それではこれから話者を、俺、キドに移すことにしよう。
それでは、何をすることにしたか、って?
簡単なことだ。俺たちは遥が入院している病院に向かったんだ。普通なら夏の暑い日にパーカーを着ている連中を、きっと通してはくれないだろう。しかしながら、それが許可されたのは俺たちの仲間にエネがいたからだ。
「団長さん、私が居たから入ることが出来たんですよ! いきなり『遥の病室はどこだ』なんて言ってはっきりと答える人なんて居るわけないじゃあないですか」
エネは肉体――つまり貴音に戻っても、お喋りなところは変わらないらしい。
何というか、それもそれで彼女らしいといえばらしいのだが。
四〇三号室。
そこが彼の病室だった。
「誰がノックする?」
「そりゃあ、もう」
「団長でしょ」
キドの問いに、セトとカノが言った。
それを聞いて、やれやれと言った感じで彼女は首を振る。
そして――キドはドアをノックした。
≪サマータイムレコード【後編】≫
「開いてますよ」
あっけらかんと言われてしまい、キドは少し動揺する。
しかしながら、相手――遥からそう言われてしまえば、仕方が無いことだ。
そう思い、キドは扉を開ける。
そこには、遥がいた。
遥は、入院する時に着用するような衣服に身を包んでいて、髪の色は茶色だった。
すっかり、『コノハ』としての彼とは風体が変わってしまったのだが、しかし雰囲気ははっきりと残っていた。
「コノハ……いや、九ノ瀬遥で間違いないか?」
「そうですけれど……、あなたたちは?」
「俺たちは、メカクシ団。かつてお前とともに『カゲロウデイズ』に囚われていた。……と言っても、その記憶はなくなっていると思うのだがな」
◇◇◇
それから、俺たちはいろいろな話をした。
先ずはエネ以外の存在を忘れているから、それについて、自己紹介を済ませることにした。何せメカクシ団は十人近く居る。挨拶だけであっという間に時間は流れていく。
それから、気が済むまで『秘密基地』であった出来事、カゲロウデイズと対面した出来事、そしてそれ以外のことを話し合った。
本当はいろいろと書き記したいところだが、紙幅が足りないから、今回はここで済ませてしまう。
そして、夕方になり、面談時間の終わりを告げるチャイム――パンザマストが鳴り響いた。
「もうこんな時間か……。どうだ、遥? 少しは思い出せたか?」
「いや……申し訳ありません。色々と話して貰ったのですけれど、思い出せなくて」
「それは別に良い。それで構わない。それが俺たちのやり方だ。夏の、ほんの思い出で構わない。だから――」
「遥……、あんた、泣いてるの?」
エネの言葉に、漸く気づいた遥は、頬を伝うその涙をすくう。
「あれ、ほんとうだ、どうしてだろう? ……あはは、おかしいですね。泣いている理由も分からないのに、涙が出るなんて」
「……まあ、それもお前の優しさなのだろうな」
俺はそう言って、踵を返す。
後は、時間がなんとかしてくれるだろう。
俺たちがいたという記憶を、できる限り思い出してくれるなら、それで構わない。
そう思っていたのだが――。
「あのっ」
遥が、俺の足を止めさせた。
「……何だ?」
「出来れば、もう一度、いや、何度でも来てくれないですか?」
それを聞いて、俺はしっかりと頷いた。
「ああ、何度でも話してやるぞ。メンバーの言うことはしっかり守る。それがリーダーである俺の役目だからな」
◇◇◇
それから。
夏の間、俺たちは毎日のように面会した。
ある日は外に出て笑い合って。
ある日はカノのやらかした事をみんなで話し合って。
短い間だったけれど――それは本当に楽しい毎日だった。
――でも、夏には終わりがやってくる。
◇◇◇
「明日、退院なんだってな」
俺は一人で遥に会いに来ていた。その頃にもなれば、看護師の人にも顔が覚えられていて、「あら、キドちゃん!」なんて言われてしまう始末だ。……別にそんなことはどうだっていいのだが。
「誰も来れなかったんですか?」
「いろいろな理由があったよ。一番阿呆らしい言い訳は、エネだ。聞くか?」
「どうせ、夏休みの宿題が終わらなかった、とかそんな理由でしょう?」
「分かっているじゃあないか。そうだよ、その通りだ」
「……じゃあ、お前と出会うのも最後になるかもしれないな。学生には学業があるだろう?」
「キドさんとも、出会えないんですか?」
「会いたかったら、会いに来れば良い。メカクシ団のアジトはエネに教えてある」
「それじゃあ、さようならなんて水くさいですね」
「?」
「また、どこかで会いましょうよ。……僕は結局、思い出せなかったですけれど、あの夏の日のことを笑って話せるように、一歩ずつ歩き出せばいいんです」
「……そうだな」
俺は、踵を返す。
元々長居する予定でもなかったし、今日行く予定でもなかったのだ。
しかし、今日は八月三十一日。夏休み最後の日だ。その日に会いに行かないのもどうかと思い、結局、都合がつかなかった皆を除いて俺だけがやってきた、ということになるのだ。
「また、どこかで」
俺はぽつりと呟いて――病室を後にした。
遥の太陽みたいな輝く笑顔を横目に、スライド式のドアは閉まっていった。
◇◇◇
そして、九月一日。
今日から新学期!
そして、僕が復活する日でもある。貴音は元気かなあ? 結局昨日は来られなかったようだけれど、きっと目にクマでも作ってるんだろうなあ、それが宿題による徹夜なのか、ゲームによる徹夜なのか、分からないけれど。
僕は色々あって宿題は免除。それはちょっとずるいかもしれないけれど、昨日まで入院していたのだから、仕方ないよね。
残暑の空は、どこか眩しく見えた。
透明にも見えるその青空に――僕はどこか既視感を覚える。
それはかつてメカクシ団として『カゲロウデイズ』に挑んでいた頃の僕?
それとも、ただの九ノ瀬遥が過ごした夏?
それは、誰にも、僕にだって、分からない。
けれど、夏は終わった。
そんな『夏休みの思い出』を心に残しながら、僕は通学路を歩いて行くのだった。
サマータイムレコード
終
【二次創作】サマータイムレコード【後編】
「――また、どこかで」
<原作>
http://www.nicovideo.jp/watch/sm21737751
<前編>
https://piapro.jp/t/kVI7
<言い訳>
そして、それから三年も経過してしまった。
必ず書き上げると言って、時間が経過しすぎてしまいました。
それでは、また、どこかで。
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