博物館の宝石窃盗未遂事件から一夜明けた。青空が爽やかな昼時の学校の屋上。ゆかりは一人で自前の弁当を食べ終え、心地よいそよ風に身をゆだねるとそのまま目をつむって眠ってしまいそうであった。
「ゆかりさん・・・?」
お昼を食べ終えた心咲とつばさが階段部屋の戸を開けてこちらを除き見た。
「あ、二人とも!こっちこっち!」
ゆかりが手招きして呼び寄せると、自分が腰かけているフェンスの袂に二人を座らせた。
「屋上って普段鍵閉まってるんじゃない?」
と心咲が尋ねた。
「なんか今日に限って開いてたからさ。滅多にこらない場所だし、たまにはね?」
本当はゆかりがうさりんを使って解錠させたのだった。
「メール読んだよ」
心咲が言った。授業中ずっと気になっていたようだった。
「フット部も助っ人部員も、全部やめるの?」
「うん。ごめんね。最後まで我がままで」
「そっか・・・。残念」
と心咲は下をうつむいたが、直ぐにゆかりを見やる。
「建前っぽくなるけど、理由を聞かせてよ」
ゆかりはうなずき、空を見上げって一呼吸置いて口を開いた。
「新しい子が入ってくるでしょう。でも今の仮部員のままじゃ示しが付かない。だからそろそろ潮時かと思ったんだ」
「やっぱり大ちゃんの影響もある?」
つばさが申し訳なさそうな顔をしながら尋ねてきた。唸りながら間を置きつつ返した。
「無いって言ったらウソになるよね」
「でもゆかりちゃんがいたお陰で、部員全員の良い刺激になった。部長も大ちゃんも感謝してる。寂しくはなるけどさ」
彼女なりのありったけのフォローだった。でもそれはお世辞でも何でもなく、日頃から重ねてきた評価でもあった。
「そっか。ありがとう」
ゆかりはぺこりと頭を下げて二人に礼を言った。
「そんなことよりも・・・大ちゃんとの恋バナがどうなったか聞きたいんだけど?」
態度を一転させると、隣に座っている心咲の腕を肘で突く。
「本命はそっちか!」
心咲は笑いを含んだ叱りをゆかりにぶつけるが、意に介する様子もなく舌を出させて肩をすくませるだけだった。
「まあ、いろいろと相談に乗ってくれた人だから、い・ち・お・うは報告はしないとね、つばさ」
精一杯に皮肉を込めて一応だけ語気を強めて言った。
「そうだね」
二人はお互い目を合わせうなずいた。それは一つの合図であり決意でもあったが、この緊密さにはゆかりが期待していた以上の物、言い替えれば不安感があった。最初に口を開いたのは心咲だった。
「もう早良くんの事は諦める事にした。サッカー部に復帰できてうれしそうだったし、フット部の監督としても残ってくれる分、忙しくなるじゃない。だからもう入る余地なんて無いなって思ったんだ」
「そっか」
心咲はしんみりとした様子だったので、ゆかりはそれを包み込むような相槌を打った。
「博物館であった事件でうやむやになって、結局話も出来ないまま解散しちゃったけど、それでよかったと思うんだ。だから今日先輩たちにもそう報告しておしまいにする」
「うん。心咲ちゃんが納得したのなら、それで良いと思う」
今度は身を乗り出して心咲を挟んで座っているつばさに声を掛けた。
「で、つばさちゃんは?」
「心咲の場合は純粋に失恋なんだろうけど、私の場合は呆れと諦めの失恋かな。ずっと引き摺って来てたけど、可愛い女の子の意を踏みにじって我が道をしか見ていないのがもう許せんね。だから私はもっとパートナーを大切にしてくれる人を探す事にしたよ」
「うん。それがいい」
「例えば・・・心咲とか!」
つばさは彼女の腕に飛びつくようにしがみつき、身を寄せた。
「この子、意外と甘えんぼさんなんだよ」
心咲も満更でもない様子で背丈の低い彼女の頭をぽんぽんと撫でるのだった。
「私はね、心咲ちゃんの話を聞いた時は勇気を出してもらおうと思って応援したけど、つばさちゃんの話を途中で聞いた時から、もう恋愛を成功させる気はなかったんだ」
「恋愛相談とはなんだったのか・・・」
とすっかり部活動女子たちの慰み者となった心咲はゆかりを冷視した。
「まあそれでも新しい恋人が見つかったから良いんじゃない?」
とあしらうように放った一言につばさも食いついてきた。
「アイツの事なんか、私が忘れさせてあげる!」
腕だけではなく、身体に纏わりつこうとするつばさではあったが、さすがにうっとおしくなり頭を押さえながら引き離した。
「暑苦しい・・・」
「二人には失恋の傷を付けてしまった。それは私にも責任はある。でも二人とも物凄く仲良くなった上で前向きになってくれた事が何よりの喜びです」
「今こうしていると、何でもっと早くから仲良くなって無かったのかが不思議なくらい」
心咲が言うと、それに続いてつばさ。
「やっぱり月の雫の御利益?なのかな」
「昨日の怪盗ゆかりんのお陰なんじゃない?」
と、ゆかりがいたずらっぽく言った。するとノリノリで心咲が答える。
「ゆかりちゃんとゆかりん。二人の縁【ゆかり】に導かれた、って事でいいのかな?」
「ま、そういうこと」
昼休み終了の予鈴が校舎に響き渡る。そのチャイムと共にゆかりは飛び跳ねるようにぱっと立ち上がった。それに続いて心咲とつばさも腰を上げ、お尻に付いた砂を払っている。
