「こんにちはー、・・・なんか久々だなぁ、元気してたかい?」
そう甘ったるく、聞いていると気でも狂いそうな声がして、セトがドアを開けて入ってきた。
「お、セト。久しぶりだな」
アカイトは、横目で挨拶する。
「しーっ、今は静かにですよ」
マニが、口の前に人差し指を立てて、セトに言う。
「へえ、パズルか・・・。ボクも、小さい頃はよく遊んだなぁ」
セトは、アカイトの前に散らばったパズルの欠片を見て、遠い昔を振り返るように呟く。
「・・・この人、誰?」
「ノームちゃん、この人は甘音セトさんです。・・・セトさん、この子は調律ノームです」
セトを見て首を傾げるノームに、モコが説明する。
「・・・・初めまして」
モコの言葉に、ノームは軽く挨拶する。
「初めましてだなんて、堅苦しいよ、ノムたん」
「ノムたn・・・!?!」
甘い声で挨拶するセトに、ノムたんもといノームの顔は固まる。
「もう、いきなりあだ名で作って呼ぶの、やめた方がいいわんよ」
ナエルとじゃれていたワンは、セトに言う。
「だめなの? ノムたん」
「・・・・!」
ノームは、セトに顔を覗かれて、顔を赤くしてそっぽを向く。
「あれ、ボクのこと好きなのかなぁ? じゃないと、そういう反応はしないはずなんだけどなぁ・・・?」
首を軽く傾げるセト。一方、ノームの顔は赤いまま。
「・・・これ」
そこへ、ルワがやってきて、セトとノームに手に持っていたものを差し出した。
「・・・ありがとうございます」
ノームはお礼を言って、受け取ったが、
「だめだよぉ? こんな渋いもの持ってちゃあ。今は洋風が好まれてるんだよ?」
セトは手を振って、断った。
「・・・おいしいのに」
そう言うと、残っていた栗ようかんをおいしそうに食べる。そんなルワを見て、
「全く。こんな可愛い顔してるのに、和菓子が好きとはねぇ。意外な世の中だよ」
ため息をつくセト。
「そういえば、こんなやり取りを前にもしたよね? ・・・確か、打ち上げパーティの時にさ」
「・・・」
セトの言葉に、ルワは無視してようかんを食べまくる。
「なつかしいにゃんねー」
「その時に、ルワくん、洋菓子食べたよね!」
「・・・食べさせられた、だよ、ナエル。かわいそうだったよ、ルワ」
ナエルの言葉を聞いて、雨羽は呟く。
「あの時の表情、可愛かったなぁー・・・。そう、あの時は、夏の涼しい夜でね・・・」
夏祭りinファイヤーウォークズフィスティバルも無事終わり、バンの研究所では、打ち上げパーティが開かれていた。そこでは、おなじみのメンバーたちや、スタッフ、さらには友達関係の人たちが来ていて、おおいに盛り上がっていた。
そんな中でも、いくつかの騒動が起きた中でも、やはり筆頭におくべきは、ルワの洋菓子騒動。というのも・・・、
「こいつは、俺の友達の甘音セトだ」
ラクは言って、隣にいる茶色い髪をした青年に自己紹介するように促す。
「こんにちは。ボクは、セト。好きなことは、お菓子作りと細かい作業だよ。それと、好きな食べ物は洋菓子。ちなみに、大嫌いなものは和菓子だよー」
妙にすっとぼけた雰囲気のセトという青年はそう高らかに自己紹介した。
「お菓子作りで、洋菓子が好き・・・ということは、ケーキを作ったことってあるんですか?」
ジミがたずねる。
「あるよ。っていうか、ケーキ作りは基本中の基本、初歩中の初歩だからねー。・・・そういうキミは、ケーキ作ったことは?」
「ありますけど、あんまり手の込んだものは・・・ちょっと」
「じゃあ、今度ボクのとこにおいで。少し難しいケーキの作り方教えてあげるよ」
「あ、はい・・・!」
嬉しそうに顔を綻ばせるジミ。それを見たレトが、
「・・・僕も、行く」
ジミの服の裾を掴んで言う。
「ん? キミも? いいよ、洋菓子が好きなんだね。・・・おや?」
「・・・・♪」
セトは、どら焼きを食べながらご機嫌な様子のルワに近寄る。
「こんにちは、キミの名前は?」
「・・・ルワ」
名前をたずねられたルワは、一言答える。
「そっか。ルワか。・・・キミ、洋菓子好きかな?」
「・・・和菓子の方が、好き」
「・・・・・・」
ルワの返事を聞いたセトは、黙ってどこかに立ち去り、すぐに戻ってきて、
「これ、ボクが作ったものなんだけど、食べてくれるよね?」
そう言って、片手に持ったシンプルなショートケーキを載せたお皿をルワに差し出す。
「・・・いや」
ルワは意志を貫き、首を横に振る。
「そう言わずに、食べてみてよ」
セトは笑顔のままに、ルワにすすめる。
「・・・・・・」
ルワは無視して、どら焼きをかじる。
「・・・」
そこへモコがやって来て、
「はい、あーん」
ショートケーキをフォークで一口分の大きさに分けて、ルワに言った。
「・・・・」
釣られてルワも、口を開ける。そうして、
ぱくっ
「・・・っ!!」
見事、和菓子の好きなルワが初めて洋菓子を食べた瞬間だった。
「へぇ、ルワくんはキミの言うことだったら、つい聞いちゃうんだねー」
セトは興味深そうに、モコを見る。
「え? そうなんですか?」
「・・・・・・」
顔を真っ赤にして、今にも泣きそうな表情をするルワ。
「ね?」
「え・・・」
「・・・・・・」
ルワは、ショートケーキのお皿を指差し、思いっきり睨みつける。
「・・・ん? そんなにケーキ食べたことが、いやだったのかな?」
「多分、私じゃなくて、そっちの意味だと思いますよ」
首を傾げるセトに、モコは苦笑いして言ったのだった。
「・・・という訳で、いやー、あの時のルワくんの表情、すっごく可愛かったなー」
一部始終を語り終えたセトは、すっかりデレたように呟く。
「今度は、ジミちゃんと作ったケーキで、またおもてなししてあげるよ」
「・・・・」
ふいっと、そっぽを向くルワ。
「じゃあ、もし、モコちゃんがあーんしてくれたら、食べるかい?」
「・・・・」
そっぽを向いたルワが少しの間逡巡するのが分かったセトは、
「分かった。じゃあ、ボクはこれで帰るよ。・・・・あ、ジミちゃんとキミもおいで」
「はい!」「うん」
セトは、ジミとレトを連れて、部屋から出て行ったのだった。
コメント0
関連動画0
ご意見・ご感想