生、また学校でー」
2人は手を振って氷川を送り出した。
「帰り大丈夫かな、お神酒飲んだよね」
「ネズミに捕まらなきゃ大丈夫だろ。車をこんなところに置いていくわけにもいかねぇだろうし」
不良教師は岳歩だけでは無いんだなと久美は隣の岳歩を見ながら思った。
「それにしても氷川先生、本当優しい感じの先生だよね~。あ、でも急に思ってたことを当てられた様に返事されたのには驚いたなぁ。ねぇ、もしかして氷川先生ってエスパーか何か? 」
「そういう時は間違ってもカウンセラーって言葉を出せよ」
「それは他に先生が居るじゃん、保健室に」
「まぁそらそうだろうけど」
「岳兄ちゃんも人気凄いけど、氷川先生もっていうの解る気がするなぁ」
「・・・ある意味な」
「めーちゃん先生も一番話しやすいって言ってたし、やっぱ凄いんだね~」
「お前達にはそうなんだろうな」
「ん~、さっきから何さー。つかかってばっかで」
「こっちにゃこっちの付き合いってもんがあんだよ」
「何ソレ・・・って、あーーー!? 」
「っんだよいきなり! 」
「おみくじ引くの忘れてた!!! 売り切れちゃう~~~っ」
久美は岳歩の腕を引っ張ると境内戻り始める。岳歩も諦めて久美のなすがままにさせている。石付きおみくじは案の定、売り切れだった。

to be continued...

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • オリジナルライセンス

『じゃまけんっ! ~望嘉大付属高校 ジャマイカ音楽研究会~』session:24

原案者:七指P 様
お預かりした設定を元に書かせて頂いております。
拙いながらではありますが、楽しんで頂けたなら幸いです

マイコンディション1
エマージェンシー・エマージェンシー
絶賛風邪引き中、なのにも関らず意地で仕上げる
コンチキショウ、0時初詣行って石付きおみくじ引きたかったのにっ
今年はさすがに諦めようか考え中
友人からも打診来たけどやんわり風邪は悟らせないように逃げ切る(逃げる程のことでもないんだが
・・・喉がとにかくヤバいんだよ、何で年末に好き好んで寝正月せにゃぁあかんのだ
というわけでコイツラには私の代わりに出掛けてもらいました( ̄ω ̄)
頼む、連れて行ってくれ
ちなみに神社のモデルはちゃんと検索した、でもそこには一度も行ったこと無いけどねん

閲覧数:63

投稿日:2012/12/31 23:12:09

文字数:3,331文字

カテゴリ:小説

オススメ作品

クリップボードにコピーしました