大きな時計が、僕の心臓で鳴っている。
苦しい、痛い…ねぇ、どうしてキミは僕に会いに来てはくれないのかな?
キミの歌が聴きたいのに…
「…ん…」
もぞもぞとベッドの中で寝返りをうつ。
僕の腕についている点滴の管も、一緒に揺れる。
「…寝れない。」
僕は起き上がって、お気に入りのマグにカフェオレを入れるべくベッド脇のポットに手を伸ばした。
(カフェイン、ダメなんだっけ?忘れちゃった…)
でも、そんなことはどうでもいい。
(僕に価値は、無いんだから…)
ガンだと宣告されたのは、一年前だ。
余命宣告までされた。
(あと一週間…)
あと一週間で、僕はこの世からいなくなる。
(…会いたいなぁ)
僕の愛しい人。
彼女は、僕がガンだと宣告されてから、一度も会いに来てはくれない。
(あ…)
病室のドアの曇りガラスの向こうに、人影が立った。
(彼女だ。)
僕から行きたくても、今の僕にはカフェオレを入れるのに起き上がって腕を動かすだけで精一杯だ。
「あ…」
彼女は、僕が声をかけるより早く去ってしまった。
暫くして、病院から出る彼女の姿が窓から見えた。
(今日も、入っては来てくれない。)
訂正。
彼女は僕が入院してから毎日来てくれる。…ドアの前まで。
(会いたいなぁ…)
彼女の歌が聴きたいなぁ。
彼女は歌うことが好きで、僕はカフェオレを飲みながら聴くのが好きだった。
窓の外に再び目をやると、緑色の葉が揺れていた。
(僕はもう、桜も紅葉も見れないのか…)
そう思うと、涙が出てきた。
「感傷的になってるなぁ。人間、死ぬときは一人って言うし、これが普通なのかなぁ?」
苦し紛れに呟いてみても、なにも変わらない。
僕はベッド脇の本を取り、読み始めた。
次の日。
僕はいつものように本を読んでいた。
カタリ、とドアが鳴る。
僕はそちらに目を向けた。
そこには、本が置いてあった。
(彼女だ。)
彼女は定期的に、僕の好きな作家の本を置いて行ってくれる。
僕は今日も、窓の外へ目を向けた。
少し間があって、彼女が出ていく。
(今日もまだ、僕を覚えてくれていた。)
それに嬉しくなって、頬が緩んだ。
僕は目線を空に向けた。
急に虚しくなった。
(いつかは彼女も、僕を忘れるんだ。)
もう僕に、歌ってくれなくなったように。
空は晴れてるはずなのに、曇って見えた。
その時。
「う…あ、あ…」
心臓に痛みが走ったと思った瞬間、全てを忘れる程の痛みに襲われた。
(発作…が…)
急いでナースコールに手を伸ばす。
(あと…少し…あと6日ある、のに…)
彼女の顔が、頭をよぎった。
そこからはあまり覚えていない。
看護師が来て、大慌てで担当医を呼んでいた。
そして…僕の最期の時。
僕は妙に意識がはっきりしていた。
彼女と過ごした日々が目の前を流れる。
(僕は、死ぬんだ…)
泣きたいような、どこかスッキリとした心で、僕は死を受け入れようとした。
すると…
「…!」
彼女の声が聞こえた。
なんとか動く目だけを動かし病室のドアの方を向くと、涙を流す彼女がいた。
「死なないで…!!」
彼女が泣いている。
僕の心臓は、また痛んだ。
(泣かないで…)
僕は精一杯の力で笑った。
『ありがとう』
そう口を動かした。
良かった。
(最期に、彼女の歌が聴けた…)
僕の頬を一筋の涙が流れて…僕の意識は消えた。
You're Songs 小説
「You're Songs」の小説を書いてみました。
…どうでしょうか?←
青年は最期の時も彼女のことを想っていたんですね。
心優しい彼女はきっと、青年の死を悲しみ続けるんでしょう。
幸せになってほしいものです←
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