二人、山奥、幸せに暮らしていた。
腕を絡め、愛を口にし、唇を交わす。

森の小鳥の声を音楽にして、楽しく踊り狂った。

そんな毎日が続いていくと信じていた。



男が『数日間街にでかける。』と、女を残して山を降りる。
彼女は『愛してる。』と一言囁き、彼の背中が消えるまで手を振り続けた。


そんな彼のいない、ある雨の日。


コンコン、と遠慮がちな音がした。
彼女はそっとドアを開けると、ずぶ濡れになった老婆の姿があった。


「急な雨に困っておりまして。どうか少しの間だけ中に入れさせて下さい。」


優しい彼女は『まぁ大変。』と老婆を部屋に入れ、暖炉の前に座らせた。
タオルと一緒に温かいミルクを持って。


「あら、とても美味しいお味。そして暖炉。一人幸せねぇ。」

「いいえ、一人ではありません。大好きな人と一緒に住んでいるの。」


彼女がニッコリと笑うと、老婆もにこりと笑う。
『羨ましいねぇ。』とゆっくりと応えた。

するといつの間にか、雨は止んでいた。
ただの通り雨だったらしい。
窓から太陽の光が少しずつ入ってくる。
老婆は眩しそうに服で顔を隠す。


「さて、そろそろ帰ろうか。娘さん、ありがとぉよぉ。」

「そんなことないです。」


老婆がドアを開けると、何か思い出したように彼女の方を向く。
そしてゴソゴソと籠の中を漁り、取り出したものを彼女に渡す。


「まぁ、なんて綺麗な白い果実。見たこともないわ。」

「これは愛の果実。愛を確かめ合う果実だよ。お礼にあげよう。」

「まぁ、お婆さんありがとう!これでパイを作るわ!」


彼女は満面の笑みで老婆にお礼をした。
そして老婆はにんまりと笑い『お幸せに。』と言って、家を後にした。


老婆が帰ってすぐに彼女はパイを作り始めた。
慣れないお菓子作りに指に切り傷が増えていく。


「できた!味も自分にしては上出来だわ!」


彼女は作ったパイを頬張り、彼が帰って来るのを待ち続けた。





「ただいま、愛する人よ。」


少しの間だったが、懐かしい声に彼女は駆け寄り抱きついた。


「お帰りなさい!大嫌いな人!」


彼は「えっ?」と戸惑う顔をした。
自分の身体から彼女を放し、いなかった日々を謝罪する。


「そんなに怒っているのかい?ごめんよ、だから嫌いにならないで。」

「何を言っているの?私は貴方をいつまでも嫌い・・・」


彼女は自分の喉を抑えた。
思ってもいない言葉に頭が回らなくなっている。


「許しておくれ、愛する人。」

「違う。私は貴方が大嫌いよ。」


男は悲しい顔をして彼女を抱きしめる。


「本当にごめん、嫌いにならないで。」


彼女は抱きしめられた途端、涙を流した。
そして口にする。


「嫌いよ、大嫌い。貴方のこと嫌い。」


抱きしめられた腕は緩くなり、男は背中を向けた。
少し寂しげに『そんなに嫌いなら出て行くよ。』と言い、歩き出した。


「待って!違う!私はあなたのこと嫌い!嫌いなの!」

「違わないじゃないか!」


彼の腕を掴んでも、男と女じゃ力が違った。
簡単に振り解かれ、その反動に彼女は倒れる。


「さよなら、愛した人。」


再び彼の背中を見送った彼女。
土と涙に塗れてずっと言い続ける言葉。


「嫌い、嫌いよ。こんなに嫌いなのに・・・」


白い果実は『愛を確かめ合う果実』。



そこに本当の愛はありますか?





ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【小説】偽りTERM【短編】

童話「白雪姫」をベースにしました。
termは「ある特別な意味を持つ言葉」という意味があります。
また「期間」という言葉から、
嘘の言葉、偽りの愛の期間を示したつもりです。

偽りしか言えなくなった彼女。
そんな彼女を信じられなかった彼。

本物の愛なら、分かろうとしてくれる・・・はず。

そんな話が書きたかった。

駄文すみません;;

閲覧数:137

投稿日:2013/04/16 22:49:15

文字数:1,443文字

カテゴリ:小説

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