飛行機のエンジン音が部屋に響いてきた。基地へ戻ってきたのだ。
一機、二機、三機、四機、そして五機……たぶんミクだろう。何かの任務だろうか。
僕はベッドに横になると灰色の鉄の天井を見上げた。 タイトとキクは基地の中を散歩してくると言って僕の部屋から出て行ってしまった。無理もない。
この基地はほとんどの施設が地下にある。敵の空爆に備えるためと基地自体にステルス性を持たせるためらしい。だから部屋には当然窓がなく、僕はここに来てからもう何日も空を見ていないのだ。そしてこの大して広くもなく、静か過ぎるこの部屋でじっとしていればそのうちノイローゼになってしまう。第一僕がここでやる仕事と言えばミクや、今ではタイトやキク達のメンテナンスぐらいで時々ウイングの動作チェックなどもやったりする。それはそんなにいつもやるようなことはないのでやっぱり僕には暇な時間が多い。売店で買える雑誌やテレビを見たりして時間をつぶすことは出来るがいずれ飽きがくる。結局暇になる。タイトとキクは早速それに堪えかねて出て行ってしまった。だけど僕はこの部屋に残ることにした。時々何かの用で誰かが尋ねてくるかもしれないから僕はなるべくこの部屋にいるようにしている。
すると早速、誰かが僕の部屋のドアをノックした。
「網走博士。いらっしゃいますか。神田です。失礼してもよろしいですか。御用があります。」
神田少佐。この基地の出撃管理とあらゆる任務の総合的な指揮を執っている人だ。僕はベッドから起き上がってドアに向かった。
「どうぞ。」
「失礼します。」
少佐が部屋に入ってくると手に持っていた数枚ディスクを差し出した。
「明日、本土から新しく配備されたタイト、呪音キク、殺音ワラ、病音ヤミの装備が本土から送られてきます。そのためその装備が機体を認識するために認識用プログラムが必要となります。ですから博士にはそのプログラムを四機にインストールしてもらいたいのです。明日の動作チェックまでに間に合うようお願いします。」
「……分かりました。」
僕は少佐の手からディスクを受け取った。
「用件はこれだけです。では、失礼しました。」
そう言って少佐は部屋から出て行った。
これも僕の仕事の一つ。だけどこれをインストールすることでタイトやキク達も、ミクと同じように兵器になってしまうのだろうか。そう思うと僕は気が重くなった。
少ししたら、タイトとキク、それにミクの部屋にいるとタイトが言っていたワラさんとヤミさんを呼びに行こう。そう決めて僕は再びヘッドに横たわった。
◆◇◆◇◆◇
「うつく~しければそれでい~いよ~。」
ここに来てから丸一日たった。あーあ。なんてヒマなんだろ。本土から装備が届くまでずっとこうしてなくちゃいけないのかな。まぁテレビがあるし、時間つぶすことは出来るけど。そーいやいまごろミクどうしてんだろ……。さっきの飛行機の音、あれミクかな。ああ、あたしも早く空を飛んでみたいよ。
「ワラ、テレビのボリューム下げて。うるさい。」
「はいはい。」
しょうがないからリモコンで音量下げてやる。まったく、うるさいのはあんただよ。
「あーヒマだぁー。ねぇヤミーあたしにもパソコンやらしてよー。」
「だめ。第一あんた使い方知らないでしょ。」
まぁそうだけど……。つかヤミはどこで使い方覚えたんだろ。
「ちぇっ。ヤミなに見てんのさ。」
「掲示板。」
「はぁ?何このズラーッと『飽きた寝る』って。」
「荒らし。」
「なにそれ。」
「もういい……。」
パソコンの画面の隣に写真たてがある。あたしはそれを手に取るとまじまじと眺めた。
えっ、これって……?
「ねぇヤミ。ちょっとこれ見て。」
「なに。」
「これ……ミクだよね。」
あたしはヤミに写真を見せた。その写真には真ん中にこの前ヘリポートであったタイトとキクを作ったっていうひろき博士と、手足が不自然なミクが笑っていた。
「それがどうかしたの。」
「このミク、手足がまるで普通のアンドロイドみたい……ほら、作業用みたいなやつ。どうしてかな。」
「さあ。知らない。」
「だって兵器開発局で出来たんだったらこんなことあるわけないのに。」
「別に。他人にどういう過去があろうとぼくには関係ない。」
ホントにつれないヤツ……。あたしはすごく気になった。
よくみると写真の下のほうには「2019.05.11」て書いてあった。この写真を撮った日かな。あたしは写真を元の場所へ戻した。ミクの過去か……。今度訊いてみよ。
「と言うかワラ。」
「なーに。」
「服を着て。みっともない。」
そーいやあたしブラとパンツだけだった。でもこのかっこー楽なのよねー。
「えーだってあの服かったるいんだもん。いーじゃん誰も来るこたぁないんだし。」
「そういう問題じゃないでしょ。」
「別にいーじゃん。どれどれ、ヤミはどんなのつけてるのかなー。」
「ちょ、ちょっと!!抱きつかないで!!あんたその癖いい加減にしなよ!」
「わー怒った怒ったー。」
「たくっ……。」
「お、そーいやタンスがあったっけ。ミクはどんなの履いてるのかなー。」
「このバカ……。」
◆◇◆◇◆◇
ミクの部屋があるフロアに下りる途中、タイトとキクに出会った。
「ああ、丁度よかった。実は君達に大切な用があるんだ。」
「なんですか?」
「うーん、部屋で話すよ。ワラさんやヤミさんにも用があるから今から呼びに行くから先に部屋に行っててくれないかな。」
「それなら、僕が呼びに行ってきます。」
「いいのかい。部屋は分かるの?」
「はい。」
「じゃあ頼むよ。」
僕はタイトに任せるとキクの手を引いて部屋に戻っていった。
◆◇◆◇◆◇
「おい。ワラ、ヤミ、博士が俺達に用があるそうだ。お前らも来いよ。」
ドアの外から声が聞こえた。やっベ。あの声タイトさんじゃん。
「はーい。今行きまーす。」
「まってワラ! あんたそのままで行くつもり?!」
ヤミがあたしの肩をつかんだ。
「なんだ?開けるぞ?」
「ちょっと待ってください!!」
ああ、入ってきちまう。
「あ。」
遅かった……まぁいいけど。
「お前……! どうしてそんな格好を……。」
ふふ、タイトさん赤くなってる……。
「だってー。」
「すいませんタイトさん。」
謝ることないってのに。ヤミはいつもは無愛想だけどタイトさんの前ではこうなんだから。
「まぁいい。ワラ、服を着たらすぐに俺について来い。ヤミもだ。」
「はい。」
「はーい。」
「まったく……。」
そのあとあたしとヤミとタイトさんで博士の部屋に行った。
「ワラ。」
「ん。」
「お前、なにニヤニヤしてるんだ?」
「べっつにー。なんでもないよ。」
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