miss-you

第一話 雨が運んだ出会い

道行く人々の群の隣をすれ違う。けれどそれぞれの人生が交わる事はない。同じ方向を見ているのにみんな違う事を考えている。だから、俺は運命を信じる気にはなれなかった。そう────あの日、キミに巡り逢ったあの日が来るまでは。



「うぃっす、お疲れ。」

「おう。」

簡潔な挨拶と礼で、今日の仕事は終わりだ。するとパートのおばちゃんが話しかけてきた。

「ねえねえせいちゃん、傘は持ってるかしら?外は土砂降りよ?」

「マジか?くっそう、傘持って来てねえや。それはいいが、いいかげんちゃん付けで呼ぶのはやめてくれよ。」

俺の名は雨天女星(あまためしょう)。姓自体あまり見かけないものだが、星をしょうと呼ぶ名前は珍しい様で、昔からあだ名はせいちゃんだった。おばちゃんは傘をげた箱に置くから使う様にと笑いながら帰っていったので、好意に甘える事にした。

「うぉ。足元以外何も見えねえ。」

外は想像以上に雨が降っていた。おばちゃんが貸してくれた傘がなきゃ、家に帰れるかすら怪しいくらいだ。

「どわーっ、ひどくなってきたーッ!てゆうか、いてェーっ!」

叩きつける様な雨で今にもつぶれそうな位小さな工場(こうば)を後に、「うぉーっ」と奇声をあげながら家へと向かう。しばらく歩いても車が一台も通らない。その位田舎なのだ、この町は。

さらに勢いを増す雨にげんなりしつつしばらく歩く。すると、目の前にぼんやりとした輪郭が浮かび始めた。

「…んぁ?人、か…?」

ご苦労なことだ。こんな土砂降りの中を歩く俺も人の事はいえないが。すれ違った時にねぎらいの声でもかけてやろう。この、マシンガンの様な雨の中を歩く、かわいそうな人に。

そう思うと、さっきまで重かった足が軽くなった気がするから不思議なものだ。

すると、おかしな事に気付いた。傘でよけた空間らしいものが見えず、人の輪郭しか見えないのだ。まさか、傘を持たずにこの雨の中を歩いているなんて、そんな物好きが…いや、物好きじゃなくただの馬鹿だ。どこにそんな馬鹿が────

───いた。栗色の長い髪が背中にべったりついていて、スカートらしきものをはいている事から、女だと解った。何を考えているんだ、この女は?体を壊すじゃないか。

男として取るべき行動は一つだけだろう。

「入ってけ、送るから。」

傘を少し高く持ち、女にかかる雨を遮ってやりながらそう声をかけてみる。キマった、俺。

「…?」

女はゆっくりと俺の方に振り向く。

「うぉ。」

外国人かよ。やべえ、英語わかんねえ。挨拶はハローだよな、確か。

「うぉ?」

女は俺を見ながら首をかしげる。透明な声をしているなぁ。続けて傘を見上げてまた「うぉ?」と言う。なかなかきれいな顔してるじゃないか。

「いや、それはまねしなくていいから。って言っても通じないか。」

そう一人で言って突っ込

「解るよ♪」

「解るのかよッ!」

「うぉ♪」

「それはもういいから!」

「解るのかよッ♪」

「まねすんなッ!」

何だ、コイツ?

「入ってけ、送るから♪」

「俺が送られるのかよッ!」

「ホテルへゴー♪」

「するかッ!」

「と言いつつ私の体をなめまわす様にみつめるのだった。いやーん♪」

「せんわっ!いや、したいけど!って、そうじゃなくて!ここにそんなしゃれたもんはないッ!」

「え~?ないの?」

「ふはははは、田舎をなめるなよ!」

「田舎もの~?」

「そうだ参ったか!わはははは、ざまーみろ!」

「おのぼりさん?」

「う、うるせい!」

「あのー、ここへはどう行けばいいんですか?」

「げはッ!」

「うおお迷った!どこだココは!」

「や、やめてくれーッ!と、トラウマがーッ!」

「お母さんが泣いているぞ♪」

「その前にカツ丼よこせーッ!」

そんな漫才がしばらく続く。この雨の中で。きっと俺は、この時から彼女の世界に魅了されていたんだろう。

「…で、あんた、家はどこなんだ?送ってやるよ。」

「ないよ♪」

「はぃ?」

「私の家はないよ♪」

「ないっ…て、どっかに泊まってるのか。どこだ?」

「ううん、そうじゃないの。」

さっきまでおちゃらけていた彼女の顔が急に真剣になる。

「泊まる場所も、持ち物も、ないよ。名前も、ね。」

「へ?」

思わず間が抜けた顔をしてしまう。そんな俺に、彼女は説明し始めた。彼女が気付いた時には雨の中一人で立っていて、何も思い出せず、持ち物もなく、途方にくれていた所に俺が声をかけたのだ、と。

「それは困ったな。手のうちようがないじゃんか。」

「うん♪」

「んぉーっ、このまま話していてもらちがあかないな。とりあえず、俺んちにきな。」

「いいの?」

「いいも悪いもない。濡れたままでいる訳にもいかないだろ?」

こうして、彼女を俺の家に連れていく事が決まった。俺の家は、決して大きくはないが一応一軒家だ。俺一人では広すぎると感じる事もあるから、彼女一人増えたくらいなら問題ないだろう。


[次回予告]

見知らぬ外国人の女を自宅へ連れ込んだ俺。彼女が何も解らないのをいい事
に、あんな事やこんな事をしちゃうぞ!はたして彼女は悪行三昧に耐えられるのか?次回、「超暴君俺に監禁された彼女」「握られた弱みと自由の代償」「殺人料理人」の三本をお送りします。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

miss-you 

では、一発目。色々酷い、うん。

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投稿日:2017/11/10 14:16:13

文字数:2,247文字

カテゴリ:小説

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