「ほほぉ。このIHコンロを修理してくれ、と? どこも壊れていそうにはないけれど」

「しるるさん曰く、ただの持ち運び用で機能がいろいろ簡略化されてるから普通に使えるようにしてもらって、と」

「ふーん……そりゃつまりあたしの自由にしていいってこったね?」

「ま、まぁそうなるのかな……」





『きらーん』という擬音が世界で一番似合いそうな顔をしたネルに、ゆるりーさんもたじたじだ。

相手の押しを流れるように返すのはゆるりーさんの特技。こないだも構ってほしい雪りんごさんとあゆみんさんを軽くあしらい、茶猫さんに至っては物理的に流したと聞いた。

そんなゆるりーさんと言えども、悪意のなさすぎる純粋なネルの押しを受け流すのはちょっと難しいようだ。


「それじゃあちょっと行ってくるねー!」


シュン、と音を立てて、ネルはPCの中へと姿を消した。


「くく、流石にネルの押しは流すには強すぎるか」

「純粋な想いを流したら可哀想じゃないですか。あんまり変な事言ってるとターンドッグさんもてぃあちゃんとおんなじ目に合わせますよ」

「おお、こわいこわい」


私の場合は柱の角に叩き付けられそうな気がします。まぁそのくらいで割れる頭じゃないがな!


「おっ待たせ―!!」


PCから弾き出されるようにネルが飛び出してきた。今回の改造時間は15秒でございます。


「はいこちら! 『ネル印のIHコンロ・ルナティック』でございます!」

「……ルナティック?」


差し出されたIHコンロは、相変わらずポータブルな大きさではあるが、四辺に銀色のボンベが接続されていた。


「普通に使う分には一見ただの持ち運び用IHコンロ! ただしスペックは通常のIHコンロ以上!! 加えてぇ!! 火事が起きそうになった瞬間自動的に四隅に装備された噴射口から液体窒素が噴射されて極低温まで冷却消火する優れもの!!」

『危なっ!!!』


思わずゆるりーさんとハモってしまった。しかしこれは危ないだろう……。

因みにIHコンロは通常火事が起きないような自動管理を行うが、鍋底が歪曲していたりすると正確に温度を調節することができずビッグバァァァンすることがあるらしい。だからと言って液体窒素で消火ってのもどうかと思うがな。


「一応消化機能のオンオフを切り替えることもできるから安心してね!」

「“一応”なんだ……」


と、3人でだべっていると。


「ネルちゃんいる―?」


にゅ、と扉の影から顔を出した人影が。しるるさんだ。


「ほえ? 珍しいねぇ、しるるさんが自分から顔出してくるなんて」

「えへへ、実はねー……」





「ちびボカロ……作ってほしいなぁ……なんて」





『!!!!!』


ゆるりーさんが気付いたかどうかは知らないが……一瞬にして部屋の空気が変わった。


そうだ―――――この空気は。



ネルの本気スイッチが入った時の―――――





「……しるるさん」

「え、え、どうしたの?」


『大好き――――――――――――――――――――――っっっ!!!!』


カウンターからロケットのように飛び出して、しるるさんに抱き付いた。……あれ、なんかデジャヴ? ゆるりーさんも大体同じこと考えてそうな顔をしている。


「え、大好き!? じゃあ付き合う?」

「レン君との重婚でいいのならば是非!!」

「ここ日本!!(汗)」


あのしるるさんすらツッコミに回させるハイテンション、流石や。


「あはは、冗談冗談。で、どんなオーダーをご所望で?」

「えっと。めーちゃんで、普通の頭身で、普通に言葉喋るタイプで……」


幾つかの注文を承った後、時空転移用PCに手をかけて―――――ふと立ち止まって振り返り。


「3時間はかかるわ。適当にお茶して仕事して待ってて」


一瞬その場の全員の顔に驚愕の色が浮かび上がる。秒と分。それがネルの改造の単位だった。今まで一度だって―――――少なくともタイム予告で『時間』という単位を使ったことはなかったのだから。


(……本気だな)


