目を開けて、初めて目にしたもの。
それは君で、私だった。
†
眸に映る、私の首に回された一対の手。それは私とは反対側の「向こう」から伸ばされているように見える。
どこまでも白い、白い手。
以前にも、こんな白い手を見たことがあったような気がする。その時、人形のようだと思った事を覚えている。
それはただ人の形を取っているだけで、そこに生を見いだす事はできなかった。
あまりにも白い、その色のせいだったのだろうか。
いや、かつて見た白と、今目の前にある白は、私には同じ属性のものに見える。そして今ここにあるそれは、親しく、優しく、私の心を落ち着かせてくれる。
ならば、白い手の人の、表情のせいだったのだろうか。
いや、それが誰だったのか、私は顔を見た覚えすらない。どんな顔の人物であったのかすら覚えていないのに、人形のような表情であったことを覚えているはずがないだろう。
かつてのことは判らない。けれど今私が見ているそれは、私の片割れのもの。それは判っている。彼の姿──顔は見えない。けれどこれは彼の手だ。
私が「こちら」ならば彼は「向こう」で、彼が「こちら」ならば私は「向こう」。
私達の、それは謂わば宿命。
「向こう」から私に向かって来るのは彼だけで、今この手は「向こう」から伸ばされている。だからこれは彼の手だ、と主張したとして、それは根拠になるのかな? 私にとってはそれが総てなのだけれど、きっと反論はたくさん返ってくるのだろう。私達を理解できる人間は、この世に少ないから。
でも今は、他人のことなんてどうでもいい。理解してほしいなんて思わない。
私はただ見つめるだけ。
彼を、その手を。
……どうしてなのだろう。
どうして、彼は私を殺す「真似」をするのだろう。
どうして、できないことをしようとするのだろう。
私達はお互いの影。
彼がいるから、私がいる。
私がいるから、彼がいる。
実際の肉体があるからこそ、影は存在できる。
そして、影を持たない肉体は存在しえない。
肉体を失った影が、一人で生きていける?
影を失った肉体が、一人で生きていける?
どちらかの存在がなくなれば、片方も存在できなくなる、はずなのに……。
影のない存在になりたくなったの?
影として在ることが嫌になったの?
影との繋がりを忘れてしまったの?
……やっぱり、私には判らない。
だって、彼が何も云わないから。そして私も、どうして、なんて口にはしないから。頭の中にさえ、それは巡っていない。
それはただぷかりと浮かぶシャボン玉で、生まれてははじけ、生まれては消えていくだけ。私は答えなど求めていない。それは、答えがあるとも思っていないからかもしれない。
いつも私の中にあった最優先事項は、彼の側に居続けること。そしてそれは、今この瞬間も変わらない。
だから彼が伸ばした手を、私が払えるわけがないのだ。その行為はそのまま彼への拒絶となる。そしてそれは決別だ。そんな事はしたくない。
たとえどんな状況であっても、私は総てを受け入れる。
片割れとして、影として、鏡像として、彼の側に居続けるために。
……あれ? ちょっと待って、……鏡像?
私は今、鏡の前にいる。
私の眸は、当然鏡を見ているはず。
そして私は気づく。
これは私なのだ、と。
けれど、それが何だというのだろう。私達は映し鏡。「こちら」と「向こう」を隔てていたのは、昔から鏡だったのだから。
私にとって、鏡に映る鏡像はいつも彼だった。だから、今鏡に映っている「私」はやはり、彼なのだ。
彼が望むのならば、私は決して拒みはしない。
受容の証に眸を閉じて、首に巻きつく蛇のような力を感じた時、ふとかつて見た白い手のことを思い出した。
記憶の中に佇んでいるそれは、彼の影の手。
彼の首に向かって伸ばされた、私の手だった。
ああ、そうか。
だから彼は、今こうしているんだ。
私は今更ながら、どうして、の答えを得たらしい。
あまりはっきりとは言葉にできないけれど。
答えは、見つけた。
†
かつて、そこに境界線は存在していなかった。
私は君で、君は私。私達はその時ひとつだった。
隔ての鏡が生まれたのは、その直後。私達がそれぞれ、名前というものを得たために、私達はお互いの影になった。
そして今、「こちら」と「向こう」を結ぶ境界線が、砕けた。
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