オリジナルのマスターに力を入れすぎた結果、なんとコラボで書けることになった。
オリジナルマスターがメイン、というか、マスター(♂)×マスター(♀)です、新ジャンル!
そして、ところによりカイメイ風味です、苦手な方は注意!

コラボ相手は、かの純情物語師(つんばる命名)、桜宮小春さんです!
(つ´ω`)<ゆっくりしていってね!>(・ω・春)



******



 日曜日。前日に美憂先輩とのみにいった、と言ったら、めーこさんから盛大に叱られた。叱られるのを回避するために、かいとくんも一緒に起こしたというのに、容赦のない叱りっぷりで、思わず私とかいとくんが一歩引いてしまうくらいに。
 かいとくんに事情を知らせないという言質をとった以上、めーこさんのお叱りの雷もすこしで済むかとおもったのが、甘かったらしい。めーこさんは、腹具合が悪いといったすぐ後に酒をのみに行くなんて、と、直接的にはいわなかったが、微妙な言い回しで私のことを非難してきた。……ほんとうに、めーこさんのボキャブラリーには恐れ入る(……まあ、身から出た錆ではあるけれど)。
 めーこさんの剣幕に、かいとくんが首をかしげながらも、

「めーちゃん……それくらいにしてあげて?」

 と、白タオルを投げ入れてくれたので、なんとかその場は収まったが……うん、もうしないよ、めーこさん。次からはちゃんと養生するよ。だから、そんな般若のような顔でこちらを見ないでくれるかな。
 ……やれやれ。美人が怒ると、怖いことこの上ない。



―Grasp―
アキラ編 第八話



 さて、ここで怒れる美人を更に怒らせてしまうような事態が芽を出した。

「……どこにやったっけ」
「何がです?」
「……コラボの音楽データ」

 はぁ? と、めーこさんの目がつりあがる。……すごいな、目ってこんなに釣りあがるものだったのか。

「いつものフォルダ、ちゃんと探したんですか!」
「おかしいねえ、どこに仕舞ったかな」
「マスター、パソコン内全検索。おれ、この間教えたでしょう」
「……かいとくん、あのデータのファイル名覚えてる?」
「ああもう、マスターってば! いいです、私が探してきます!」

 ぷりぷりしためーこさんは、自分で勝手にエディターを閉じて、勝手にパソコン内を探しに行ってしまった。……うん、探してくれるのは嬉しいんだけど、たぶんめーこさんの機嫌は悪化するんだろうなあ……。

「帰ってきたら、どう機嫌を取ったもんかね」
「というか、なんでメイコはあんなに怒ってるんですか」
「さっきの話どおりだよ。私が具合わるいのに飲み歩いているから」
「そんなの日常茶飯事じゃないですか。怒りすぎじゃ……」

 この口ぶりで、かいとくんが本当になにも知らないことが確認できる。めーこさんが約束を破ることはまずないだろうけれど、それでもやっぱり心配なものは心配だ。
 それは、膿んだままの傷口を触れられたくないきもちと似ていると思う。

「かいとくんが機嫌とってくれよ。私はもうめーこさんに怒られたくないし」
「……マスターが損ねたメイコの機嫌を直すのに、おれがどれだけ苦労してるか知ってます?」
「知るかリア充。さりげなくめーこさんを呼び捨てしおって」
「2次元上にしかいないおれたちを『リア』充と呼びますか。他の人がいる前でメイコって呼ぶと嫌がるんですよ、彼女が」

 かのじょ、か。かいとくんも一端の口を利くようになったものだ。

「……話は変わるけど、かいとくん」
「なんですか」
「めーこさんが最初にうたったうた、聴いたことがあるかい?」
「へ? ……あ、そういえば、ないですね……それがなにか?」
「いや、今思い出しただけだから」
「なんですかそれ」
「……マスター」