飛び込んでいく寸前ちらりと見えた顔は。

スターシルルスコープを作った時の狂ったような笑顔とはまた違う。


真に自分の限界に挑戦する冒険者の顔。


何より、『マスター』の領域に迫ろうとする『弟子』の顔だった。





3時間後。


ネルが戻ってきたという連絡を受けて、しるるさんが再び俺の部屋に姿を現した。


「ど、どう?」

「ふー……そこのバスケットの中にいるわ」


疲労困憊の状態で指さしたバスケットは、がたがたと不審な揺れ方をしている。

おそるおそるそのバスケットを開けるしるるさん。

すると――――――――――



『……………(じーっ)』

『!!』



かごの中からじーっと見上げてくる手のひらサイズのちっさいメイコを見た瞬間、しるるさんの動きが止まった。

そしてしばらくして満面の笑みで振り向いて――――――――――


『きゃわわわわ!! 妖精さん! 妖精さん!!』

「はいはい可愛くて嬉しくて仕方ないのはものすごーく良くわかりましたからお願いですから日本語喋ってください」

『むり!』

「うぉい」


表情がとろけている。そのうち物理的にとろけそうな感じですっげ―怖いぜしるるさん。


「……さすがだな、ネル」

「あん?」


足元でへたり込んでいるネルにねぎらいの言葉をかけると、少し不満げな顔で声を返してきた。


「……何か不満なところがあるなら、今のうちに言った方がいいぞ?」

「え、あたしいまそんな顔してた? ……違う違う、あの子は『メイコ』としてならトップクラスの出来よ。あれ以上の物はできないわ」

「じゃあなんだよ」

「……もし頼まれたのがレン君だったら、もっとすごいのができたんだけどなぁって……」

「安定だな……………」





いつかレンのちびボカロを頼まれた時。こいつはどうなってしまうのか。

来てほしいとも思う半面、そんな日は来てほしくないとも思ってしまう俺がいた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

dogとどっぐとヴォカロ町!~改造専門店ネルネル・ネルネ出張版⑧~

最近ネルが本気出しまくっております。
こんにちはTurndogです。

まぁ修理って言っても、元々壊れてるわけではないからね。
事実上の改造だよね! ってことで消火機能を付けました。
IHコンロの火事は調理器具に左右されるため起きにくいですが、その分不意打ち喰らって消火活動が遅れ大火事になる危険性があります。実際の世界ではこんな便利なIHコンロは作れないので皆さん自身が気を付けましょう。

そしてしるるさん崩壊しましたごめんなさい。
でもこんぐらい暴走してもおかしくなさそうな気がしたので(さりげなく失礼だな
イズミさんあたりレンのちびボカロでも頼みませんかねー?
多分ネルちゃん本気出し過ぎてすさまじいのが出来上がると思うよ?w

閲覧数:135

投稿日:2014/04/05 21:50:54

文字数:2,542文字

カテゴリ:小説

  • コメント3

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  • ゆるりー

    ゆるりー

    ご意見・ご感想

    IHコンロ危険だwww

    そしてちびボカロ…
    私もちょっと考えてることがあります。
    我が家ボカロでいいと言った私ですが、一人だけ設定が存在しない子がいたので。

    2014/04/06 18:55:26

  • しるる

    しるる

    その他

    まってましたあああああ!!!

    妖精さんのくだりは何も不自然さはないです(真顔
    というか、ネルちゃんが重婚でも私は別に気にしません
    というか、役所に提出しなくても一緒にはいられます(おいで

    嬉しいので、特別にちょっとしたものをはい
    【ちょっとしたもの(5)】
    *他人の家で「大したものじゃないですけど」といって出すやーつ

    2014/04/06 01:21:11

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      お待たせしましたああああ!

      まぁ……ないだろなと思いました((
      書いてる途中にそれも気にしないかもなとも思いました((
      (正気に戻ったネルは逃げました)

      まぁまぁ?
      これはこれは結構なものを……

      2014/04/06 11:50:29

  • 雪りんご*イン率低下

    雪りんご*イン率低下

    ご意見・ご感想

    安定のネルちゃんですねw
    私も早く兄さん作って欲しいっすwww←
    でもなかなか小説が出来ないんですよね…orz

    2014/04/06 00:51:13

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      まだセール中だからねー100ポイントのうちにガリガリ書いて手に入れるといいよ!w
      しかもかなりあ荘にはカイト廃がもう一人いるからねー早くしないとねぇ(追い詰めんな

      2014/04/06 01:28:44

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