「私は別の世界から来たの。だから、私はアナタ逹みたいなただの人間じゃないの。私は特別なの。」
目の前の少女はいきなり電波的なことを口に出した。
遠くから転校してきたという彼女は、自分は人間じゃないと言い出した。
見た目は美人で、さっきまでは周りの人が、「お人形さんみたい」、「仲良くなりたい」とか、好感的な態度だったのに、言葉を発した瞬間静かになった。
担任は慌てて、
「み、みんな仲良くするんだぞ!!」
お決まりの文句を口にした。
でも、誰もその言葉に反応しなかった。
まぁ、その後は皆引いちゃって、誰も近寄ろうとしなかった。
美人だからといって、話しかけた勇者もいた。
でも、彼女は
「ただの人間が私に気安くしないで。」
偉そうに相手の好意を受け取らなかった。
当然彼女は孤立した。
俺も初めて見た時、可愛くてドキドキしたりしたけど、電波な子は無理だ。
しかも、偉そうにしているところなんて、可愛いげが全くない。
そんな俺の気持ちを変えたのは、誰も居なくなった放課後の教室だった。
俺は忘れ物をして教室に行った。
普段だったら、忘れ物をしたからといって、取りに行ったりしなかった。
でも、その時は何故か気になって教室に行った。
今思うと、このおかげで彼女と話すようになったから、何かに惹かれて教室に行ったのかもしれない。
…こんなこと言ったら、俺も彼女と同じく電波なのかも。
――♪~♪~~♪~
歌が聴こえた。
今まで聴いたことのない綺麗な声だった。
その歌は俺の教室から聞こえてきた。
教室を覗くと――――彼女が歌っていた。
夕焼けのオレンジの光が彼女の水色の髪に反射して、彼女だけが別の世界にいるみたいだった。
息をすることすら忘れて彼女に見とれていた。
とても長い時間そうしていたような気がする。
唐突に彼女の声が止まった。
「っ!?な、何してるの!?」
彼女は俺の姿を見ると、歌っていた時とは全く違う、怒っているような声で言った。
「いや、忘れ物を取りに来たんだけど…綺麗だったから…」
もしかしたら、俺も動揺していたのかもしれない。
話したこともないような相手にいきなり『綺麗』って言うなんて。
彼女は怒ると思っていた。
でも、彼女は顔を赤くして何を言えばいいのか分からない、みたいな困った顔をしていた。
その顔が可愛くて、目を逸らせなくなって――
――俺は彼女を好きになった。
「俺初音の歌好き。」
思わず口に出していた。
「歌」って言って良かった。
「…別に人間に褒められたって嬉しくない……」
ふてぶてしく呟く彼女。
耳が赤い。
―彼女は普通の女の子で人間だ。
それなのに、彼女はどうして自分を『特別』と考えているんだろう?
この時から俺は放課後に彼女と話すようになった。
彼女と話すようになったある日、彼女の制服から覗いた腕に、殴られたような痣があることに気が付いた。
「それ……どうしたの?」
「…何でもない。」
彼女が素直に答えてくれないことは分かっていた。
それでも、少しでいいから俺を頼って欲しかった。
だから、俺は怒ってしまった。
彼女の気持ちも考えず。
「何でもないわけないだろ!!俺じゃ話す価値もないのかよ!!」
「……当たり前じゃない。アナタに話す必要なんてないし。」
それは彼女の精一杯の強がりだったんだ。
彼女は素直になることが出来ないのだから。
俺は彼女の気持ちが分からず、その場から離れた。
―次の日彼女は教室に居なかった。
昨日あんなに怒ったくせに、彼女と会えなくて寂しくて、結局謝ろうと、放課後に教室に行った。
不思議に思って、何気無く窓の外を見ると――
屋上に彼女がいた。
嫌な予感がして、走って屋上に向かった。
「――初音!!」
彼女は驚いたように俺を見た。
「来ないと思ったのに…」
彼女の呟きは俺には聞こえなかった。
「危ないから、こっちに来いよ。」
「嫌。」
「な、何で!?」
「私は元居た世界に帰るの。」
「何言ってんだよ!昨日の怪我誰かにやられたんだろ?そいつが居るからなのか?」
彼女はゆっくりと首を横に振った。
「この世界の人は私を愛してくれないの。だから、私は私を愛してくれる世界に帰るの。…私は死ぬわけじゃないの。ただ帰るだけ。」
何が、何が彼女を壊したんだ?
彼女はずっと前から狂っていて、俺の一言で彼女にとどめをさしたのか?
何か、何か言わなきゃ。
彼女をこの世界に留めるための言葉を。
……でも、口から何も言葉が出なくて。
「私ね……アナタのこと好きだった。でも、アナタは私を愛してくれないものね。」
そう言って、彼女は笑った。
とても綺麗だった。
そのまま彼女は―――
俺の視界から消えていった。
―あれから何年経った?
君はそっちの世界で笑っているかな?
俺は毎日働いて、つまらない生活をしているよ。
何年も経ったけど、君のことが忘れられないんだ。
君の声を聞きたい、君の笑顔をもう一度見たい――
君のことばかり考えている。
君は俺の答えを聞かずに、そっちの世界に行ったけど、俺は君を愛していたんだよ。
……いや、愛している。
だから、俺もそっちの世界に行くよ。
君は俺を今も愛しているかな?
「今会いに行くからな、ミク。」
―サヨナラ、俺の世界
―コンニチハ、君の世界
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新世界の紙
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かっ…!!!こいい!!!!!
って思いました!w
2011/11/12 18:12:58