奇妙な関係だ。
駅で、車内で、僕と彼女は手をつなぐ。ただそれだけの関係。
駅では挨拶を交わし、手をつなぎ、僕が彼女におすすめの曲を教えてミュージックプレイヤーを貸し、彼女が「この曲いいね」といったあと黙々と音楽を聴いている。僕は暇だから他の考え事をしているか、ぼうっとしている。そして、電車が近づくと彼女は僕の手をぎゅっと握る。
車内に入れば、手を握ったまま彼女は器用に片手で本を読む。僕は暇だから彼女に貸していたミュジックプレイヤーで音楽を聴いている。電車から降りるときには、「またね」と言ってお別れだ。
メアドも電話番号もお互い知らない。僕の連絡先を書いた紙を渡してもいらないと言われ、彼女の連絡先を聞いても拒否される。それに、駅でしか車内でしか顔を合わせない。遊びに行こうと誘っても断られる。僕は彼女にとってどういう存在なんだろう?意味が分からない。きっと、僕は「彼女の世界」を形成している真理を理解できていないのだろう。だけど、彼女に必要以上、関与するとおそらく僕と彼女の関係は終わってしまう。現状維持で彼女と過ごす時間を守るか、彼女を知りたい僕の気持ちを押して彼女に接するかで、僕は悩んでいた。僕は彼女の隣にいるだけで、ほっとしていられるから、そういう存在の人を手放したくないと思い、なんとか気持ちを落ち着かせていた。彼女と一緒にいるときはそうは思わないのに、一人になると彼女の悩みがつもる。僕はカンペキに彼女に負けた。
季節の変わり目。僕は風邪をこじらしてしまい、まる一週間寝込んでしまった。
彼女に連絡をしたかったけれど、連絡先を知らなかったからどうしようもなかった。
風邪が治り、いつもより少し遅めに家を出た。彼女に会う時間が楽しみだったけれど、なんだか照れくさくて、ついゆっくりしてしまったからだ。
駅にはいつもの顔見知りの人たちがいた。いつもどおり挨拶をして、一週間顔を出さなかったことについて話をしていた。だけど、僕はその間でも彼女がいるかそわそわしていて、彼女を見つけようといつもより胸が高まっていた。僕と話していた人は、彼女と僕のことについて何か話したそうだったけれど、僕は彼女のもとに行くからと言って話を切り上げた。
僕が見つけた彼女は赤いヘッドフォンを首にかけ、目を輝かせて、柱に手を握らずに、震えていた。いやな予感がした。
踏み切りがなった。僕は彼女の手を握ろうとした。彼女は僕の手をすり抜けて、前に進んだ。彼女の目は輝いていて、一瞬そんな彼女に見とれていたら、彼女はそのまま勢いをつけ、電車に飛び込んでいった。電車は宙に浮く彼女をひいた。
僕は、目の前の光景が信じられなくて、呆然としていたけれど、同時に1人の人間の観察記録にあった不可解なつじつまが合い重なって一つのツナガリがみえた瞬間でもあった。
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