いつも、守られてばかりだった。
気弱で内向的だった俺とは違い、活発で何かと感情的な双子の姉に。
俺の代わりに薄汚い大人の世界に飛び込み、その白い手を悪で染めていく姉を見てやっと気付いた。
守られるべきは、彼女だ。
血で血を洗うこの世界で、必死に肩肘を張って生きていく彼女。
細く華奢な背中にのしかかる国という重荷を背負ってやることはできなくても、せめていつでも傍にいて、少しでも彼女が笑顔でいられるように。
懸命に前だけを見る彼女が過去の亡霊に足元を掬われることのないように、俺が彼女の背中を守る。
自分自身の手を汚し、惨い現実に絶望するのは俺だけでいい。
俺が切り開いた骸の道、その上に轢かれたレッドカーペットを高飛車に踏み付けて、君はいつも笑ってて。
「団長!王女様がお呼びです」
「わかった。すぐに行く」
何とか彼女を守りたくて、自ら志願して軍隊に入ったのは十一の時だった。
剣術も体術も必死で鍛練して、先日ようやく掴んだ少数精鋭、王女直轄の騎士団の頂点。
本来なら、当人が老齢になるか戦死するかした時にしか騎士団長の代替わりは行われない。
まだ若く人望も厚かった前団長を、その地位から無理矢理引きずり落としたのは俺だ。
決闘という名の、合法的な殺人によって。
「王女様、お連れしました」
「遅いわよ!呼んだらすぐに来なきゃダメじゃない」
きらびやかなドレスに身を包んだ王女が、リンがむうと薔薇色の頬を膨らませる。
この殺伐とした軍舎にはいっそ不釣り合いほど無邪気で幼いその表情に、ひきつり気味だった頬が少し緩むのを感じた。
軽く右手を挙げて、ここまで案内してくれた侍女を退がらせる。
二人きりになった部屋の中、扇で顔を隠すこともせずにじろじろ俺の全身を眺めるリンに苦笑して。
「そんなに似合いませんか?この団長服」
「そういうわけじゃないわ。ただ…レンがあんなやり方で騎士団長になるなんて意外だったから、ちょっと感慨深かっただけよ」
まあ、普段彼女の傍にいる時は軍服すら着ないから確かに珍しいかもしれない。
就任の儀以来初めて袖を通した団長服はひどく厳めしくて、自分でもきっと不似合いなんだろうなと思う。
「さすがに出陣の時くらいは着ておかないと、示しがつきませんから」
「……そう」
窓の外には夥しい数の兵士達。
整然と並ぶ彼らの姿は、上から見るとおもちゃの兵隊のようで何だか滑稽だった。
騎士団長になって初めての任務は、先日支配下においた小国で起きた暴動の鎮圧。
兵力でいえば差は歴然、だけど向こうはこの国の軍隊を憎んでる。
こちらを、そして自分達自身をも傷つけることを厭わない敵ほど、戦う上で恐ろしく厄介なものはない。
「大丈夫です。この身に代えても必ず勝ってみせますから」
「……当たり前でしょ。そうじゃなくてほら、これ」
そう言って、リンがずっと握りしめていたらしいものをポイとこちらに投げて寄越した。
小さな金色が、綺麗な放物線を描いて俺の手の中に収まる。
「これは…?」
「明日遠乗りに行くの。だから、レンの馬借りるわ」
「……は?!」
足腰が強く、気性も穏やかだけど決して物おじしない最高の愛馬。
今から軍を率いて戦地に赴こうというのに、その俺から彼女は馬を取り上げるのだという。
馬に乗らない騎士団長なんて、そんなの今まで聞いたことないんですけど。
「うるさいわね、だからそれ貸してあげるじゃない」
「貸してあげるって…何ですか、これ」
「何って、馬小屋の鍵よ。ジョセフィーヌの」
「え…」
ジョセフィーヌといえば彼女の愛馬で、それこそ国一番と言っても過言ではないほどの駿馬。
鍵に落としていた視線を慌ててリンに向ければ、彼女はフンと鼻を鳴らして続けた。
「何よ、不満なの?」
「まさか!でも何で…」
「ならいいじゃない、たまには違う馬に乗ってみたいだけよ」
それより、と少しトーンを落としたリンの声は震えていた。
長い睫毛に縁取られた瞳は憂いに沈んでいて、ゆっくりと伏せられたそれに一瞬彼女が泣いているのかと思う。
けど王女、と声を掛けかけたところでリンがぱっと視線を上げた。
再び現れたエメラルドグリーンが、痛いほど強い視線で俺を射抜いて。
「私のものに傷を付けたら承知しないわよ。ジョセフィーヌも…あなた自身も」
私の召使なんだからそこんとこ自覚しなさいよ、なんて気恥ずかしいのか少し早口なリンがおかしくて、そして心底愛おしい。
……彼女のためなら、いっそ俺なんてどうなってもいいと思っていた、けど。
俺の命は王女のもので、だからこそ俺が粗末に扱うなんてことは絶対に許されない。
もし許されるとしたら、それは彼女の代わりに死ぬ時だけだ。
「話はそれだけよ、もう行っていいわ。
…………武運を、」
踵を返した背中越し、ぽつりと呟かれたそれに心からの敬礼を。
ああもう、さっさと出兵してそして一刻も早く帰ってこなければ。
俺がいなかったら、一体誰が彼女のおやつを作るんだ。
「では、行ってまいります」
たとえ世界が敵になろうとも、俺が君を守るから。
だから、君はここで笑ってて。
俺が帰るべき、この場所で。
その花の名前は
(100609)
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