庭の植物たちは素直にすくすくと上へと育っていく。その伸びて行く先に何か障害があったとしても、柔軟に避けて、そしてまた上へと伸びて行く。自分は何で植物のように行かないのだろう。愚鈍なまでに真っ直ぐに、言わなくても良い事まで行ってしまうほどにまっすぐにしか、進めないのか。
そして失敗したと、間違えた方向に進んでいると、早く元の場所に戻って謝らないといけないと。分かっているのに。なかなか戻る事が出来ない。素直に謝る事が出来ない。
本当に、どうして自分はこうなのだろう。とリリィは情けなさを感じながら思った。
グミが悲しくないわけがない。ただ自分が知らなかっただけで、悲しみを隠していただけで、悲しくなかったわけではないのに。
そう。悲しみをコントロールして笑っていただけなのに。自分が出来ない事をグミはできただけなのに。悲しみを感じない人なんて、いないのに。
あーもー、と低く唸り声をあげながらわしわしとリリィがその金髪をかきむしっていると、不意にがちゃ坊が、虹、と大声をあげた。
「え?」
「虹、虹が今、」
リリィが顔をあげると、がちゃ坊は心底驚いた顔で、小首をかしげながらきょろきょろと周囲を見回していた。
「虹?」
そうリリィが訊くと、がちゃ坊はこくんと頷きながら、でも消えちゃった。と少し困ったように言った。
「今ね、そこに、小さな虹がかかったんだよ。小さくて、かわいかったから、リリィ姉ちゃんに見せようと思って、でも」
消えちゃった。と残念そうにそう言うがちゃ坊に、ちょっと待って、と画点のいったリリィは縁側からサンダルをつっかけて庭に降りた。
「虹って、これ?」
そう言ってリリィは太陽を背にして、ホースの水を霧状にしながら中空に撒いた。
さっ、と小さな虹がスズランの緑の葉の上にかかった。
「すごい、虹だ」
出現した小さな虹に、がちゃ坊が途端に弾んだ声を上げた。
「すごい、リリィ姉ちゃんは虹が作れるんだね」
すごいすごい、とはしゃぐがちゃ坊に、何となく照れくさいものを感じながら、すごくないよ、とリリィはぶっきら棒に言った。
「こんなの仕組みが分かれば誰だってできるわよ」
「でも、ぼくはできなかったよ」
「私も虹は作れない」
そうからかうような声が響いてきた。
声の主は、グミだった。玄関の門からそのまま庭に回ってきたようだ。手には肉屋のビニール袋をぶら下げている。
「そういえば、私も虹の作り方なんて知らないわよ。リリィすごいわね」
そう言って普段と変わらない笑顔で言ってくるものだから、つい先ほどの気まずさを忘れてリリィは、おかえり。と言ってしまっていた。
「ただいま。今日は、やっぱりハンバーグにすることにしたから。私の好きな、きのこの和風ハンバーグ」
そう言って、手に持っていたビニール袋を掲げて。グミは笑顔をひっこめた。その少し険のある視線に、思わずリリィは背筋を伸ばした。
「腹が立ったから、あんたの好物はしばらく作ってあげないわよ」
「…うん」
「ついでにあんたが当番のときは、私の好物を作る事。いいわね?」
「…わかった」
「更に言うと、本当に、私、悲しいわけじゃないんだからね」
「…ごめん」
次々とグミから飛び出してくる厳しい口調に、俯きながらリリィが返事をしていると、ふと、笑う気配が伝わってきた。
思わず顔をあげると、グミはいつものあの笑顔を見せてくれていた。
「だけど。家にいるときは本当に悲しい事を忘れるほど幸せだから、笑顔になっちゃうんだよ。困っちゃう事に」
私が笑顔なのはあんたたちのせいだからね。
全然困っていない調子でおどけたようにそう言って、グミはふっふっふと笑った。
その笑みに、つられるようにリリィも笑顔になった。
――好きなもの。
ただいまとおかえり。皆でごはん。友達と他愛のないお喋り。茜色の空。帰り道の買い食いコロッケ。ハンバーグ。きのこの乗った和風のハンバーグ。
大好きなもの。
好物を作った時の妹の笑顔。弟の甘えた顔。眦を綻ばせた兄。
大好きな、もの。
今日の夕ごはん・6
ここまで読んでいただきありがとうございました。
毎度毎度、本当に食べ物なアイテムが無いと、書けないのか私。
そしてこういうほのぼののんびり(時々思い詰め)系が多いですね。
たまには酷い話とか、おどろおどろしい話とかにしようかなとも思ったのですが、やっぱりどうもあまり殺伐としたのは書けない模様です。
そうそう、カミナリ様が腹の虫が好物なのは、嘘か本当か、どっちでしょうか。
グミさんは本当と言っていますが、私的には嘘なんじゃないかな、と思うんだけどね。
それではお読みいただき、ありがとうございました!!
