「貴方たちに話があるの…貴方たちを狙ったのは…2人の養母よ」
ミクリアから突如呟かれた真実。
2人の王子は自分の行動を思い返し当然だと悔いていた。
「…そして最悪のシナリオは私が書き換えた」
「…最悪のシナリオ?」
レンが問うと、ミクリアは話を続けた。
「…そう。貴方たちがリンを殺し、貴方たちは2人の養母に殺され、そして2人の養母は娘たちの後を追い自殺を図るバッドエンド」
淡々と語るミクリアにスカイとレンは青ざめていた。
「そんな恐ろしいシナリオ…」
「一体誰が」
「ラヴィアの母よ」
その瞬間レンの表情が凍りついた。
「メグ義母さんが…そんなことっ!!!!!」
信じたくないとばかりにレンはミクリアに掴みかかったが、ミクリアは表情を何一つ変えず話を続けた。
「貴方の本当の母…白魔女ユカリを殺し、貴方の父を奪い、そして父の愛情を一番受ける子供たちも憎み……」
「………嘘だ…でも……」
レンは思い当たる節があったかのように俯いた。
「…彼もいい迷惑よね…一番愛していたユカリを殺され、あなた達までも失いかけて…」
「……これが、真実なの…?」
涙をポロポロと零すレンをミクリアはそっと抱き締めた。
「貴方はメグ=ポーリアの中ではもう死んだことになってる…」
「…………」
「だけどね…復讐なんてたかが悲劇を生み出すことしか出来ないの…この一連のシナリオからもわか」
「わかってるよ……」
ミクリアの説教を遮り、急に大人びた声を出してミクリアに微笑むレン。
「だけどね…メグ義母さんには悔いてもらう。母様を殺したことも。僕たちを消そうとしたことも。それに……いつか起こるであろう陸への侵略戦争もボクが止める。2人の姉さんが守ってくれたこの命をかけて……」
『侵略…戦争……!!』
驚いたのはスカイだけじゃなくミクリアもだった。
「…数日前に書棚で機密文書を見つけてね……父様から少しだけ聞いちゃったんだ……自分はどうにも出来ないから、ボクだけに話すって…」
寂しそうに微笑むレンの肩にスカイはそっと手をおいた。
「俺にも協力させてくれないかレン君…?」
「スカイさん……ありがとうございます」
「なら……私からも一つ助言を……」
「ミクリアはレンとスカイだけに聞こえるように話した」
―……………!
「それまでは各々……死んだことにしていた方がいいと思うわ…憎しみは時間が経つ方が薄まるし」
「そうですね」
「なら……我が国と同盟を結ぶ海を越えた内陸国へと旅立つことにしよう」
「私は私なりの方法であなた達をサポートするわ……何か困ったらこのペンダントに願いなさい」
渡されたのはト音記号とヘ音記号のチャームが付いたペンダント。
「これは……」
「元々は、あなた達リンレンに渡してとユカリに頼まれていたけど……何しろこの姿だと動きが遅くて…ただし、私の歌の力を込めたからきっと何かの役にたつわ」
「ユカリ母様……」
レンは2つのペンダントを力強く握りしめミクリアに礼を言った。
「スカイさんお願いがあります」
「何だい…?」
「王室のピアノを…船に運んでもらえますか?」
「…いいよ」
そっと微笑むスカイにレンは感謝をした。そして、ミクリアの方を振り返るとそこにはもう誰も居なかった。
~aquatopia~
正装に着替えたミクリアは洞窟の扉を歌で開いた。
「お久しぶりねメイ」
「あんたは…神ミクリア…」
「残念なお知らせをしにきたの黒魔女第一後継者リン=フォルティスのことで」
「……リン…!!リンに何がっ!!」
「…メイ。貴女はレンを狙ったわね。黒魔術を込めた弓を引いて……」
「…いつ!?」
「やはり…奴に操られていたのね。じゃなければ、リンの場所まで真っ先に行くはず」
