第二章

「あー…、お、いたいた!あんた達ー、そんなに警戒しないで話し合いましょ?まー、大体のいきさつは予想がつくから。」
あいつは確か…、MEIKO!赤い流星と呼ばれた一色メイコか!奴が此処に来る理由なんてひとつしかない。
「まー、今回は痛み分けって事でさ、ウチの子帰してくれない?こちらとしても手荒なことはしたくないし。」
向こうはあくまで下手に出る気はない。確かにホンの数分前なら、妥当な条件だ。ヤマギワを全焼させたのはリンだとは言え、当事者をほっぽって、レン君を拉致した事実は否めない。だが、さっきの話の後では事情が違う!私は、レン君とサイさんに背を向けて部屋の戸に向かって走り出す。
「ネルるん!」
「お姉さん!」
立ち止まってそのまま答える。
「あいつがここに来る理由なんか一つしかないっちゃ。行って追い返してくる!」
「ダメだよ!お姉さん!MEIKO姐さんは…」
「亞北ネル」
「え?」
「私の名前よ。亞北ネルよ。」
「ネルさん…。」
「大丈夫。私の愛があなたを護るわ。」
「「あっ!」」
二人が止める間も有らばこそ、私は全力疾走で飛び出していた。

目的の更地にたどり着いた私は、MEIKOと対峙できる距離まで来て立ち止まった。
恐ろしいまでの余裕を見せるMEIKOに、私は毅然として言う。
「悪いけど、話し合いの余地はないっちゃよ!レン君が自発的に帰るといわない限り、話し合いに応じるつもりはないっちゃ!」
「あー、そう。こっちもね、手ぶらで帰るわけにはいかないのよ。次世代VOCALOIDによる暴走事故に、備品の紛失。あなたたち人間は何時だって私たちに結果しか求めない。人並みの自由のない私たちはここで退くわけにはいかないのよ。」
備品?今、備品って言ったか?私はやり場のない怒りをMEIKOにぶつけようとしている自分が無性に悔しかった。
「とにかく、いまは応じられ無いっちゃ!話し合う余地があるならこちらから出向く。だから、これで話はお終いっちゃ!」
「残念」
きゅぽ、とマイクスタンドの集音部を取り外すと、おもむろに手を振り上げる。それは、放物線を描いてニコニコ荘の上空に舞った。
ズガァァァァァァン
すざまじい轟音と閃光がニコニコ荘を襲い、ニコニコ荘の上層は瓦礫となって降り注ぐ。
こ、此処までするか?!さすが、初代VOCAROID最強といわれたMEIKO!判断に迷いがない!
「レン君!サイさん!」
踵を返し走り出そうとする私の前にMEIKOはすばやく回りこむ。
「おっと、逃がしはしないわよ。」
やるしかない!
「一瞬で決めてやるっちゃよ!」
私は一気に間合いをつめ、AU・W54SA(山吹色)を起動!リンを葬った「まぜ生」を最大出力で浴びせる。
『きんきゅー事態はっせい!お電話が来たみたいです!いえっさ!』
決まった!そう思った瞬間、信じられないことが起こった。
MEIKOはそのまま私の腕をつかみ、何事も無かったように立っている。
「な、なぜ…」
「あー…。残念だったわねー。私たち初期のVOCALOIDは、不安定だったココロ・システムを補うために別動力が内蔵されてるの。そして、私の補助動力は…」
そういってゆっくりとマイクスタンドを振り上げるMEIKO。
「原子力よ!!」
その刹那、奇声をあげてMEIKOに襲い掛かる人の姿をした何かがあった。
                「 ひ
                  ぃ
                  ぃ
                  ぃ
                  ぃ
                  ぃ
                  ぃ
                  ぃ
                  ぃ
                  ぃ 」
二本の大鉈を振り下ろし、飛び掛る管理人さん!それを間一髪で受け止めるMEIKO。
「…アナタノアイテハワタシヨ…MEIKO…」
「か、管理人さん!」
「じゅ、呪音キク!貴様、生きていたのか?!」
「…アナタガタオシタノハワタシノカゲニスギナイワ…アナタヘノアイデワタシハナンドデモヨミガエル…」
「それを、ストーカーって言うのよ!」
「チガウノ!ニンジャナノ!」
意味不明のやり取りの後、激しく打ち合う二人。どちらも譲らぬ一進一退の攻防だ。
キクさんっていったい…?
そんなことよりも!ニコニコ荘を振り返ると、レン君を抱えたサイさんが危うげなく着地したところだった。GJ!サイさん!
そのとき、物陰に隠れていたリンが姿を現す。
「アンタの相手はアタシだ、亞北ネル…。」
しかし、前の戦いでのダメージは回復していない!やれる!
「…あン時は不覚を取ったね…。でも、これでどうかな?!ジェンダーファクター発動!」
「うっ!うわぁあああああっ!!」
振り向くとレン君の体が光を発している。な、何だ?何が起こってるっちゃ?!
一瞬、気をとられた瞬間にそれは完了した。
「ふふふ…。これで、先ほどのハンデはチャラ。いや、あんたが、この鏡音レンに手をだせるかな?!」
悪夢のような光景だった。目の前にいるのは間違いなくあの、鏡音レン君。でもその声は、先ほどから喋っていたリンのそれに変わっていた。
「ハハハ!アタシとレンは本来一心同体。だから、互いに搭載されたジェンダーファクターを使えば、精神を入れ替えることも可能って訳!」
私は無意識の内に唇を噛み切っていた。
「ネルるん!ここは私が…」
そういって前に出ようとするサイさんを私が制する。
「お願いっちゃ。サイさん。私にやらせて。」
「…判った。」
そのとき私はどんな表情をしていたのだろう。サイさんは何も言わずにしたがってくれた。
その刹那。
「ネルるん、危ない!」
ズドドドドドドドドドッ!
今まで二人がいた場所に無数のネギ、いやファンネギが降り注ぐ。初音か!上空を見るが、太陽を背にしているのでその姿はおぼろげにしか見えない。
超遠距離で接近させずに仕留める気か!
その、シルエットは、まるで踊りを踊っているかのように揺らめきながら、徐々に残像を生み出していく。質量のある残像、Hatyune…。私達の視界はすでに、敵で埋め尽くされようとしていた。空が三分に、敵が七分。青空を埋め尽くした残像が一斉にネギを投げる。逃げ場の無い超高密度のネギの雨。逃げられない!
私がそう思った次の瞬間!懐から2本の武器を取り出したサイさんが私の前に移動する。彼女は両側に湾曲した支剣の付いた短剣状の武器を左右の逆手に構え、舞うように動く。
ギギギギギギィン
降り注いだネギは全てサイさんの両手の武器によって打ち払われていた。
すかさず右手の武器を投げるサイさん。
「!」
私には見えなかったがサイさんは手ごたえを感じたのかにやりと笑う。上空を埋め尽くしていたHatyuneは蜃気楼のように薄れ、消えていく。
みると、頬から一筋の血が流れていたがサイさんはそれを指で拭って舐めとった。
「止めを刺しに行くわ。ネルるん。…あの子を止められるのはあなたしかいない。しっかりやるのよ。」
「ありがとう、サイさん!」
振り向くと、そこにレン君の姿をしたリンが立っていた。
レン君はリンの体のまま倒れこんでいた。リンが前の戦いで受けたダメージが大きかった事と、突然肉体を奪われたショックのせいだろう。
「いまので、終わらないとはね、じゃ、そろそろ本気で行くよ?」
「今のあんたにはロードローラ-がない。生身なら私の方が有利だっちゃ。」
そういってAU・W54SA(山吹色)をかまえる。しかし、無傷で捕らえる方法など思いつかない。
「ハッ!これでもそう言ってられる?KAITOにぃーにぃー!」
KAITOまでいる?!周囲を見渡すが判らない。どうしよう、さきが見えない!
そのとき、何処からとも無く飛んできた、六角形の金属質の円盤をリンがキャッチする。
「ふふっ、この核金さえあれば千人力よ!トレースオン!!」
掛け声と共にその金属片は形を変える。私は、眩い光に負けて目をつぶってしまう。目を開けた瞬間、そこに迫るのは殺意という名の十字の刃。
間一髪それを避けたものの、バランスを崩し私は倒れこむ。
「うぁっ」
レン君の姿をしたリンの手には、巨大な十文字槍が握られていた。そうか、さっきのあれで、ロードローラ-も…。
「お別れ日よりだ!サイハテに行け、亞北ネル!」
なすすべも無かった。私の手に握られていたはずのAU・W54SA(山吹色)は何処にも無かった。ありとあらゆる絶望が私を襲う。そのとき、突如として現れた影が私とリンの間に立ちはだかった。