「なんか、ゆかりちゃんちょっと変わった?」
何気なしにつばさが尋ねた。何かを意図している訳ではなかった。ただゆかりが怪盗ゆかりんだったのではないか、という冗談のような空想が働いたに過ぎなかった。
「ふふふ、ヒ・ミ・ツ・だ・よ・!」
もったいつけて言う彼女に二人はますます怪しがる。
「やっぱりいつものゆかりさんと違う・・・」
春休みの間一緒にいる事の多かった心咲が言うのだから、その疑念はますます大きくなるのであった。
「実は・・・昨日の怪盗ゆかりんは実はお前だったな!」
と心咲が指さしながら張り切って叫ぶ。
「確保じゃぁぁぁぁっ!」
それに呼応してつばさが捕まえようとするが、ひらりと舞って華麗に避けた。
「残念でした!でもちょっと色々あって、挑戦してみたい事が出来たんだ。だからフットも助っ人も終わりにするの!」
「もしかしてこれも・・・」
ニヤッと口角を上げていたずらっ子のようにゆかりは言う。
「ヒ・ミ・ツ・だ・よ!」
振り返り様にウインクしながら、人差し指を口に当てた。
「Hello. Mr. Makishima. I accomplish the mission. Pay the money out as usual.
【もしもし、環島さん。依頼は果たしたよ。報酬はいつも通りね】」
スカイタワーが遠望できる河川敷。暗い星空の下、流ちょうな英語で喋る黒髪ポニーテールの女が携帯電話片手に話している。
「・・・」
電話越しに男の声がする。
「・・・」
「あのゆかりんとか言うふざけた奴?遊びでやっているようにしか見えないから、同業者としては許せない」
「・・・」
「フィジカルポテンシャルはすごそうだけど、すべての面に置いて動きが素人。そのくせ得体の知れない兵器を持っているし。もしかしておたくらUSCO【ユスコ】が関わってる?」
「・・・」
「ご忠告どうも!」
嫌みたっぷりにねっとりと言い放つものの、既に電話は切られていた。
「寝てたのかな?」
寝起きではなさそうだったが、日付が変わって間もない夜更けではあった。
「ボスに報告してさっさと帰ろ・・・」
女は大きなあくびをすると、クライアントから支給された携帯電話を川に投げ捨てた。そして自前の電話を取り出した。
「ハーイ、ボス。仕事片付いたよ」
「・・・」
「クライアントにも報告済。送金はいつも通りだって」
「・・・」
「ありがとう。そう言ってくれるのはボスだけ」
「・・・」
「私も愛してるよ。おやすみ」
女は受話器越しにキスをして電話を切ると、さながら幻像が当たり前に消え去るように、宵闇に紛れ姿を消えた。
【結月ゆかり】怪盗☆ゆかりん! THE PHANSY #11(終)【二次小説】
6.空の青色のなかで
今投稿を以って当シリーズは終わりです。
まずは親方Pさんはじめ宵月秦さん、キマシタワーPさんら
動画作製者さんに厚く御礼申し上げます。
そしてここまでお付き合いいただいた皆様にも謝辞を。
今話のタイトル「空の青色のなかで」。
前作のエンディングテーマとしてお借りした
潮見ひろさんの「青色サウンドノート」の
ワンフレーズから頂きました。
ゆかりんは夜の印象が強いので、
変身前のゆかりは昼として描きました。
そんな対となる、昼の楽曲「青空サウンドノート」を見かけ、
前作のエンディングテーマとしてお借りしました。
ただでさえ厚かましいのにまた同じお願いをするのも
気がひけたので何もしていませんが、
素敵な一小節をお借りして締めとさせていただきました。
℃iel(シエル)さんの声と相まって爽やかで
心洗われるような楽曲です。
【オリジナル】空色サウンドノート ver.℃iel【潮見ひろ】
http://www.nicovideo.jp/watch/sm19626622
そして多賀は我慢していたお酒の解禁である。
作品に対する感想などを頂けると嬉しいです。
ではでは。またどこかでお会いしましょう。
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※※ 原作情報 ※※
原作:【結月ゆかり】怪盗☆ゆかりん!【ゲームOP風オリジナルMV】
http://www.nicovideo.jp/watch/sm21084893
作詞・作曲:nami13th(親方P)
イラスト:宵月秦
動画:キマシタワーP
ご本家様のゆかりんシリーズが絶賛公開中!
【IA 結月ゆかり】探偵★IAちゃん VS 怪盗☆ゆかりん!【ゲームOP風MV】
http://www.nicovideo.jp/watch/sm23234903
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【※※ 注意 ※※】
当作品は動画「怪盗☆ゆかりん!」を原作とする二次小説作品です。
ご本家様とは関係ありませんので、制作者様への直接の問い合わせ、動画へのコメントはおやめ下さい。
著者が恥か死してしまいます。
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