「ここ、か……」
山奥のうっそうとした場所。
グミが手入れしていた庭は、今は草が生え放題で、家にいっそう怪しげな雰囲気を加えていた。
「……入れるのかな」
茨の森。
そう呼べるほど、棘だらけのツタがそこら中に絡み、人の立ち入りを阻む。
「でも、行かなきゃ」
きっと、ここの中にいる。
レンには不思議と確信があった。
必死でツタをかき分け、少しずつだがレンは前に進んでいった。
すぐにレンの手は傷だらけになり、足も血が流れ出している。
長袖長ズボンを着ていたのがせめてもの救いと言えようか。
だが、その服も、棘に引きちぎられ切り裂かれ、肌が露になる。
持ち出したナイフで、レンはツタを切り裂きながら進んでいった。
途中に、犬のしがいや人の服のカケラを見つける度、レンの背筋に寒気が走った。
ツタの少ないところ、切りやすいところを探しながら、必死でレンは前に進む。
ようやく玄関にたどり着いたときは、もうレンの体のいろいろなところから血が流れ出していた。
「……ったっ……」
痛みを認識したのは、ドアノブに手をかけたときだった。
慌てて、自分の服の切れ端で手をくるみ、ドアを開ける。
不思議なほどすんなりと、ドアは開いた。
「……あ……れ?」
一歩を踏み出す前に躊躇するように踏みとどまって、あたりを見回す。
と、案の定、トラップがあった。
引っかかると足が切れてしまうという、細い糸……
「……リンっ……」
こんなところに閉じ込められて、リンは無事なのだろうか。
レンの頭にあるのは、ただそれだけだった。
慎重に、あたりに気を配りながら部屋を一つ一つ見ていく。
所々に、動物の死骸があったのはトラップのヒントになる。
怖がりながらも、レンは冷静に前に進んでいった。
「……っ」
人の、腕が転がっている。
リンのによく似た、黒いアームカバーをつけた……
その瞬間、レンははっと横を見た。
ドアに刃が仕込まれている。
「あ……ぶない」
一階を全て見終わると、レンは階段を一歩ずつ上がりはじめた。
そこにもいろいろなトラップが仕込まれていた。
もう死んでいるかもしれない。
そんな考えが頭をよぎるが、振り払ってとにかく前に進む。
もしかしたら、生きているかもしれないのだから。
「……ここで、最後」
その一部屋を残して、全ての部屋をもう見終わった。
レンは全身全霊を込めて、祈りながらドアを開けた。
外はもう夕方だというのに、やけに明るい。
そこでは、リンが静かに眠っていた。
「リンっ!」
ミクはその様子が画面に映るのを、眺めて笑った。
監視カメラを各部屋に取り付けていたのは正解だった。
「レン君……なかなか頭のいい少年じゃない」
一度試してみたかった実験。
このようなトラップをくぐり抜けられるのは誰か。
「人の命なんてオモチャでしかない……カイトさんやメイコさんの言っていることが理解できた気がするわ」
この結果レンが死んでも、自分には関係ない。
自分が逮捕されたところで、自分には関係ない。
その一瞬が面白ければいいのだ。
ミクはくすくすと笑った。
致死量に満たない、しかし強力な眠りに人を誘い込む薬を使ってあった。
「解毒剤無くても死なないしね」
レンが死ぬか、たどり着くかしたら、リンは目を覚ますだろう。
「さて……フィナーレはどうなるのかしらね」
「リン! 起きて! リン……リンっ! 俺だよ!」
目を覚まさないリンに向かって、レンは叫び続けた。
自分が血を流しているのも構わず、リンを揺さぶる。
泣きながらレンはただひたすらリンを起こし続けた。
レンの声が嗄れてきたころ、リンは目をついに覚ました。
「リンっ……!」
リンはきょとんとしたまま、あたりを見回した。
そしてレンの切り傷だらけの体に目を留める。
「レン! どうしたのそれ! というか、ここは……?」
涙目のレンを見て、リンの頭の中で全てがつながった。
一瞬にして顔が青くなる。
「予言どおり……私、死ななかった……?」
レンはこっくりと頷いた。
ほっとしたようにリンを抱きしめる。
リンの服もレンの服も血で汚れていたが、そんなことは気にしなかった。
震えているリンの体を精一杯抱きしめると、レンはリンに笑いかけた。
リンもつられるようにして笑った。
レンは、さっきのトラップのあった位置を完全に覚えていた。
リンの手を引いて、今度は安全に家の外まで出る。
しかし、ようやく家に帰れそう、というところで、リンは恐ろしい物を……見てしまった。
「……いや、ああああああああああああっ!」
まっぷたつに切れた犬の体。
レンがさっき、トラップの目印にしていた物。
四肢がわかれた猫の体。
そして、人の腕。
レンは必死でそれらを見せないようにしていたが、最後の最後で。
リンの目におぞましい物が映り、脳裏に焼き付けられる。
「見ちゃ……ダメ……!」
レンがリンの目を押さえた時はもう遅かった。
リンはおぼつかない足取りで道路まで出ると、膝から崩れ落ちた。
ミクはその様子を見て、笑い出した。
「……そう、苦しめばいい」
自分が苦しまされたように。
純粋なあの子も、苦しめばいい。
「幸せな王子様がいるだけ、よかったでしょう?」
ミクは誰もいない空間に向かってそういうと、トラップを外す用意を始めた。
そして、マネキンの腕を拾い上げ、またおかしそうに笑った。
「……賭けは?」
「引き分けだよ。それとも僕の勝ちにしたい?」
リンとレンが帰って来た日、そんな会話がカイトとメイコでなされたという。
「いいえ。引き分けでいいわ。レン君が強いというのは私の予想だし」
「そうだね。あの子、意外と頭良いねぇ」
「そうね。それに、ミクちゃんも結構すごいのね、初めて知ったわ」
「変わったね」
カイトはそれだけ言うと、唇を僅かにゆがめた。
「……それで、あなた、どうする気?」
「ミクちゃん? そりゃ、ねぇ。警察に渡したら、面白くないじゃん?」
リンの性格は打って変わったように暗くなった。
必死で明るくしようとしているのだが、無理しているのが周囲にも一目でわかるほど。
レンはそんなリンを、哀しそうな目で見つめていた。
学校の人達はどう説得されたのか、この事件が表に出ることは無かった。
学校のセキュリティの弱さが露見するからだろう。
ミクは、あの家で、まだ一人で暮らしている。
ルカやグミですら、現代の『眠り姫』の全貌については知らない。
しかし、皆にはもう、この事件が伝えていることはわかったのではないだろうか。
そう。
下手な好奇心は、身を滅ぼす。
これが、現代のおとぎ話の二つ目である。
では最後にもう一度。
おとぎ話は、永遠に終わらない。
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