らすとすまいる(小説)
(Image:KAITO)
*・゜゜・*:.。..。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*
「マスター、桜の木にツボミができてますよ」
「そう、冬も、もう終わりか」
僕は、マスターのベッドの横に立って、包帯の巻かれた瞳にそっと触れた。
マスターの体が、びくんと震える。
「KAITO。いきなり触らないでって言わなかったっけ?」
「ご、ごめんなさい。つい」
「いいよ。何度いっても直らないから、もうあきらめた」
ほっぺを膨らませてから、意地悪そうに笑うマスター。僕もつられて“えへへ”と笑った。
まだ少し冷たい風が、カーテンを揺らす。
「ねえマスター」
僕は、ベッドの横に置かれた丸椅子に腰掛ると、小さな声で言った。
「どうしたの?KAITO」
「歌ってもいいですか?」
「KAITO。昨日も言ったけど、ここは病室だから」
「わかってます!だけどっ」
僕は、マスターが最後まで言い終わらないうちに、さっきより大きめな声で言った。
たくさん歌いたい。
マスターがもうすぐ居なくなってしまうことがわかっているから、なおさら。
「マスターに、聞いてもらいたい。僕はボーカロイドです、歌がなければ生きていけない。マスターがいないと、僕は生きていられないんです」
「KAITO・・・」
「マスターだって、わかっているでしょう?もうすぐマスターは!!」
そこまで言いかけて、僕ははっと息を呑んだ。
それ以上は言っちゃいけない。
わかってるんだ、わかっているのに。
「ごめんねKAITO」
「マスター・・・」
「心配しなくてもいいんだよ。KAITOのことは、あの人に任せてあるから。私がいなくなっても、KAITOは歌い続けることが出来る。大丈夫だよ」
マスターの声は震えていた。だけど必死に、それを隠しているみたいだった。
胸が痛い。
「違うんです。僕は、歌えなくなることより、マスターがいなくなることのほうがつらい。僕のマスターは、マスターだけです。他のマスターなんていらない、僕は・・・」
「ありがとう、でも、私のせいでKAITOが歌わなくなってしまったら、私は、死んでも死にきれない」
「マスター!!」
「ごめん、言わない約束だったね」
「ずっと、マスターと、マスターとずっと一緒にいたい」
僕は、こらえきれない感情を押し殺すのに必死だった。
力いっぱい握り締めていたシーツも、もうしわしわになっていた。
人間だったら、僕が人間だったら、涙の一つでも流していたのかもしれない。
「KAITO、それは」
「お願いします!僕の、最初で最後のわがままです。それでも、それでもダメですか?」
「KAITO、私がそばにいなくても、KAITOはKAITOのまま。私はずっとKAITOのそばにいるよ、KAITOのココに」
マスターは自分の胸をぽんぽんとたたくと、少しだけ微笑んだ。
「マスター・・・っぁ」
マスターに腕をぐいとつかまれて、そのまま僕は、マスターの上に倒れこんだ。
マスターの息づかいを感じるほど近い場所。
「ごっ、ごめんなさいマスター。あっ、あのっ」
「KAITO、KAITOは、私がいなくても大丈夫だ。ほら、私の声を、私の姿を、私の感触を、よく記憶しておくんだよ?そうすれば、いつでも会えるから」
そのままぎゅっと抱きしめられた。
マスターは、あったかくて、いいにおいがした。
「・・・はい」
「いい子だねKAITO」
マスターの、手が、僕の髪をくしゃっとなでた。
マスターの声、ぬくもり、思い出。
全部僕のメモリーにきざまれている。
「「ずっと、ずっと一緒です」」
これからも、永遠に。
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