「我らーがさァとのー、うつくゥしきみどーりーぃぃぃ、うたーえ永久ぁの豊穣をぉお」
「え。何その歌」
「小学校の時の校歌」
「何だって選曲がよりにもよって校歌なわけ?」
「だから言ったじゃない! だから言ったじゃない! 歌いこんだ覚えのある歌でないとハズれるんだよくそぅ! 恥ずかしいな! だったらもう校歌でいいじゃないか、何だ、中学校の校歌なら満足か、高校の校歌なら満足かああああああ!」
「作曲家なんでしょ? 何か今流行ってる曲とか教えなさいよ」
「えー。CD丸写しの歌い方になっちゃうと思うけど。今の流行の曲とか知ってても歌えないから調整わかんないし」
「あんたも歌いなさい! 折角なんだから流行の曲の一つも覚えなさいついでに!」
「うああああああああいやだああああああああ、いいもんいいもん私は! 人前で歌うのなんざ校歌と歌声集会だけで十分だ!」
 
………。
なんて。
 
カイトに続きメイコが我が家にやってきてから早一週間、最初こそ「マスター」ではなく「友人」としての接し方に戸惑っていたメイコも、今ではすっかり強引に…いやいや気軽に話せるようになった。 本当に彼らの中身は機械で出来てるのかと不思議に思う。 人見知りだってするし、気を使ったりするし、笑ったり悲しんだりもする。 プログラムがどうこうという話ではない、気がするのだ。あまりに自然すぎる反応は、無機質で形の定まっているものではなく、もっと血の通ったもののような気がする。 何も知らない人が聞けばきっと、世迷言に聞こえるだろうけれど。
 
「…しゃーない、調べるよ、流行の曲…。でも歌わんぞ。私は歌わん。 カイトは? 何かリクエストある?」
「え?」
「流行の曲。歌いたいなら調べるよ、あんたの分」
「ああうん歌いたいよ勿論」
 
歌いたいにしては歯切れの悪い声調に眉を顰める。メイコと私、二人の強い女が並んでカイトの顔を覗き込んだので、カイトはややひきつった笑顔を浮かべ、「歌いたいというより興味のある曲があるんだ」と囁くような声で言う。
 
「…誰の曲?」
「あの。…気、悪くしないでね? …大江 修、って、人の…曲。 とりわけ、ラドゥエリエル、とか」
「……………」
 
…仕事柄何度か接触したことのある傲慢で腹立たしい今は亡き作曲家とその玩具である今は無きボーカロイドの名前を出され、唇をきゅうと引き結ぶ。 以前スーパーで話した内容だけにカイトが誰のことを言っているのか私が何故不機嫌になったのかわからないメイコは小首を傾げた。
 
「…ほぉう。理由を聞かせてもらおうか」
 
ようやく私が出した声は低く、そして感情が篭らない。不気味な程に。
 
「い、いや。 …常磐が言うほど、悪い曲には、思えなくて」
「曲はいいわよ。曲は。でもソレのバックにいる本人の性悪さを知ってるから嫌なのよ。 カイト、悪いけれど、私はヤツの収入を増やす手伝いなんかしないわ。 聞きたいならネットでも何でも使って自分で調べて頂戴」
「…う」
 
雨の中に放られた子犬みたいな眼差しを見るのが嫌でふいとそっぽを向く。メイコの不思議そうな表情に形だけの笑みだけ返して、細い細いため息をつく。 ―――何故よりにもよって大江 修とラドゥエリエルに興味を持ったのだろうか、カイトは。ボーカロイドだと言ったから、存在が気になるのか?
 
再びため息をついて振り返る。案の定すっかりしょげてしまったカイトととりあえず慰めているメイコがいて、大いに罪悪感を駆り立てた。 …全く、どうして彼らという存在は一々私を世紀の大悪党のように思わせるんだ?私を罪悪感でプレスしたいのか?
 
「………。カイト」
「はい…」
「大江 修以外の曲を探すわ。それで妥協して」
 
ぱあ、と。 今度は愛しい御主人様が帰って来たような、尻尾を千切れんばかりに振る子犬のような眼差し。 それを見ながら三度目のため息をついて思う。 ―――罪悪感を感じるのは、彼らが心底純粋で、そして私のような人間には疚しさがあるからだ。 眩しい太陽を直視出来ず目を眇めるように、憧れてやまないけれど届きはしないから妬ましく思ってしまうだけ。
 
彼らがアンドロイドだとは思えないのと同じくらい、きっと私は、彼らを人間だとは思えないのだろう。 綺麗で、真っ直ぐで、理想のような偶像だから。
 
 
 
 
To Be Next .

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

天使は歌わない 13

こんにちは、雨鳴です。
13話までいきました。感慨深いです。
このあたりを折り返し地点に出来たらなと思っています。
いやでももっと増えるやもしれません。どうなんだろ。

今まで投稿した話をまとめた倉庫です。
内容はピアプロさんにアップしたものとほとんど同じです。
随時更新しますので、どうぞご利用ください。
http://www.geocities.jp/yoruko930/angel/index.html

読んでいただいてありがとうございました!

閲覧数:382

投稿日:2009/08/04 09:50:11

文字数:1,815文字

カテゴリ:小説

  • コメント3

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  • ヘルケロ

    ヘルケロ

    ご意見・ご感想

    へえ
    だいぶ古いんですね^^

    2009/08/04 11:50:28

  • 雨鳴

    雨鳴

    その他

    こんにちは、雨鳴です。
    読んでいただいてありがとうございます。
    いやいやそんな事はないですよ…! 色々と方向性が覚束ないので…!

    他のボカロそろそろリンレン出したいなと目論んでおります。
    ただこの話が頭に出来上がって来たのがルカ発売以前なんですよね…
    他の彼らをどうするか、まだ考え中だったりします。

    2009/08/04 11:20:58

  • ヘルケロ

    ヘルケロ

    ご意見・ご感想

    ヘルフィヨトルです。
    さすがですね。
    この書き方は本当に真似できません><
    なんというか……ね。

    まだまだ続く気がします。
    ゴールが果てしなく遠い気がします。
    ミク、リン、レン、ルカ、メグ、がくぽが出てきてない気がします(無視していいですw

    2009/08/04 09:58:18

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