「う・・・」
ゲームが進んでいくうちにリンの表情が曇っていく。
それもそのはずだ、レンが本気を出したのだから。
一番初めにレンがあえてジョーカーを引いたのは、リンの実力を伺うためだった。
わざわざみやすい場所に引かせたいカードを持ってくるということは、こっちに引かせたいカードを引かせやすいと思う場所、つまり真ん中とかに持ってくるということをそのとき悟った。
案の定リンはその後も引かせたいカードは真ん中あたりにどうどうと出してきた。しかしそれが逆にレンを有利にさせてしまったのである。
自分が二枚そろえていないものは相手が持っている可能性があるということ。二人でやっていればなおさらだ。リンはその可能性を無視して、二枚ないものはいらないカードと認識していたようで、真ん中に出してきていたカードを引くとレンはたいてい二枚そろえることが出来た。
レンはそれを逆手に取り二枚そろっているものをあえて取っておき、それをうまい具合にリンに引かせることでリンの捨て札を抑制したのである。
その結果・・・
「あぁっ!もうレンってば強すぎるよぅ・・・」
「いや、原因は自分にあると思うぞ?」
リン:9枚(ジョーカー持ち)
レン:4枚
圧倒的大差が開いてしまった。こうなると勝機はほとんどない・・・
・・・と思われたが、
「いいもん!レンがそんなにイジワルするならリンだってイジワルするもん!」
「いや、イジワルってなんだよ・・・」
おそらく開いた大差のことをさすのだろうと思ってはいたが、ここでリンも本気を見せる。
―― ―― ―― ――
「・・・はぁ?」
「ふふん♪」
さらにゲームが進んで現在の状況は・・・
リン:2枚
レン:5枚(ジョーカー持ち)
レンが不利になっていた。
そう、リンがしたイジワルというのはいままでの戦法を180度変えることだった。
レンはここまで大差を広げてこれたのはリンがわかりやすいようにカードを出してきてそれを見破って引いてきたからだ。眠くてうまく回らない頭ではそれが限界だった。
しかしリンはそれをきっぱりやめることでレンの読みを鈍くしたのだ。カードの量が少なくなった後半では、今までのように二枚そろったカードはそう手札にこない。レンにいままでの戦法は使えない。
リンがそれに気づいているかはわからないが、勝負の流れは自然にリンのほうに傾いた。
こうして今に至る。
「どうしたのレン?さっきまであんなに余裕そうだったのに」
「う、うるせーな!ちょっとミスっただけだよ!」
そしてリンの番。その手に残っているのはハートのエース(赤)。
レンの手札にあるハートのエース(黒)を引き当てることが出来ればリンの勝ち、そうでなければまだ勝負の行方はわからない。
「う~ん・・・」
「どうしたんだよ、早く引けって」
さすがに5枚の中から特定の一枚のカードを引き当てるのはなかなか難しいことだ。
多分当たらないだろう、レンはそう思っていた。
「レンはどれがハートのエースだと思う?」
「オレに聞くなよ!」
「ん~つまんないの・・・」
といいながらも目ではしっかりハートのエースを見ていた。知らない間に引かれたら困るしカンニングなんてされたらたまらないから。
「よし!決めた!」
覚悟を決めたようにリンがレンの手札に手を伸ばす。少しの間の沈黙が生まれる。
多分当たらない、そう思っていても引ける、引かれるという確率は0ではない。その確信がレンの、はたまたリンの気持ちを急がせる。
そうして静かにリンがカードを取る。
「あっ・・・・!」
「・・・はぁ」
目を輝かすリンと残念そうにあたまを抱えるレン
そう、リンの引いたカードは・・・
「やったぁ!ハートのエース!!!」
「マジかよぉっ!!」
二枚のハートのエースを落としてリンの手札がなくなった。これでリンの勝ちだ。
「なんで、なんでわかったんだよ・・・っ!」
「だってレン、リンが話してるときもずっとカード見てたでしょ」
「!・・・バレてたのかよ・・・」
「そりゃあそうだよ!レンの目見てたのにこっちみてくんなかったんだから、すぐわかったよ♪」
「くそぉぉぉぉっ!!!」
これでは完全にレンのミスだ。多い手札と自分の過信にしてやられた。完敗である。
「それじゃあ罰ゲーム♪なんか一ついうことを聞いてもらわないと」
リンがいっそう気の重くなることを言う。
リンのことだ、きっと「楽しかったからもう一回しない?」とか「絶対に寝かせないから♪」とかいう感じのを用意してるだろう。
しかし負けたのは自分。リンをナメていた自分がいけない。
「あぁ・・・もう好きにしてくれ・・・」
いさぎよく従う。せめてもの礼儀というのはこういうことだろう。なにがきてもかまわない、そんな気分だった。
しかし、リンはレンの思っても見ないことを口にした。
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