窓の外を枯れ葉が舞い、その枯れ葉を木枯らしが吹き飛ばしていく。


日に日に少なくなっていく木々の葉っぱは、まるで私の命のよう。


―――――そんな枯れ木のような私の人生は、もう14年になる。





こんこん、と病室のドアがノックされた。

重い音を立ててドアが開く。ずごごごごごごご。

大丈夫なのでしょうかこのドアは。私が生きているうちに砕けて壊れそうな予感がする。



「やぁ、リンちゃん。調子はどうだい?」



そのドアを開けて入ってきたのは―――――大好きな私の主治医の先生。


「キヨテル先生!」

「ふふ、その様子だと、だいぶ調子は良さそうだね」


そう言いながら、ベッドの隣にある椅子に座った。


……正直なところ、調子はあまり良くない。

というより、『生まれつきの謎の病』を患っている私の体は、『調子悪い』のが常なのです。

数年前まではそれでもマシな時もあったんだけど、最近ではずっと胸が苦しい。慣れてしまうぐらいにずっと、苦しい。


少し暗くなった表情を読み取ったのか、キヨテル先生が少しさびしそうに笑った。


「……やっぱり苦しいかい?」

「い、いえ! 大丈夫ですよ! もう14年ですからね、慣れました!」


わざと強がってみせる。そうでもしないと、先生も―――――そして自分も、この『不治の病』に押しつぶされてしまいそうだから。





―――――ここまでは、自動回路の如く毎日同じようにことが過ぎていった。



そしていつもなら、そのまま軽い診察をして、先生は帰って行くはずだった。



ところが。



今日は―――――違った。





「……リンちゃん。病気、治したくないかい?」





……………………………はい?





いやいや、私何言ってるの。フツーそこは『はい』でしょ。あ、『はい』か。


ってそんなノリツッコミしている場合じゃない。



「え、ちょ、へ!? だ、だって私の病気は……!!」


自分の体のことだし、何より幼少の頃から幾度となく聞かされてるからよくわかっている。

この病気は、たった一つの方法でしか治らず、そして今現在それが不可能であることを。


「うん……! ちょうどいいから、もう一度おさらいしておこうか、君の病気」


よくわかっているというのに説明を始めた先生。まぁいいや、一応もう一度聞いておきましょう。


「前々から説明しているように……君の病気は心臓病……それも先天的な洞房結節と心尖部の発達障害だ。心尖部は心臓左下の尖った部分のこと、洞房結節は心臓を動かすための電気刺激を発生させるところであり、刺激伝導系のスタート地点、というのはもうわかってるね?心尖部を中心にして心筋がベルトの様に形作られているから、その心尖部が発達不十分なため心筋の伸縮が弱く、洞房結節が発達不十分だから規則正しいリズムが刻めない。結果、不整脈や心停止を頻繁に起こしてしまう。全く形成されてないわけではないから、奇蹟的にこれまで危篤にならずに済んでいる、といったところかな」


よくわかっていますとも。この分野に関しては、14歳にしては不釣り合いなほど知識を持っている。

洞房結節の発達障害は、ペースメーカーで解決できる。問題は心尖部の発達障害。前例がないというこの障害は、現代医学では解決できない。

これを解決するたった一つの方法が――――――――――


「心臓移植しかないんでしょ?」


先生に言われる前に言ってあげる。

以前先生自身が言ってた。私の病気は心臓移植でしか治らず、かれこれ14年ドナーが見つかっていないと。


「そう、そうなんだけどね……!」


……あれ?

先生が不敵な笑い方をしている。

今までに何度か、他の病室で見たことがある。温厚な先生があんな挑戦的な笑い方をするとき……それは決まって―――――不治の病の面白い治療法を見つけた時だ!





「ドナーの代わりにね……高性能の機械心臓が見つかったのさ!!」





「きっ……機械心臓!!?」


何とまぁSFチックな。

私があんぐりと口を開けていると、先生は持っていたカバンから一冊のカタログを取り出して、見せてくれた。

そこにあったのは、銀色に光り輝く機械の写真。形が……人の心臓にそっくりだ。


「僕の知り合いが経営する研究所で開発された、正式名称を『ヒト心臓形状式機械心臓』、略称『HHFMH-01』だ。最近開発された、今までの金属にはありえない伸縮性を持つ新種の合金でつくられた鋼線のベルトを心筋として造った、先端科学の結晶だよ……!!」


先生は滔々とメリットを語ってくれた。従来の人工心臓と違い、普通の心臓のように収縮するこの機械心臓は通常の人間と同様の激しい行動をも可能にするとか。一度電源を入れればバッテリーは約200年分の電気を作り出すため、事実上永久的に使用可能だとか。

難しいことはよくわからない。だけど、ただ一つ確かなことがある。


「……ねえ、先生。この手術が成功したら……私、思いっきり走れるの? 思いっきり遊べるの? ……外に、出れるの……?」

「……ああ、勿論さ! 元気に遊べるよ!!」





ああ。神様。


私は外の人間のことを知りません。


だけど。きっと、先生みたいな人がたくさんいるのでしょう。


そうでなきゃ―――――私がこの閉ざされた世界を、開くことなんかできる訳がないから。





「……リンちゃん。僕達医者は神様じゃない。失敗しない人間なんていない。それでも……僕は君のために全てを賭けよう。必ず成功させて見せる!!」

「……はい……はい……!! せんせぇ……ありがと……!!」


涙が止まらない。



お日さま、お月さま。もうすぐ私は、あなた達の下に行けるみたいです。










―――――この時、私は気がつくべきだったのだ。



 「……リンちゃんを説得した。契約通り……頼むぞ」



うまい話には裏があるってことに。



「くく……流石院長さんだな。まぁ任せておけ。成功さえすれば、お前の望むようにしてやるよ」



先生みたいな、優しい人ばかりじゃないってことに。



「……リンちゃん……ゴメンよ……!! 必ず……助けるからね……!!」





気づいていれば……人間を―――――撃つこともなかったのに。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
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四獣物語~大砲少女リン②~

かわいいの代名詞、リンちゃん!(逆じゃね?
こんにちはTurndogです。

病気のリンちゃんに光が見えた!……なんて話は某アポリアであったような気もしますが冗談抜きにたまたま似たような事になっただけです。だがら死亡フラグなんかじゃないんです。絶対違うって!違うよぅ!?

あとキヨテル先生使いづらい。
バトル絡むとあの人バトル系じゃないからなぁ。
でも参謀は似合うかもしれない。孔明的な。

閲覧数:98

投稿日:2014/01/20 22:02:38

文字数:2,657文字

カテゴリ:小説

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