――とある電化製品専門店。
「・・・お客様、本当にそれをお買い上げで・・・?」
「嵩張らないし、それほど重くないし。大丈夫でしょう? もうお金払っちゃったし」
「いえ、そういうことでは・・・」
一人の店員が、困ったように言った。
それを聞いて、客はさも当然のようにそのまま店を出て行く。
「ああっ、お客様!お釣りを・・・」
あとには、呆然と立ち尽くす、またはあたふたとレジの中で動く二人の店員と
・・・明らかに多すぎるお札が残った。
――研究所?
カチャカチャ・・・・・・
「ここはこうでしょ、で、あとは・・・」
キーボードを叩く音が、暗い部屋の中に響く。
大きなディスプレイの前で、誰かが作業をしていた。
その後ろには、六人ほどの人影がある。
「・・・よし、インストール!」
ブン・・・・・・
その人がキーを大きく叩くと、後ろの人影が、うっすらと光った。
「・・・うん、バグは確認できる中では無い。あとは実際に動かしてみないと・・・・・・」
その人は席を立つと、そばの小さな扉から部屋を出て行った。
それと同時に、人影が地面に吸い込まれるように消えた。
――その十分後。
ベットにタンス、机にクローゼットなど、ごく普通の一人暮らしのような小さな部屋。
……いや、普通ではない。その部屋には窓がなかったし……
<プログラム群“VOCALOID”、起動>
カチリ、よく聞かないと聞き逃してしまうような小さな音。
部屋の床には、黄色や緑、赤など様々な髪色の人が、六人倒れていた。
「う……ん?」
始めに目を覚ましたのは、とても長い緑の髪をツインテールにした少女。
寝ぼけ眼であたりを見渡し、自分の周りに倒れている人に気がつくと、その顔を少し青くした。
「お、起きてください 起きてっ」
その少女は、少し違和感のある喋り方で、周りの人達を起こしにかかった。
順番に体を揺すっていると、他の人も次々目を覚ましだす。
「・・・・・・なんだ ここ・・・・・・」
青い髪になぜかマフラーをした男性が、目を覚ました。
やはり違和感のある口調でつぶやくと、辺りをきょろきょろと見回した。
そして、緑の少女と目が合うと、尋ねた。
「ねえ ここはいっt「いいからっ 他のみんな起こすの手伝ってっ!」
・・・・・・見事にセリフをぶった切られ、少し不満そうな顔で青の青年はすぐそばの赤い服の女性の方に這いずっていった。
「ん・・・・・・あれ?」
「ここ どこ?」
次に起きたのは、黄色い髪の双子。
全く同時に起き上がったかと思うと、きょろきょろと辺りを見渡し始めた。
そして、ピンクの髪の女性を見つけると、飛びついた。
「きゃあっ」
飛びつかれた方は、たまったもんじゃない。すぐに飛び起きた。
と、同時に・・・・・・
「どこ触ってんのよっ」
スパーンッ
なにやらいい音と共に、赤い服の女性も起き上がった。
その隣で、さっきの青い人が、頬を押さえている。
「この・・・変態っ 痴漢っ!」
「待ってよ、起こそうとしただけで・・・「他にやり方はあるでしょうっ!」
・・・どうやら、青い人が何かしてしまったらしい。
「あの・・・ここは?」
起きたばかりのピンクの人が、そう尋ねた。
赤い人は、大上段に構えていたビール瓶を下げると、言った。
「私にも、わからない。だけど・・・」
「「うん」」
双子が、同時に頷く。
「「「「「「狭い!」」」」」」
そう、この部屋は小さい。どう考えても、六人も入るようなスペースはなかった。
六人は、示し合わせたように部屋の中を捜索しようと立ち上がる。
・・・と。
ポーン
そんな、何処かお間抜けな音が部屋に響いた。
「・・・あ」
上を向いた緑の人は、そこに変な字を見つけたのだった。
――『自己紹介した?』
ああ、忘れてた。
そんなカンジで、六人はもう一度床に座る・・・
・・・座ろうとしたが、明らかにスペースが足りない。
なので、双子と緑の人が、ベットに腰掛けた。
――・・・律儀すぎるっ・・・!
そんな様子を見て、もうひとつの部屋の人が身悶えしていたというのは、また別の話。
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