 そして般若のような形相の彼女が戻ってくるわけである。その手にデータが……握られて、いない。

「ないです」
「ない? どういうことめーちゃん」
「ないったらないのよ! 勢いでゴミ箱の中まで見てきちゃったわ、それでもないのよ!」
「ま、まさかマスター、おれたちに内緒で隠しファイルとか」
「きみたちに秘密にしなきゃいけないようなものだったら、そもそもこのパソコンに入れるか!」

 そもそも、音楽データなら、ファイルを隠しては私にとっても彼らにとっても益がない。それなら、外部メモリに保存しただろうか。バンドで使う音源などは、USBに保存してあったりするから(その方が持ち運びの点で楽なのだ)、そっちに紛れ込んだのかもしれない。
 が、普段持ち歩いているUSBと、音楽プレイヤーも、ない。おかしいな、と思いながら、昨日着ていたジャケットや荷物をまさぐり、財布がでてきたところではたと気がついた。
 昨日、会計の時に(そういえば結局美憂さんの分まで払ってしまった。後で請求しないと)、財布を取り出す際じゃまだったから、いったんプレイヤー類をカウンターに置いたのだ。そして、そのあと、荷物に戻した覚えがない。

「……店に忘れてきたかもしれない」
「もう、マスターったら!」

 ああ、ここでまた雷が降るのか。とことんついてない。……いや、私が全面的にわるいのだけれども。

「マスター、今日はめーちゃんに怒られてばっかりですけど、本当にどうしたんです?」

 不思議そうなかいとくんを横目に、私は携帯を取り出し、件の店の番号を呼びだした。


 電話に出たのはマスターで、やっぱり昨日、美憂先輩に気を取られて忘れて行っていたらしい。営業時間内に取りにおいで、と、言われたので、どうせだからバンドの練習に行くついでで、取りに行くことにした。週に一度のスタジオ練習では、例のカクテルバーを通り過ぎた先にあるスタジオを借りている(学生にはきちんと学生料金で貸してくれる、良心的ないい店だ)。
 少し寄るだけだから、と思いながらも、すこしだけ仕立てのいい上着を羽織って出てきた。夕方といえる時間帯だが、もう通りは薄暗い。鞄に入ったスティックバッグの中身ががらごろと音を立てるが、不思議と夕闇に似つかわしい音だと思った。
 店の前に着くと、開店して間もない時間帯なのにだれかお客がいるようだった。日曜とはいえ、この時間帯に客がいるのは珍しいことだ……そう思いながら、ドアチャイムのついていない扉を押しあける。

「好きなんだよね? 東雲さんのこと」

 いきなり名前が聞こえてきてどきりとしたが、その声の主の目の前に座っているのが、またしてもよく見知った人物であるのに少なからず驚いた。すこし俯き気味にしてはいるが、あれはまさしく悠サンだろう。

「そりゃ……好き、ですよ。じゃなかったらここまで悩みませんって」

 ……なんか聞こえたな。もしかして先のマスターの質問の答えか。
 思わず大きな溜め息が口を衝いて出る。
 大の大人が、しかも男が、中学生女子か高校生女子みたいな噂話ごときで盛り上がるとは。

「……ハルちゃん先輩、アンタまで美憂先輩と同じような妄言を……」
「やあ、東雲さん」

 いい歳してよく恥ずかしげもなく好きとかいえるもんだ、と、思いながら、マスターを見遣る。きっと目つきはきついだろうが、なにごともなかったかのようににこやかな笑顔で応対してくるマスターだから憎らしいというか、どうあっても敵わないというか……まあ、いい。

「マスター、このイトコふたりをあんまりからかわないでください。調子に乗るんで」

 いちおうの釘をさしてから、忘れ物取りに来ました、というと、これだね、と、カウンターの裏から、USBとプレイヤーの一式を差し出された。よかった。なくなったり盗まれたり壊れていたりを心配していたわけではないけれど、やはりきちんと手元に戻ってくると安心するものだ。

