「なんだ、此処は…?」
「凄い匂いだ、腐臭?」
「ねぇ、カイト。あれ…」
ミクが指を指す方向に目をやるとそこには無惨な遺体がゴロゴロと転がっていた。
「一体何があったんだ?まさか神威がやったのか?」
「酷い殺されかた…でも、これ刀で斬られたような傷じゃないわ。もっと何か…そう、何か鋭いもので切り裂かれたような感じ」
「ゲイルの風の魔法ならカマイタチぐらいおこせるんじゃないのか?」
「ゲイルはそんな奴じゃない!ゲイルは聖霊の中でも友好的で人間が大好きなんだぞ!そんな事あるわけない!」
「レン、この布キレ見てよ」
「これはっ!俺達のギルドのマーク?」
「まだ血が新しいし、この前調査隊で送った人達のかも?」
「顔とかが解らないぐらい酷い有様だ…ほとんど原形を留めてない」
「僅かにだけど死体からは魔力が感じられるわ、もしかして…」
「くっ!」
血のついた布キレをぐっと握りしめ、レンは怒りを堪えていた。
「レン…。きっと犯人の手掛かりが掴めるかもしれないよ。行こう」
ハ「ちょっと待ってください!何か聞こえませんか?」
「…タス…ケテ…」
「ゲイル?」
「嘘だろ?ゲイルが…。いや、間違いないゲイルの声だ!」
「解るのか?レン?」
「話しは後だ!ゲイルが危ない!早く行こうぜ!」
奥へと駆けていくリン、レンをすぐさま追いかけるカイト達。
「待てよ!焦る気持ちは解るが、落ち着けよ!」
「聞いちゃいねぇか…。やれやれ」
「そうよ、いくらなんでもモンスターだらけの場所を丸腰に行くわけには行かないわ。まだ召喚も覚えてないんだから私達の後ろに居なさい!」
「ミク姉…」
「レン君危ない!」
急に大声を出し、レンに飛びつくネル。
レンを襲おうとしたのはモンスターだった。
「ネル!大丈夫か!」
「良いのよ。レン君は怪我してない?」
「ん?あぁ、今の衝撃で足を擦りむいたぐらいだよ」
ネルはポケットから可愛らしい絆創膏を取り出すと顔を赤らめながらレンに差し出した。
「こ、これ…。貼ると良いわ」
「サンキュー。ネル!」
「べ、別に礼なんて良いのよ!レン君が無事なら私は…」
「ネル…」
「ちょっと!何鼻の下伸ばしてんのよ!」
「イテテ…、リン!頬っぺたをつねんなよっ!」
リンはレンの頬っぺたをつねるとレンと共に立ち上がる、リンは何かに気づいたのか、すぐにカイトの後ろに隠れた。
「さっきの奴に囲まれたか!」
「そんなに数は多くないから皆で手分けすればちょろいね♪」
そういうとテトは武器を使わずにモンスターを殴り飛ばす。
「確かにそんなに強くないみたいね、群れてりゃ良いってもんじゃないのよ!【瞬連舞】!」
瞬きする間もなく一気にモンスターが倒れた。どうやら一瞬で何本もの短剣を投げたのだろうか。
「あぁーウザいわねぇ!数が多過ぎなのよ…【獅子噴砕撃】!」
そのひと振りでどれだけのモンスターが絶命したのだろうか、ネルの前に居たモンスターが跡形も無く消え去っていた。
「すげぇ…。って驚いてる場合じゃない!今のうちに皆行くぞ!」
ネルの切り開いた道を全力で駆けていくが、先程のモンスターが後ろから大群で追い掛けて来る。
「これを使うしかないようですね」
ハクはポケットから何かを取り出してモンスターの群れに向かって投げた。
モンスターの一匹に当たると凄い爆発が当たりに広がる…
「ハク…貴女何を投げたの?」
「アタシの作った特製グレネードですよ。軽く戦車ぐらいは吹っ飛ばせます」
「ちょ!そんなの投げて、道が崩れたらどうすんのよっ!」
「あ…考えてなかったです…」
「馬鹿っ!」
まさかと思い後ろをちらっと見るルカ。
嫌な予感は見事は見事に命中し、後ろには何も残っていなかった。
残っていたのは死骸と、瓦礫の山…。
「馬鹿ーっ!本当に何もないじゃないの!帰りはどうすんのよっ!」
「ルカ、また後で考えれば良い!今はするべき事があるだろ?」
コクリと頷いてルカは歩みだした。
そして長い道を越えると嵐のような風がカイト達を襲ってきた。
「なんだ?急に風が強くなったぞ?」
「スカートの中見たら殺すわよ?」
ミクはルコとカイトに強く釘をさす。
「解ったって、そんな怖い顔すんなって」
「そんな話は良いから何とか何ねぇのか!レン?」
「きっとゲイルが暴走してるんだ、早く止めないと…」
強風に煽られながらも徐々に進むカイト達は、ようやく聖霊の元にたどり着いた。
「ゲイル?何処にいるの?」
