二人、山奥、幸せに暮らしていた。
腕を絡め、愛を口にし、唇を交わす。
森の小鳥の声を音楽にして、楽しく踊り狂った。
そんな毎日が続いていくと信じていた。
*
男が『数日間街にでかける。』と、女を残して山を降りる。
彼女は『愛してる。』と一言囁き、彼の背中が消えるまで手を振り続けた。
そんな彼のいない、ある雨の日。
コンコン、と遠慮がちな音がした。
彼女はそっとドアを開けると、ずぶ濡れになった老婆の姿があった。
「急な雨に困っておりまして。どうか少しの間だけ中に入れさせて下さい。」
優しい彼女は『まぁ大変。』と老婆を部屋に入れ、暖炉の前に座らせた。
タオルと一緒に温かいミルクを持って。
「あら、とても美味しいお味。そして暖炉。一人幸せねぇ。」
「いいえ、一人ではありません。大好きな人と一緒に住んでいるの。」
彼女がニッコリと笑うと、老婆もにこりと笑う。
『羨ましいねぇ。』とゆっくりと応えた。
するといつの間にか、雨は止んでいた。
ただの通り雨だったらしい。
窓から太陽の光が少しずつ入ってくる。
老婆は眩しそうに服で顔を隠す。
「さて、そろそろ帰ろうか。娘さん、ありがとぉよぉ。」
「そんなことないです。」
老婆がドアを開けると、何か思い出したように彼女の方を向く。
そしてゴソゴソと籠の中を漁り、取り出したものを彼女に渡す。
「まぁ、なんて綺麗な白い果実。見たこともないわ。」
「これは愛の果実。愛を確かめ合う果実だよ。お礼にあげよう。」
「まぁ、お婆さんありがとう!これでパイを作るわ!」
彼女は満面の笑みで老婆にお礼をした。
そして老婆はにんまりと笑い『お幸せに。』と言って、家を後にした。
老婆が帰ってすぐに彼女はパイを作り始めた。
慣れないお菓子作りに指に切り傷が増えていく。
「できた!味も自分にしては上出来だわ!」
彼女は作ったパイを頬張り、彼が帰って来るのを待ち続けた。
*
「ただいま、愛する人よ。」
少しの間だったが、懐かしい声に彼女は駆け寄り抱きついた。
「お帰りなさい!大嫌いな人!」
彼は「えっ?」と戸惑う顔をした。
自分の身体から彼女を放し、いなかった日々を謝罪する。
「そんなに怒っているのかい?ごめんよ、だから嫌いにならないで。」
「何を言っているの?私は貴方をいつまでも嫌い・・・」
彼女は自分の喉を抑えた。
思ってもいない言葉に頭が回らなくなっている。
「許しておくれ、愛する人。」
「違う。私は貴方が大嫌いよ。」
男は悲しい顔をして彼女を抱きしめる。
「本当にごめん、嫌いにならないで。」
彼女は抱きしめられた途端、涙を流した。
そして口にする。
「嫌いよ、大嫌い。貴方のこと嫌い。」
抱きしめられた腕は緩くなり、男は背中を向けた。
少し寂しげに『そんなに嫌いなら出て行くよ。』と言い、歩き出した。
「待って!違う!私はあなたのこと嫌い!嫌いなの!」
「違わないじゃないか!」
彼の腕を掴んでも、男と女じゃ力が違った。
簡単に振り解かれ、その反動に彼女は倒れる。
「さよなら、愛した人。」
再び彼の背中を見送った彼女。
土と涙に塗れてずっと言い続ける言葉。
「嫌い、嫌いよ。こんなに嫌いなのに・・・」
白い果実は『愛を確かめ合う果実』。
そこに本当の愛はありますか?
終
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