『じゃまけんっ! ~望嘉大付属高校 ジャマイカ音楽研究会~』session:13


「もしもし、メイ? ちょっと聞きたいことあんだけど」
新学期に突入し、さすがに受験モードに入りつつある3年生達。櫂人と芽衣子も例外ではなく、目の前の学力テストで取り敢えずは腕試しといった感じだ。
『どうしたのよ』
「いや、テストのことでちょっとさ。国語の範囲ってP126~213だったっけ? 」
『そうよ。それから古文漢文の基本的なやつとか、まぁそこら辺は復習というかいつもと似た感じでしょう』
「まぁだと思うけど。サンキュー」
『本当苦手ね』
「そういうおまえはどんな感じなんだよ」
『数学なんてこの世の産物とは思えないわよね』
「それが俺にはよく解らん」
『出来る人間の理屈なんか知らないわよぅ』
二人はそれぞれ寮の自室で勉強していた。携帯越しに些細な会話が続いていく。
『そういや部活のこと聞いた? 』
「あぁ、引退のことだろ」
夏の終わり、夏祭りの反省会が終わった最後に岳歩から呼び出された3年部員は引退の話を切り出された。留佳と櫂人は次の目標がすでに定まりつつあることから、そう考えてないことでもなかったらしい。芽衣子はまだふらついている自分の進路に少し複雑な心持ちでそれを聞いていた。それ以来、櫂人と話す時に相談することもあったが、はっきりしている櫂人に逆に不安を煽られている恐怖を感じてしまい、今ではなかなか相談することも少なくなっていた。
『ぁ、いや。そっちの方じゃなくて、体育祭。放送部から選曲手伝い頼まれてるってやつ』
「あぁ、あれか。それなら丁度今留佳と電話で話したけど、荒巻先生に相談してこれも折角の機会だから後輩達にやらせてみるって言ってたけど」
『そう、それなら心配ないわね』
「問題は部活対抗の障害物リレーの方じゃねぇ? 」
『毎年のアレね。・・・出たくないわぁ』
「言うなよ、誰だってそうだ」
それから体育祭後の文化祭の話になった。3年は高校最後の文化祭ということで各クラス毎年恒例で劇をやることになっている。櫂人は裏方で音楽を担当することになっているが、衣装と監督係の生徒がひたすらに櫂人を役に押そうとしていることに辟易していた。それを事あるごとに聞かされているので芽衣子も耳にタコである。ちなみにクラスの違う芽衣子は端役で少し出るくらいらしい。
「まぁ俺らにあと出来ることって言ったら、後輩達に何の問題も無く引き継いでやることくらいだろうよ」
『そうね』
「あー、あれ以来グミが少し俺らに対して歪な感じではあるけれど・・・」
『・・・そうね』
―――そこが留佳に鈍いと言われる由縁だということに気付いてるのかしら。
『久美に関しては、まぁ普通にしていれば多分大丈夫よ。あんな場面見られたんじゃ気恥ずかしいでしょうし、あんまし言ってやらない方がいいわ』
「全力でイジリ倒してる留佳(やつ)は放っておいていいのか? 」
『・・・あれは・・・まぁ、あれよ』
それから少し会話が続いて、勉強に戻ると言って通話を切った。切ってから、
「・・・女ってよく解んねぇな」
櫂人は一人ぼやく。それから机に携帯を置いて体を伸ばすと気を入れ替えて再び勉強へと頭を戻した。

