君は、知らないよね。
知るわけが、ないんだ。



だって、君を失って、幸せそうな顔で儚くなっていく君の灰を目にした後で――



――僕は、今更になって気付いたんだから。







君が、『好きだ』って。










そう…いつだったかな。
君が少年として駆け回ることのできた、最後の夏。







君は「大人にはなりたくない。子供のまま、自由に暮らしていたい。」なんて、ちょっと格好つけて、大人ぶっていたっけ。







神様は残酷なことに、君の願いを叶えてしまったね。
君は本当に大人にならないまま、亡くなってしまった。







君がいなくなってから、僕は何度も願った。
君と同じことを、何度も何度も。







でも神様は、願いを叶えてくれなかった。
神様のお節介でない限り、僕は不老不死、なんて質の悪い悪戯を抱えているようで。







…ねえ、神様?
素敵な贈り物を、どうもありがとう。







――なんて。
幼い僕は、皮肉めいた冗談を吐いた。
口に出しては言わないけれど。
神様を挑発させたくなくて、その妄言を胸に隠した。







どうして、君の呟きは察して、僕の片思いは察してくれないの?
差別はいけないよ、カミサマ。










君が虚しくなっても、時間は過ぎてゆく。
僕を追い越した君への憧憬も、止まってくれない。







少しだけでいいんだよ、お願い。
時を巻き戻したいの。



好きな人に、さよならすら言えていないんだ。
突然消えてしまったから、それすら告げられていない。










…嗚呼、空が濁ってる。
僕の心みたいだ。



恋の葛藤でぐしゃぐしゃになった、僕の心。
本来の名ではもう呼べない。
穢れすぎた。
何もかも、すべてが手遅れ。







『カミサマ、責任ヲトッテヨ。』










百年前の同日、僕の御祖母ちゃんは、君の孫の曾孫の最期に、僕と同じことをいったらしい。







なら、御祖母ちゃんも一人だったんだね。
僕がこうして、一人なように。







そうだ、花束を贈ろうか。
君を殺したことを忘れて移りゆくメトロポリスと、素敵な君の名前に。



勿論――いや当然、二つの花束に込められた意味は違う。
メトロポリスには深い憎悪を、君には深い愛を。










夕方になっても、空はくすんでいる。
夕焼けなんて、まるで見えやしない。



汚い心の僕には、見せたくないのだろうか。
君と見た夕焼けは、言葉を失うほど綺麗だったのに。
今の僕には、綺麗な空を見る権利すらないの?







いいよ、もう、それでもいい。
そんな権利なくていいから、ひとつだけ願いを叶えて。







――地球を、終わらせて欲しい。
沢山の人の血が流れて、世界が灰になった後でも、僕は君を憶えている自信があるから。










数十分後、世界は枯れた。
もう誰もいない。
どうやら、神様が願いを叶えてくれたらしい。







嗚呼、そうか。
やっと解ったよ。







神様、あなたは僕にこれを願わせて、仇のために世界を壊させたかったんだ。



そして、この悪戯の真意に気づかせたかった。
僕以外の人間が死ねば、僕も死ねることを。










…随分、遠回りさせてくれちゃって。
もう、手遅れな世界になってしまったというのに。







これで地球は最後だね。
何もかもが、最期だ。







だから、今言える一番のことを言おうと思う。
臆病だったから、生前の君には伝えずじまいの言葉を。







けど、今なら。
今更になるけど、やっと言える。



君はもういないから、少し時制を変えて。
地球最後の、告白をしよう。










『君ガ好キダッタヨ。』










待ってて。
すぐ、君の元に還るから。










End.

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

地球最後の告白を

『地球最後の告白を』の自己解釈小説です。

閲覧数:516

投稿日:2013/04/07 14:53:14

文字数:1,660文字

カテゴリ:小説

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