何も起こらないでくれよ。
横を通り過ぎる自動車に注意を向けながらも、前を歩くクラスメイトを注視する。
彼女との距離はおよそ25m。
彼女は高台の公園へと歩いていく。
近所に住んでいるから知っている。
はっきり言って、あの公園は人気が無い。
祝日でもカップルなら一組、他にはお年寄りの方が一人いるかいないか。
僕が静けさの欲しい時に重宝しているくらいだ。
でももし本当に間違いが起ころうとした時、僕は何が出来るんだ?
むしろ何も出来ずに固まってしまうのでは。
洒落にならない。
だから何も・・・。
・・彼女が辺りを見回している。
彼女の目の前は白い柵と、その先は・・・その先は。
心臓の跳ね上がる音と、頭から血の気が引く感覚。
「あ、お・・・」
到底彼女に届くはずの無いくらい小さな声。
無意識に漏れ出した音。
彼女が柵に近づいていく。
「おい・・」
この期に及んでまだ押し殺している声。
その間にも彼女は柵に手を掛け・・
「・・おい!何をっ」
一拍置いて声を張り上げる。彼女へ体を走らせながら。
「やってる!」
手提げ鞄を放り投げようとしたけど、
その鞄が盗まれたら・・
どこか冷静な理性がそれを押し留めた。
自分でも苦しげだと分かる荒い吐息が歯の隙間から噴き出した。
この時の僕はどんな顔をしていたのだろうか。
彼女が僕に気付いて顔を向けると、驚いた表情で急ぎ柵を乗り越え、僕の方へ体の正面を向けた。
「来ないで!来たら・・・!」
彼女との距離は5mほど。
彼女の後ろは崖になっているはずだ。
崖の下はアスファルトの歩道。
止まらない訳なかった。
嘘だろ。
洒落にならん。
僕と彼女は見つめ合った。
彼女が目を逸らしても、僕は逸らせない。直感だった。
「どうして、あなたが・・・?」
「僕を知って?」
彼女が顔を下へ背ける。
間を空けないよう急ぎさしさえの無い言葉を続ける。
「そりゃそうか。クラスメイトだもんな」
彼女が顔を上げる。驚いた表情だった。
なぜ、驚く?
そんな疑問を無視しながら、僕は考えていた。
この状況の回避方法を。
ここから立ち去るなんてことはもう出来ない。
せめて何事もなく・・・。
「キミがこちらに行く姿が見えて・・失礼だけどまさかと思って」
何事もなく終われる筈が無いじゃないか!
彼女は柵を越えてる。落ちる気満々だ。
しかも僕の一言がキッカケになる状況。
どう考えても可能性なんて無いに等しい。
彼女は顔を上げたまま、僕の言葉にしばし呆然としていた。
「やっぱり私、そんな風に見えるんですね」
呆然としていた彼女がゆっくりと我に返り始めた。
まるで自嘲しているように。
いただけない方向へ進み始めた。
脳内で警告音が聞こえるようだった。
でも、そんな状況でも、初めて聞いた彼女の声をキレイだと思ったのは事実だった。
「・・・嫌で嫌でしょうがないんです・・。毎日本当に嫌で」
彼女が内心を吐き始めた。
前にそんな行動を取る人は、自分の内心を聞いて欲しい欲求があるからだと聞いたことがあるけど・・。
焦る内心を、わざとそんな雑学を考えることで冷静に保とうとする。
「もう、本当に死にたい・・・。いなくなりたい・・・」
彼女がしゃがみ込む。
今か?!
「来ないで!」
前に出ようとすると拒絶される。
「来ないでよぅ・・・」
彼女は少しでも後ろに行こうとしている。
くそっ!
こんな事態になるなんて。
ある程度想像していたけどダメだ。
やっぱり想像と現実のギャップは激しい。
何よりもプレッシャーが物凄い。心臓が高鳴りっ放しだ。次第にぼうっとしてきた。
このままじゃ。
もういいという諦めと、諦めたことで出来た覚悟で、僕の中の何かが切れた。
「死ぬな!死なないでくれ!」
俯いて泣いていた彼女が顔を上げた。
「僕はキミに死んで欲しくない!今、目の前で死なれたら僕は・・・」
トラウマになってしまう。
言ってしまった。本音を。
でも結局、結果が悪くなる可能性大なら、どうせなら本音で攻めた方が良い。
「お願いだ。今、僕にはキミが必要なんだ。生きているキミが」
そう言って僕は手を差し出す。
なんて身勝手な要望。
でも本音ってのはこんなものなのかもしれない。
人間なんてのは自分勝手なものなのだ。現に彼女だって。
彼女が僕を見返してくる。
僕の身勝手な発言に怒る様子もなく、むしろ意外過ぎる発言に呆気に取られているようだ。
それでも彼女の悲しげな表情は崩れることはなかったのだが。
手を差し出しながら、僕は柵の向こうの彼女に近づいていく。
彼女はどういう表情をすれば良いのか分からないのだろう。
顔をうつむけたが、僕に向かって徐々に手を差し出してくる。
数瞬、ホッと気を抜いたが安心できない。
彼女の表情は見えない。
もしかしたら思いつめた顔をしているかも。本当は怒っているかも。
この手を掴んだ瞬間、柵の向こうへ引き込まれたり、もしかしたら手を取る前に崖が崩れたり?
・・・用心に越したことはない。
今、気づいた。
先ほどの自分の発言は、ある種の告白と取れることは・・。
もしやこれがキッカケでお互いの仲が?
何にしても、
この手を取るまでの時間も、
その後の僕の生活も、
〈いつも〉とは違うものになることは、間違いないだろう。
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