〇 〇 〇
デスクトップパソコンを起動し、ジュークボックスのアプリケーションを起動させる幸宏。彼女が何故あの条件を飲んだのか分からずにいた。
(何故だ、何故条件を飲んだんだ)
暫しすると、アプリケーションを制作した企業のロゴが現れて数百ある楽曲が五十音順にリストアップされた。
「さて、ここから自信のある曲を選んで歌ってみせろ。ここのマンションは防音性の優れた壁だからお前の奇怪なだみ声は聞こえにくいだろうな」
憎たらしい厭味をかけるも、ミクは彼の言動に動じない。精神を研ぎ澄ますように、深く、目をつむる。何も言わぬ彼女に対し、自分の中に潜む悪質な感情を垣間見てしまった。
「この曲にします」
彼女が選んだのは、幸宏が高校生の時に作詞作曲した曲であった。大学生になってから、由佳里がボーカルとして声を吹き込ませた、或る曲。
「『Fragile angel』……」
「幸宏さんはベッドに座って聴いて下さいな」
ミクに半ば強引にベッドに座らされた幸宏は、彼女の中心から、暖かな、優しげな聖母の笑みのような光が溢れてくるような気がした。今まで読み取れなかった、彼女の別の姿。否、実は元々この姿をしていたのではないかという疑問が彼の胸襟に突如浮かび上がる。
そしてミクは、イントロを数十秒聴き、静かに鼻から息を吸い込んだ。
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