三人で細長い通路を駆け抜けていく。
これからどうするか、そう脳内で模索を続けながら。
「ワラ、ヤミ。で、脱出の目処は立っているか。」
「ええ。ちょっと大げさな方法かもしれませんが。」
「大げさっていうか、大胆な感じ?」
足を止めず、ワラとヤミが答える。
「ほう、どうするんだ。」
「ここに来る前に、ストラトスフィアのマスドライバーに続く格納庫で大型の二足歩行戦車を発見しました。」
二足歩行戦車と言うと、あのソラが搭乗したようなものがまだあるというのだろうか。
「もしかして、それを・・・・・・。」
「ええ。敵から奪い、それで脱出します。」
それを聞いた瞬間、俺は何もない通路で躓きそうになった。
とても頭脳明晰なアドバイザーの口から出てくる言葉とは思えない。
「俺達全員を、どうやって乗せる気なんだ?!」
「まぁ、デルが操縦で、あとはみんなどっかにしがみ付いてりゃいいでしょ。」
と、ワラが口を挿む。状況がまるで理解できていない、呑気な口調だ。
しかも、今度もまた俺が操縦せねばならんのか。
「とにかく、今はそれ以外に有効な方法がありません。状況なら全て理解しています。この基地を、テロリストが核で爆破する可能性もあります。空中の戦闘機も危険です。地上での移動手段なら、これが最適です。」
ワラが言い切るころには、俺達は格納庫前の扉に迫っていた。
俺が扉の左側に、ワラとヤミが右側に張り付いた。
「・・・・・・この中にあるんだな。」
「はい。」
「分った。一気に突入して、内部を制圧。それから二人は周辺の警戒を頼む。俺はすぐに例の兵器の起動に取りかかる。」
「了解。」
二人と言葉を交わした後、俺はアイコンタクトを送り、突入のカウントダウンを始めた。
三・・・二・・・一・・・。
次の瞬間、俺が扉の開放スイッチを押すと同時に、二人が格納庫内部へ突入し、俺も両手にサブマシンガンを持ち、彼女達に続いていった。
案の定、格納庫内中央に、VTOLの脱出時に見たあの巨大な怪物、そしてそれを取り囲むようにして、重装甲の大型アンドロイドが多数配備されている。
「こりゃ簡単に乗せてはくれそうにないな・・・・・・。」
そう呟いた時、アンドロイドが即座に俺達の存在を確認し、容赦ない一斉射撃を始めた。
弾丸の豪雨を回避するため俺は遮断物に身を隠し、二人はそれぞれ鎖と鎌で弾丸を弾き飛ばした。
あの装甲では、通常の弾丸は歯が立たない。
俺はバックパックから重音テトから譲り受けたレーザー砲、R-LARを取り出し、アンドロイドの一体に向け照準を定めた。
親指の位置にあるエネルギー収束のボタンを押すと、内部のフィンが回転する音が聞こえ、砲身に光が収束されていく。
そして電子表示パネルの表示が発射準備の完了を知らせ、俺は引き金を引いた。
ほんの軽い反動が肩を伝わり、照準の向こうで眩い光線がアンドロイドを貫いた。
アンドロイドの胴体は装甲ごと着弾点から溶解し、大きな風穴を作っていた。
これなら、奴らを倒せる。
P-LARでアンドロイドを一体ずつ始末しながら、中央の兵器に近づいて行った。
「そぉれっ!」
「シュッ!!」
両側では、ワラの操る鎖の大蛇がアンドロイドを締め上げ、噛み付き、次々と砕いていく。
ヤミの黒いコートも全ての攻撃を無力化させ、そして巨大な鎌の一振りで、敵を一刀両断していく。
俺は敵の中に、黄色いコンテナを背負い、サイレンを鳴らしているものがいる事に気がついた。
「ワラ、何だあれは?」
「あれは自爆型!あいつは何十秒かで自爆するから、すぐに倒して!!」
「了解!」
俺は目の前に立ちふさがり、銃口を向ける自爆型アンドロイドをレーザーで貫き、次に砲身で殴りつけ、なぎ倒した。
そして例の兵器の前にたどり着くと、P-LARをバックパックに収め、コックピットに続くタラップを上り、頭部にあるコックピットに飛び乗った。
アビオニクスを見る限り、幸運なことにヘリや戦闘機よりもシンプルだ。
これなら起動に迷うこともない。
俺は燃料系統のスイッチに手を伸ばしたその時、コックピットの前に小型の戦闘用アンドロイドが飛び乗り、俺に銃口を向けた。
だが、俺が銃を抜くよりも遥かに高速で、一瞬目の前に電流の様なものが走り、そして次の瞬間には、アンドロイドの上半身が、腰から滑り落ちていった。
アンドロイドの下半身が視界から消え去ると、目の前に見覚えのある、黒いパワードスーツに身を包んだ、少女の姿が舞い降りた。
「デル。待たせたな。」
「ミク!」
電流の迸る刀を手に、雑音ミクが俺の目の前に現れたのだ。
「ほかの皆は?!」
「もうそこに来てる。」
コックピットから顔を覗かせると、タイト、キク、シクの三人が、群がるアンドロイド達を次々と破壊していく。
「わたしも敵を食い止めてくる。」
「分った。頼んだぞ。」
すると電流と共にミクの姿が消えた。
俺はコックピットのハッチを閉じ、再びこの怪物の起動に取りかかった。
電源、燃料、コンピューター、レーダー、ライト、無線等の制御盤にあるスイッチを片端からオンに押し上げ、全てを一斉に起動させた。
機体のセンサーが外界の様子をスクリーンに映し出し、メインコンソールに電源と言う命が吹き込まれていく。
そして俺が両側のスティックを握り、一気に前方へ押し込んだ。
その瞬間、鋼鉄の怪物が恐竜の如き咆哮を上げ、一歩、その足を前へ踏み出した。
動ける。
俺は外部スピーカーのスイッチを入れ、続けて叫んだ。
「みんな!こいつはもう動ける!早く脱出するんだ!!」
『分った!だが俺達はお前の背後を掃除しておく。先に行け!!』
無線にタイトの声が聞こえた。
そして次に、網走博士からの無線が届いた。
『デル君。僕だよ。ハデスを奪ったようだね。』
「ああ。だが、ここからどこに向かえばいい?」
『君の目の前に、大型通路の扉があるはずだ。先ずそれを破壊して、そこから外に出られるよ。』
「分った。」
俺はスティックのボタンで機体に内蔵されたミサイル発射装置を選択すると、ロックオンもせぬまま目の前の巨大な扉に発射した。
爆炎と共に敵のアンドロイドが吹き飛ばされ、煙が引くと、扉が大きく引き裂けていた。
俺は裂けた扉の向こう側へと機体を前進させた。
一歩一歩大地を踏みしめるたびに振動が足元から全身を伝わっていく。
今度は俺が網走博士に無線を入れた。
「博士!こっちでいいんだな?!」
『うん。大丈夫!その方向に敵はいないよ。シーレックスを蹴散らして、一気に突き進むんだ!!』
「了解!!」
俺は機銃掃射で敵を蹴散らし、そしてその二本足で踏み潰しながら、さらに通路の先を突き進んでいった。
突き進むうちに、通路の先に一筋の光が眼に映った。
あそこをくぐれば、俺達は基地を脱出し、この任務は終わる
そうだ。これでようやく、俺は探し求めていた、答えを見つけることができる。
だが、この光の先に、どのような答えが待っているのだろうか。
考えてみても始まらない。
今はただ、突き進むのみだ。
俺はさらに歩みのスピードを速め、その光の射す先へと向かっていった。
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