「…リンは……どうなったの」
「リンは人魚の運命を変えるために白魔術を使った」
「リンが人魚のために命を捨てるなんて…そんな馬鹿な!!あいつはあの子をあそこまで苦しめたのにっ!!?」
怒りを露わにするメイに対し、ミクリアは静かに話を続けた。
「そして…レンを貴女の攻撃から守り…矢に射抜かれて瀕死の状態になったところを弟に助けられた」
「じゃあ…今リンはっ…!!」―メイ様……」
声がする方にメイが向くと、そこには水鏡がありリンが映っていた。
「リンっ…!!!!!」
「ごめんなさい…勝手な真似して……でもミクリア様に頼んでもう一度会いに来たの最後に言い残したことがあったから」
「何……?」
「私、メイ母さんの娘になれて幸せだったよ…」
「……………!!!」
最高に温かな笑顔でメイを見つめるリンに対し、泣き崩れるメイ。
「あたしも…リンが娘で良かっ」
そしてリンをメイが見上げると、リンはどんどん泡になっていった。
「リンっ!!!」
「私、空気の精に生まれ変われたの…だから…ずっと……」
――メイ母さんのそばにいるからね
何も映らなくなった水鏡を、メイはそっと撫でた。
「ミクリア……あたしを操ったのは誰?」
「メグ=ポーリア。人魚族の女王様」
「そいつ…殺していい?」
「…復讐からは悲劇しか生まれない。リンの件でわかったでしょ?」
「……ならどうすればいいの!!!私の…この憎しみはどこへ……」
「それなら…同士がいるわ」
「同士…?」
「彼女の弟。陸の王子それにリンの化身を育てた養母」
「……レンは何だって…?」
「必死で憎しみを抑えて、復讐以外の方法を考えてたみたい。ただ彼にも言ったけど…貴女たちみんなメグのシナリオでは死んでるの」
「……やっぱり極悪人じゃない」
「だからね…私に考えがあるのよ……」
――――――…!
「ナイスアイデア。ミクリアにしてはやるわね」
「私も駒にされたから怒り心頭に来てるのよ」
「おー…怖い怖い。ミクリアを怒らせたら大変!」
「協力してくれるわねメイ」
「了解…じゃあ私も死んだフリしとくわ……ユカリ姉さんが
『私がいなくなったら次に狙われるのは貴女よ?』
って気配を消す魔法を私にいつでも発動できるようにしてくれたから」
「…先を読めてたのは彼女だけってわけね」
「そうね…ユカリ姉さんは予知夢能力者だったから…」
「じゃあ…また」
そして、洞窟には誰も居なくなった。
~船上―旅立ちの時―~
「もう―我が祖国も遠くなったな」
「そうですね」
「そうだピアノ……」
「ここら辺で弾きますね」
「あぁ……」
―――G♯♪
人差し指で黒鍵を一音だけ弾いた後…
――♪
レンの小さな手から奏でられたのは嬰ハ短調の美しき三連符と十六分音符のsymphony。
…mermaid symphonia
二人の姉を失い一人ぼっちになったボクは
singing symphonia
二人の為に歌うよ…
―海の波の音に祈りを乗せ―
ピアノを弾き終わり…椅子にもたれかかって涙を静かに流すレンをそっとスカイが後ろから抱き締めた。
「スカイさん…」
「君は一人ぼっちじゃない…それにきっと彼女達にも君の唄は聞こえたはずさ…ほらっ……」
温かく甘い香りがする強い風が二人の王子を吹き抜け、優しい光が船頭にあるピアノに差し込んだ。
「姉さん…スカイさん……ありがとう」
涙をゴシゴシと吹くとレンは清々しい表情で空を見上げた後、スカイと笑いあった。
~~~
本を閉じミクリアは少し休憩と椅子から立ち上がり呟いた。
『さぁ悲劇を喜劇に変えてみましょう?
go to Finale of flamencia…』
コメント0
関連動画0
ご意見・ご感想