ミクは多量の生唾を一気に飲み込み、大きく息を吸い込んだ。
「やぁるひぃ~ぱぱとおぅ~うたりでえぇ~っ、語りあったさあああ~」
幸宏は彼女の歌声を聴いた途端、椅子から転げ落ちた。彼女の歌声は、歌いだしの音は外れ、ブレスは間違える、音程はガタガタという負の連鎖反応である。
「なにが歌う種族だ、なにがボーカロイドだ! ただの音痴じゃねーか!」
幸宏はミクの両頬をかなり強力に抓る。彼女は涙目になっていた。
「ご、ごめんなさ~い! じ、実は私、ボーカロイドの中でも百年に一度の音痴なんです~!」
幸宏の甘い疑惑は、人魚姫のように泡の如く消え失せる。嗚呼、やはりこの生娘の言う妄言に半ば信じてしまった自分が馬鹿に感じてならないと幸宏は後悔する。
しかしながら、幸宏がここまで酷い音痴と出会ったのは、高校での文化祭で催されたカラオケ大会以来である。ミクは当時の輩よりもを凌駕する負の歌声を有するのだ。
「か、代わりとは言えませんが私は家事や料理は並にできるので……」
「それくらい一人でやっとるわ!」
ミクは幸宏の怒号に戦く。
「と、とりあえず追い出さないで下さい! 私には身寄りがいませんから、せめてしばらくいさせてくれませんか?」
ついにミクは幸宏の足に縋り付く始末である。
「追い出したいところだが、夜は遅いし、お前は荷物も無い丸腰状態だ。しばらくは住ませてやるから安心しろ」
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