コメント5
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ブクマつながり
もっと見るライブハウス「マルクト」の楽屋前で。
楽屋にいるリンちゃん目当てにおしかけた、おっかけの少年たち。
その前に、廊下のイスに置かれた“はっちゅーね”の人形がある。
廊下の向こうから、霧雨さんが走ってきた。
「いっけない。これ、忘れちゃった。大変大変」
顔色を変えた調子でそう言うと、人形を抱きかかえて、...玩具屋カイくんの販売日誌(178) おっかけファン一掃作戦 (その2)
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「はいはい、並んでね。あ、通路にはみ出しちゃダメよ」
会場のブースには、男の子たちの長い列が出来ている。
雑誌をメガホンのように丸めて、それを仕切っているのは、霧雨さんだ。
雑貨とキャラクター雑貨のショー「雑貨&コミックフェア」の会場。
その一角で、時ならぬ“ミニミニ撮影会”が起こっていた。
ちょっ...玩具屋カイくんの販売日誌(186) ミニ・イベント in イベント?
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ブースの前で、コヨミ君と、れおんさんは、にらみあって立っていた。
ザワザワ、と騒ぎ出した男の子たち。
それを見て、テトさんは思わず、コヨミ君に声をかけた。
「ねぇ、どうしたの? もめ事はよくないですよ」
フッと我に返ったように、コヨミ君は彼女の方を見た。
「あ、テトさん。ごめんごめん。ちょっと、大人...玩具屋カイくんの販売日誌(194) 新商品で勝負だ!
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「はーい。コーヒー、入りましたよ」
ルコ坊がカップに入ったコーヒーを、レン君たちに運んできた。
ちょっと不思議な雰囲気の、りりィさんのお店「星を売る店・上海屋」
りりィさんを送ってきたレン君は、美味しそうにそれを飲んだ。
「いつも、美味しいね。ルコちゃんの淹れるのって」
「へへ、どーもありがとう」
...玩具屋カイくんの販売日誌(187) 困ったヤツの目的は?
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ヘルシー&美容雑貨のお店、「アディエマス」。
ふらりと遊びに来た2人組、ぱみゅちゃんとレイムさん。
お店に仕事で来ていたルカさんと、たこるかちゃんと、話に花が咲いている。
4人が今、見つめているのは、売り場の棚の上にマスコットとして置かれている、はっちゅーね人形だ。
人の問いかけに答えたり、なんだか...玩具屋カイくんの販売日誌(180) はっちゅーねの謎を解け!(レイムさんのオカルト理論?・その2)
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霧雨さんのブースに向かって、ルカさんがゆっくりと歩いてきた。
「ルカさん!」
「たこるかちゃん、おつかれサマ」
彼女は、たこるかちゃんに向かって微笑んだ。
「あら、れおんさん。どうしたの?」
たこるかちゃんは、ルカさんにこれまでのいきさつを、手短かに説明した。
「そうなの!れおんさん、リンちゃんと“...玩具屋カイくんの販売日誌(192) リンちゃん+“はっちゅーね”の行方は?
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ご意見・ご感想
日枝学
ご意見・ご感想
遅ればせながら、読みました! ほのぼのとして、悔しくて、胸がうずうずするような気持ちになって、最終的に温かな気持ちになる。そんな作品に感じました。
読み終わったときに一番印象に残ったのもやはり、温かさでした。温かな、春の日向のような作品ですね。良かったです!
2011/08/09 23:59:05
sunny_m
>日枝学さん
コメントありがとうございます!
色んな事を感じていただけたようで、なんだか嬉しいです?☆
どうやら私は、普通の日々の中で、もやっとしたりもがぁっとなったりもだもだしてみたり、そういうのを書くのが好きみたいです。
なので、かなり行き当たりばったりなところもあるのですが、最後に温かなものを感じていただけて、良かったです^^
それでは、お読みいただき、ありがとうございました!!