その呼びかけに応えるようにゲイルは姿を現した。
その容姿は可憐で、人間とも魔物とも言い難い不思議な容姿をしていた。
どこか神々しさを放つゲイルと名乗る聖霊はカイトをじっと見ていた。
いや、ラグナシアを見ていたと言うのが正しいのだろうか。
「そなた。その剣…ラグナシアをどうして持っている?」
「その質問に答えたいが、俺には生憎記憶がないんだ。悪ぃな」
「ふむ。それは残念だのう。しかしそなたがラグナシアを持っているとなるともう一つの…」
「バレンシアの事か?」
「何故その名を?もしやバレンシアを持ってる奴をしっておるのか?」
「神威と名乗る男がそれを持っているぜ。黒くて赤いオーラを放ってる剣だろ?」
「あぁ、恐らくバレンシアで間違いだろう…。バレンシアとラグナシアがこの世にあると言うことは…」
「なぁ?レンの話しだと様子がおかしいとか言ってなかったか?全然普通な気がするんだが」
「きっと気のせいじゃないの?どう見ても普通じゃないの?」
「だよなぁ」
ルコがリツに小声で話している。その会話が聞こえたのかゲイルは咳ばらいを一つし、ルコの問いに答えてくれた。
「某は何もしておらんぞ。何かの勘違いじゃないかの?」
「ゲイル、確かに俺は波長が狂ってるのを感じたんだ!」
「レンの言う事は恐らく間違ってない、さっきからの異常気象もそれの影響じゃろ」
「貴女の仕業じゃなかったの?」
「某は人間が好きじゃ、人間を拒むような事はせん。何かの間違いじゃろう」
「でも、さっきから突風やつむじ風が酷いんです!」
「そなたは…」
「どうかしましたか?」
「名は何と言う?」
「初音ミクです」
「ミクで良いかの?そなたは《聖魔戦争》をご存知か?」
「はい、それで聖剣の力で貴女が生まれたのですよね?」
「ホホホ。そこまで知ってるなら話しが早い。人間の知らぬ話しをそなたらに話してやろうぞ」
「人間の知らない話し?」
ゲイルは咳払いをし、真剣な顔でミク達に語りだした。
「いかにも、聖霊と神しか知らぬ話しじゃ。聖剣と魔剣を持つ二人の名はアベルとカイン。血を分け合った兄弟じゃ」
「そんな話し初めて聞いたわ。しかし兄弟で殺しあうなんて…」
「人間の知らぬ話だと言っておろう。戦争を終結させたのは《ジェノサイドウェポン》と言うのも、間違ってはおらん。しかしその兵器だけじゃなく一人の少女が関係している。その少女は歌姫と呼ばれ、神に愛された娘なのじゃ」
「それと何の関係が?」
「その娘の歌は魔法とも言えぬ、神の力に良く似たものを持っていた。少女が怒りを込めた歌を歌うと天災が起こると言うように不思議な力を持っておった。少女の歌は神をも虜にする程じゃ、しかしその戦争でその娘は殺された。もう二度とあの娘の歌を聞けない神達は人間を怒りを覚えた。しかし神の力で人間を滅ぼす事は出来ない、だから人間に《ジェノサイドウェポン》を授けたのだ」
「そういう事だったのか…でもよ、何かおかしくないか?人間が滅びたのに《聖魔戦争》の事が後の時代に伝わってるなんてよ」
「神が世界を創り直したとしたら納得行くか?二度とそんな事を起こさないようにその史実だけを後生に伝えてるとしたら?」
その言葉に一同は驚愕した。あまりにも予想外の言葉だったからだ。
人間が言うと嘘に聞こえるが、聖霊が言うと信用せざるを得ない。
「嘘でしょ?ゲイル?この世界が創り物だなんて…」
「確かにそうだとしたら全部話が合うけど…」
「もしかして《1stBrake》もなのか?」
「《1stBrake》は間違いなく、人間が起こした愚行。某らは関係ない」
「ミクの歌もその子みたいな力があるんだ。何か知らないか?」
「まさか…ディーバの血族が?」
「ディーバ?私の名前の事?」
「ディーバとはあの子の名前じゃ、ディーバの刻印が身体に刻みついてるのがそうじゃ」
ルカはアームウォーマーを取り、腕の刻印を見せた。
「この事かしら?」
「ルカ姉…その紋章…」
ミクは背中を向け背中を向けると服をめくると背中にルカと同じ紋章が刻まれていた。
「…まさかミクも?」
「ミク姉もしかして…」
「俺達の腕の紋章…半分になってるけど、リンと合わせればミク姉ちゃんの背中のと一緒…」
その光景を皆が驚いていたが、一番驚いていたのはゲイルだった…。
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