「おはよう」


鏡に向かって言う、だが、僕に言ってるわけではない。

鏡の世界のキミに言っている。

僕の部屋の鏡からとある世界のキミが見える。

世界は広い、キミがどこにいるかすらわからない。

だけど、僕はキミに惹かれていた。


鏡を見ればいつもキミがいた。

キミと目が合うことだってある。だけど、キミはこっちには気づかない。

僕のほうからしか、見えないのだ。

鏡の世界の住民、僕と顔がとても似ている。

だから、僕はキミを幼いころ事故で亡くなった双子の姉の名前で呼んだ。

亡くなった人と重ねるのは失礼だが、僕はそれで心が救われるのだ。



キミがいれば幸せだった。ずっとずっと。

鏡を見て「リン」と呼ぶ。

キミとずっと一緒にいたいという願望は日に日に大きくなった。

しかし、休みが明け、学校へ行く時間だってある。

授業なんて手につかなかった。ずっとキミのことを考えてるのだから。

キミから僕が見えればいい、なんて考えた。

鏡の向こうへ行きたい、って思ったときもあった。



ある日、キミが鏡に向いて笑ってくれたことがあった。

僕に気づいてくれたのかと思い僕も最高の笑顔を返した。

しかし、その後、キミの部屋の扉から一人の男が入ってきた。



ソイツハ、ダレ?



男とキミは仲良さげに話していた。

僕は「ヤメテ」とずっと叫んでいた、しかしキミは気づかない。

キミの笑顔がアイツに向けられる。

僕はついに鏡を壊した。


パリーンという綺麗な音と共にキミの姿は消えていく。

そこで、僕はようやく正気を取り戻した。


「リンッ!! リン! リン!!!」


何度もキミの名前を呼ぶ。しかし、鏡からはもう、キミの姿は見えなかった。

その途端に頭痛がした。頭を抑えると手に赤い液体が着く。


コレハ、ナニ・・・?



一瞬鏡を見るとキミが写っていた。

「リンッ!!!?」


一瞬でキミは消えたけど、キミは涙を流していた。

違う、涙を流していたのは僕。


キミの顔は、全て僕だったの?



頭痛は酷くなるばかり。



そこで、ついにわかった。




鏡の世界の住民は、僕だったんだ――・・・

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

鏡の祭典

閲覧数:135

投稿日:2010/07/27 21:23:44

文字数:926文字

カテゴリ:小説

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