「ありがとうございます」

 いいんだよ、という風に、マスターはいっそう頬の皺を深くした。そのマスターにちょっと笑って見せて、それじゃあこれから練習なのでお暇します――と、告げようとしたところで、

「あ、アキラ……」

 後ろからかけられた声は、いかにも気遣わしげというかおそるおそるといった体だった。
 なんだか悠サンの顔色が違って見える。とはいえ、悠サンは私のように、体調不良をごまかすために酒を飲むなんてばかなまねはしないひとだ。気のせいか、もしくは店内の照明のせいだろうか。

「なんですか」
「あの、さっきの……」

 さっき? さっきっていつだ。ほんの少し前の記憶を反芻して、合点がいった。さっきのってあれか。

「妄言?」
「そう、そのもうげ……じゃなくて! 妄言とか言うな!」

 ひとことであらわすならなんだろう、と考える間もなくうっかり口から滑り落ちたそのことばに、悠サンは耳聡く噛みついてきた。しかし、妄言が言いすぎにしても、そこまで必死になられると、すこし不愉快だ。ちょっとからかっただけなのに。

「……まさか本気だとでも?」

 そう言うと、びっくりしたみたいに硬直されて、思わずこっちまで戸惑った。ふむ、よく考えたら(よく考えなくても)わるいことは言われていないのだから、一概に妄言と切って捨てては可哀そうだったか。
 今度こそことばを選びながら、フォローを考えて口に出す。

「んー……まあ、そこまでストレートに言われるとは思ってなかったですけど、嫌われるよりましですかね。いちおう、ありがとうございます?」
「ちょ、あ、いや、そうだけど、いや、そうじゃなくてっ……!」
「何に対しての肯定と否定ですか。要領を得ませんよ、ハルちゃん先輩。なにがいいたいんです」

 ……それにしても、悠サンはさっきから挙動不審すぎる。ここまできて、いつもみたいに降参して議論を投げないのは、いささか悠サンらしくないような気もする。

「……アキラ」
「はい?」

 突然、悠サンの声の調子が変わった。さすがにからかいすぎたか。

「1回しか言わないからな」

 それからじゅうぶんな間をもって、悠サンは、口をひらいた。


「……好きだ」


 ふたをしたはずの記憶が、逆流してくる錯覚。


 ――すきだ、晶。


 悠サンの声でも、マスターの声でもないその声は、いまここにはいないひとの声。それはきっと私の耳にしか届いていなくて、それでも、誰の声よりも強く大きく響いた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

【オリジナルマスター】 ―Grasp― 第八話 【アキラ編】

マスターの設定で異様に盛り上がり、自作マスターの人気に作者が嫉妬し出す頃、
なんとコラボで書きませんかとお誘いが。コラボ相手の大物っぷりにぷるぷるしてます。

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アキラ、カクテルバーにて告白されるの巻。

またしても、+KKさんのraison d'etre ep.7,5の設定をお借りしてお送りしてます。
どんだけのませるのがすきなんだと(笑

さてさて、とうとうここまで来たか、という感じですね! ちくしょうアキラ羨まs(ry
悠サンの方はひと山越えたみたいですが、アキラはやっと山のふもとに到着したって
ところですかね。とりあえず、アキラに不穏ななにかがあることはまちがいないです。
今から背後に気を配る毎日だよ! というわけで、休日なのでもりもり書いてきます。

悠編では、先輩がマスターとお話しているようです、こちらも是非!

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白瀬悠さんの生みの親で、悠編を担当している桜宮小春さんのページはこちら!
http://piapro.jp/haru_nemu_202

つんばるがいろいろお世話になりっぱなしの+KKさんのページはこちら!
http://piapro.jp/slow_story

閲覧数:175

投稿日:2009/11/03 14:14:50

文字数:4,255文字

カテゴリ:小説

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