2011/08/10 20:06:00
wanita
ご意見・ご感想
今回も楽しませていただきました!そして、明日のおかずが決定しました。
ええ、和風ハンバーグと筑前煮ですともッ☆
いつも胃袋をわしづかみにしてくれてありがとうございます。
おかげで、梅酒漬け込みから始まり、着々と現実の料理のレパートリーが増えつつあります♪
最後のぐみのモノローグ、いいなぁ。
2011/07/24 00:12:15
sunny_m
>wanitaさん
ちなみに我が家のキノコのハンバーグは、キノコのみじん切りをハンバーグの中に入れて焼きます。んで、おろしポン酢で食べる。と。
胃袋を鷲掴みにしてしまいましたかww
最近、食べ物ネタが多いなぁと悩み中だったのですが、でも食べなきゃ生きていけないものね☆と開き直りました(笑)
お読みいただき、ありがとうございました!!
2011/07/24 11:15:10
時給310円
ご意見・ご感想
ついったで投稿を知り、慌てて飛んできました。せっかくついった導入してるのに、情報キャッチが遅い俺……orz
これは何というホームドラマw
いいですね! やっぱりsunny_mさんの書くほのぼのは最高です! がちゃのあどけない感じとか、(ほとんど出番が無いにも関わらず)がくぽの家長としての存在感とか、すごくうまいと思います。
そして何より、リリィとグミの姉妹関係が。そうか、姉妹ってこんな風に書くのかと、大変参考になりました。それにしてもこのグミは良いな……惚れる(爆)。今回はリリィ視点ですが、こうなるとグミ視点も見てみたいですな!w
公式設定がほとんどないボカロキャラで、こんな風に生活の息遣いが聞こえそうなほどのストーリーを組み立てる事が出来るのは、ホント凄いと思います。これほどの文筆家、ボカロ界隈にそうは居ない……。
現在、僕はミク誕小説の執筆中ですが、やっぱりアウトプットばかりじゃダメですね。こうしてインプットもしないと。良い刺激になりました、ありがとうございました!
2011/07/18 22:22:05
sunny_m
>時給310円さん
コメント、ありがとうございます?!
がくぽさん、存在感ありましたか(笑)なかなか出番を上げられない家長なので、褒めていただけて、よかったですw
グミとリリィの姉妹は私自身が姉妹の妹、ということもあって色々と思い出しながら書いていました。でも実際は、甘やかされはしましたがこんなに優しいお姉ちゃんじゃなかったです(笑)
グミさん視点もそのうち書きたいけれど…予定は未定ですw
ボカロキャラがいるからこそ私は書ける、というのがあるので褒められるとなんだかこそばゆいですね?。照れますな。
時給さんのミク誕小説も、楽しみにしています?!ホント、凄い楽しみだ!!
それでは、お読みいただきありがとうございました!!
2011/07/19 18:26:22
藍流
ご意見・ご感想
こんばんは。読ませていただきました~!
ほのぼの仲良しなインタネ家、いいなぁ。相変わらずsunny_mさんのがちゃ坊は可愛いですね!
お姉ちゃんズも微笑ましい^^ がくぽも、少ない出番で長兄の威厳を示していきましたね~!
しかしやはり、私的MVPはがちゃ坊です。苦手なメニューにいやいや言いつつ、一生懸命おてつだいとか……可愛いvv
食べ物というより、食卓の風景ではないですか? 家族の団欒が一番端的に描かれる風景と言いますか。
それに料理とか、何かを作る光景って、性格出ますよね~。
日常の中でキャラを掘り下げて書いていくsunny_mさんらしい傾向なんだと思います。
かれらの繋がりや生活の気配が感じられて、私はとても好きです^^
2011/07/18 21:12:34
sunny_m
>藍流さん
コメントありがとうございます?!!
このシリーズのがくぽさんは、ホントなかなか出番が無くて、舞台裏でキリキリ怒っていそうなのですが^_^;
でも家長としての威厳は出ていましたかw
がちゃ坊については、またもや友人の子供とかを観察しつつ書きましたよ?。
ちびっこは書くのは楽しいのですが、行動がなかなか理解できません(笑)
最近、似たような話の流れになりがちだなぁ。と思いつつ書いているので、なんだか弱音がでちゃいました(笑)
食事風景とか書くのは、やっぱり好きだし。
なんだかんだ言いながらも、好きな風にしか書けないので、きっとこのままなのだろうとは思います^^
好きと言っていただけて嬉しいです?☆
それでは、お読みいただきありがとうございました?!
2011/07/19 18:12:49