[3:とある日、大切なモノ-zärtlich-]

手帳には、一週間前の今日に赤い印。
[アスカが家に来た]
よく友達に、「何でそんな几帳面なのに頭悪ぃんだよ!」と言われる。
あれから一週間か・・・
アスカは、かなりの言葉を覚えたと思う。
僕に口調が似てきてしまった気がするけれど・・・。
彼女がいると、毎日が楽しかった。
ひとりぼっちは嫌だから。

*

ボクは日が変わるごとに、
日めくりカレンダーというのをめくった。
めくる度に、幸せな気分になった。
捨てるのは何だかもったいなくて、
裏に今日あったことを書いて
お菓子の入っていた箱に詰めていった。
小さな箱だけれど、まだたくさん入る。
ボクの大切な宝箱。

*

「アスカ、今日は友達が家に来るけど良い?」
朝食を食べ終え、今は身支度をしている。
「ともだち?」
アスカはすることがないらしく、足をぶらぶらさせながら椅子に座っている。
「前に話した奴だよ。」
「“ゲン”?!」
どうやら、名前を覚えていたようだ。
「そ、学校の帰りに連れてくるよ。」
「うん!楽しみニ待ってル!」
話に聞いていた友達に逢えるのが嬉しいみたいだ。
なんだか僕も嬉しくなってくる。


*


「ただいまー」
「お邪魔しまーす!」
源(ゲン)は僕の小さい頃からの親友だ。
ぶっきらぼうだけど、良い奴。
「始めまして“ゲン”さん。ボクはアスカって言いマス。」
僕には敬語じゃなくて良いって言ったことをきちんと覚えていたようだ。
「始めまして、アスカちゃん。話は聞いてるよー!
 えっと、彼女だっけぇ?」
「ち、違うって、何聞いてたんだよ!」
・・・よくからかわれてます。
「“カノジョ”って何ですか?」
「恋人の女の子ってことだよー」
「何教えてるんだよ!」
本当に源は僕をからかうのが好きだ。
アスカの頭の上はハテナだらけだろう。
「“コイビト”?」
「お互い愛し合ってる男女?」
「ソノ言葉ヲ保存シマス。」
あぁ、源は話し始めると止められない。
アスカも保存しちゃってるし・・・。
「もう良いだろ・・・。玄関でいつまで立ち話してるんだ。」
「ほーい」

リビングのソファーに座って二人でテレビゲームを始める。
アスカは興味深そうにテレビを覗き込んでいる。
「だー!何でゲームそんなに上手いんだよ!」
「いや、お前がヘタなだけだろ?
 ごめん、ちょっと僕トイレ言ってくる。」
「了解」

「アノ、“ゲン”サン?ゲンサンはキノウの事どう思ってるんデスカ?」
「んー・・・?あーそういえば、キノウって呼ばれてるって言ってたな。
 大好きだぜ?親友なんだからな!」
「“ダイスキ”?“シンユウ”?」
「大好きって言うのは、好きのもっと上だ。
 親友は友達の更に上!」
「ソノ言葉ヲ保存シマス。
 ボクは、歌が好きデス。ソレと同じデスカ?」
「俺のはそれと一緒だな。」
「ボクのは違うんデスカ?」
「俺には分かんねぇけど、お前のは愛なんじゃねぇの?」
「“愛”?言葉ハ登録サレテイマスガ、意味ガ登録サレテイマセン。」
「俺は説明しないぞ!照れる!」
「・・・“照れる”?ソノ言葉ヲ保存シマス。
 アノ、ゲンサンはボクと“親友”になってくれマスカ?」
「・・・親友ってそういうものじゃないと思うけど。
 まぁ、友達って事で宜しく。」

「何の話してるの?」
帰ってくると、二人の話し声が聞こえる。
「ともだちー」
「へぇー、友達になったのか?」
「そう!ともだち!」
アスカはとても嬉しそうで、源は照れくさそうに笑っていた。

*

ゲームの音と話し声が響く部屋に、今時の音楽が流れる。
「あ、母さんから電話だ。ちょっとゴメン」
鳴ったのは源の携帯電話。
「ほい。分かったよ。」
ちょっとめんどくさそうな声で暫く話した後電話を切った。
「なんだって?」
「今日は父さんの誕生日なんだから、父さんが帰ってくる前に戻ってよー、って。」
あきれたような言い方だが、やはり笑顔だった。
彼の家族は話を聞くかぎり仲が良いらしい。
「じゃあそろそろ帰った方がいいんじゃない?」
あわてて帰る仕度をする。
「ゲンサン帰るの?」
「あぁ、今日はありがとな!」
アスカの頭を軽く撫でる。
「急いだほうがいいよ?」
時計の時間は、いつもお父さんが帰ってくると言う時間に近づいていた。
それと、何となくアスカに触れる彼にむしゃくしゃした。
「え?ってもうこんな時間か!母さんももっと早く電話しろよー!」
彼は、僕にないものを持っている。
「本当に家族と仲良いよねー。じゃあ、また明日!」
「何か、悪いな。」
「・・・?いや、お父さんの誕生日なんでしょ早く行ってあげなよ。」
僕には、なぜそんな深刻な顔をしたのかよく分からなかった。
「そうじゃなくて・・・。何でもない!とりあえずまた明日な!!」
彼は走って自分の家へと走っていった。


「キノウ。“オカアサン”と“オトウサン”って何?」
さっきの会話でずっと疑問に思っていたのだろう。源が帰ってすぐに僕に聞いてきた。
「自分を産んでくれた人のことだよ。家族だ。」
「ソノ言葉ヲ保存シマスボクの家族は?」
「アスカの・・・常盤さんがお父さんかな。」
たぶん作ってくれた人がお父さんになるんじゃないだろうか。
「お父さん!!キノウのは?」
「僕のお父さんとお母さんは・・・」
母は僕が僕が産まれてすぐに、父は3年ほど前に、亡くなった。
「キノウにはいないの?」
「いないわけじゃないよ。家族は誰にでもいるんだ。距離はそれぞれだけど。」
亡くなった、と、いないのは違う。僕にも両親がいる。
「距離はどのくらい?」
「僕にとっては少し遠いけど、手を伸ばせば届かない距離じゃないんだ。」
アスカにはきっと分からないだろうと思って、少し皮肉を込める。
もちろん、手を伸ばしても両親には届かない。
でも逢いに行く方法なんてたくさんあった。まぁ、天国とか、そういったものがあればの話だが。
「キノウは、まだ手を伸ばさないで。」
「え?」
「キノウの手は、ボクがつないでるから。それに、届かなくても分かるもん。」
そう言ってつながれたシリコンの皮膚は、
ぬくもりが感じられるような気がしてなぜか懐かしかった。
夜空のような色のガラス玉は、僕を魅了して離さない。
「そうだね・・・分かる。」
彼女は、“お父さん”である常盤さんに似ているのかもしれない。
知らないことばっかりなのに、大事なことを僕に教えてくれる。

*

ボクはきっと、キノウのことが「好き」。
ううん、そうじゃない。
ボクはキノウのことが「大好き」。
でも、それを音にして体の外に出すことができない。
これが「照れる」なのかな。
でも、今言葉にしなくてもきっと大丈夫。
いつか言えるのかな。
少し不安だけど、時間はたくさんある。
待っていてほしい。


*

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【メモリー忘却ループ。】3:とある日、大切なモノ-zärtlich-【オリジナル小説】

続きは後日あげます。

閲覧数:64

投稿日:2012/02/13 19:44:09

文字数:2,839文字

カテゴリ:小説

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