                飛べ! こんちぬえd!

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

【小説】『亞北田ネルルの暴走(中編)』(修正版)

なんとなく不評だったので全面改訂版。
前のバージョンも残しておくので見比べてみては?

前編こちら
http://piapro.jp/a/content/?id=moeuvgi8aelwvyur

ついに完結!
http://piapro.jp/a/content/?id=6f88nuwo3xcxfvtr

閲覧数:557

投稿日:2008/05/01 01:39:39

文字数:3,608文字

カテゴリ:その他

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  • HiBiKi

    HiBiKi

    ご意見・ご感想

     ちょw武装した錬金術師のことスルーなの!?
    って言うか戦闘シーンみて
    「MSXミク…どう戦おうか?できるだけウォン・ビンにしたいな。」
    …と設定を考えてしまった。ウォン・ビンっ!!

    2008/05/31 21:37:28

  • 晴れ猫

    晴れ猫

    ご意見・ご感想

    MEIKOとミクの登場ですかww
    なんか戦闘シーンがものすごいことになってますねw

    降り注いだネギは全てサイさんの両手の武器によって打ち払われていた。

    カッコいいけどネギってのがうけるww

    2008/05/10 15:51:49

  • タラバ

    タラバ

    ご意見・ご感想

    あー…。すいません。ハクは、オチ要員です。(笑)

    2008/04/15 18:04:47

  • utu

    utu

    ご意見・ご感想

    『ニンジャナノ!』吹いたw

    んでもって、もっそデジャヴがw
    次回はハク姐さんの活躍に期待ですね!

    2008/04/15 13:04:38

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