ーーーーーーーーーーーーーーー

「あぁ、そういうことだ。あとはこっちにまかせておけって、じゃあな」
留佳は携帯を切ると、鞄にしまった。
「斉藤か? 」
「あぁ、今話してた体育祭の件でな」
「まぁ吾妻に任せておけば大丈夫だとは思うが、石川次第だな」
「未来はああ見えて意外と廻りに気を配るいいヤツだぞ。解りづらいが」
「いや、解るが、解るお前も石川以上に人を見てるな」
「先生ほどではないぞ。というか一番腹の内が見えんのは先生なんだが」
「お、見直したか? 」
「いいや、特に」
そんな身も蓋もないやり取りをしている留佳と岳歩。丁度岳歩を見かけた留佳が声をかけ、そのまま引退どうこうの話になり、そのまま立ち話をしているところだった。遠目から見ると美男美女のベストカップルである。だがしかし、留佳のひととなりを知ってる人達からすればこれほど恐ろしい光景も無いのだ。教師よりも発言権が高いと有名なのが留佳である。知っている人達には岳歩が何らかの理由で脅されているとしか想像出来ないことだろう。
「引退に関してはお前達の裁量で構わないが、さすがに文化祭後くらいがリミットだと思っておけよ。お前も斉藤も進学組だろ」
「私は将来世界をまたにかけるジャーナリストになるのさ。家のこともあるが、そこは兄としっかり話し合えばいいだけの話だし」
「お前んちもまぁ大変だなぁ」
「この有り余る語学と武芸の才を使わずしてどうするというのだ」
「それを言っても一切嫌みにすら聴こえず、納得させるだけの力があるのが草薙の強さだよな」
「お褒めに預かり光栄だ、先生殿」
「それで。引退のことだけじゃないだろう」
留佳が岳歩に声をかける時は大体決まっている。こうして2人で話す時のほとんどは真面目な話だ。
「久美からも聞いてるんだろう。櫂人もあれだけ鈍いとさすがに端から見ていて苛々するが」
「そういってやるなよ、それが斉藤の持ち味だと思え」
「そういう先生はどうなのだ。早くしないと下手すれば櫂人に奪われるぞ」
「何のことだかな」
はぐらかす岳歩に思うところのある留佳でだったが、それ以上は何も言わなかった。用件が済んだところで留佳は岳歩と分かれ1人帰路についていく。それを見送った後、岳歩は何を考えたのかポケットから携帯を取り出して何処かへかけた。
『はい、もしもし。芭桐です』
「お、メイか。俺だ」
『そんな古くさい詐欺みたいな返事しないで下さいよ』
「判ってんだから大丈夫だろ」
『先生早く彼女作りなさいよ』
「俺くらいになると選び放題で逆に困ってなぁ」
『・・・先生と付き合う人の苦労がありありと見えるのは気のせいかしら』
岳歩は歩きながら放課後で人が少なくなってきている校庭の橋のベンチまで場所を移動する。
「今何してんだ」
『テスト勉強、一応受験生ですから』
「お前ならある程度大丈夫だろ」
『そんな訳にもいきませんよ。積み重ねが大事だって櫂人も言ってたし』
「・・・そうかい。それより引退の件だが、草薙ともさっき少し話したが、一応文化祭辺りが目安と思っておけよ」
『あ・・・はい、解りました』
「・・・メイ」
『へ、あ、はい。何ですか? 』
「これで全部が無くなるわけじゃねぇんだから、取り敢えず今はこれからってのを作っとけ」
『何ですか急に』
「別に。たまにはいいだろう、教師らしいのも」
『先生、一応教師ですよね』
「そうだったか? 」
電話向こうでクスクスと笑う声が届いた。
「・・・さっきの件、斉藤にも伝えておけよ」
『あ、はい。解りました、そうしときます』
「じゃぁな、程々にな」
そうして通話は切られた。岳歩は懐から煙草を取り出しすと火をつける。深く煙を吐き出すと手の内で持て余してる携帯を見下ろした。
「・・・どうであれ、今は俺じゃ意味がねぇしな」
そう呟いて吸い終わった煙草を携帯灰皿に片付け立ち上がる。
「あ、せぇーんせぇー。さよーならー」
「おう、気を付けて帰れよ」
下校する生徒に応えながら、岳歩はそのまま校舎に向かって歩き出した。

to be continued...

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • オリジナルライセンス

『じゃまけんっ! ~望嘉大付属高校 ジャマイカ音楽研究会~』session:13

原案者:七指P 様
お預かりした設定を元に書かせて頂いております。
拙いながらではありますが、楽しんで頂けたなら幸いです

今回は前回居なかったキャラをメインに分けてやってみた
というか、元々2つを1つにまとめるつもりが無かった・・・
この2つを別々で考えていたはずなんだけれど、書き始めたら
・・・・・・・・あるぇ、意外と短くなるや
しかも会話メインな感じになってしまったので、合間の文章が希薄
ヤバい、会話文に慣れ始めたら今度は合間の文章が疎かに・・・;;;
はい、精進します( ̄  ̄)


09/28 17:57(初出)

閲覧数:111

投稿日:2012/10/09 20:34:43

文字数:3,027文字

カテゴリ:小説

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