6.5 すべての始まり


 市井に流れているほどの情報を、実際に黄の国を担う諸侯らが知らないはずはない。
 手は、すでに打たれていた。
 そして、楽師にあった次の日に、リンは突然諸侯会議に呼ばれた。

 きっとろくなことにならない。
 そう覚悟して挑んだ場所で、リンは衝撃の言葉をつきつけられた。

「リン様。貴女に、この国の安寧のために、親善大使として仕事をお頼み申し上げたく存じ奉ります」

 慇懃な物言いだが、リンの心は躍った。初めての、王女としての大きな仕事だ。予想以上の働きを示して必ず見返してやる、と、内心決意する。

「もちろんです。そのために、わたくしはここに居るのですから」

精一杯厭味を込めたつもりなのだが、若い声のおかげで、子供が頑張っている調子で響いてしまった。
ふっと笑いを漏らした者もいる。その姿を視界の隅に見止めて、リンは唇をかむ。

「ご立派なお言葉です、王女さま。我々も安心して送り出せる。
 来たる6の月に、青の国の皇子の成人を祝って、宴が開かれます。そこに、黄の国の代表として出席してほしいのです」

 リンはうなずいた。

「黄の国の王女として、必ずや立派につとめてみせます」

 たのもしいですな、と諸侯らが笑いさんざめく。

「リン様は、すこしお若いけれども、とてもかしこく愛らしい。カイト皇子もきっと、あなた様を放っては置かないでしょう」

 その一言に、リンの心が凍った。

「カイト様は、明るく朗らかで素敵な方でいらっしゃると有名でございます。
 大使といいますが、そう堅苦しくせず、時には外の世界で楽しくすごすことも、必要ですぞ」

 会議場が、リンを取り残して笑いに沸いた。
 冗談に沸いたのではない。その笑いは、ある明らかな期待に満ちていることに、リンは気づいてしまった。

「では、わたくしは」

 リンの唇が、笑みの形を作って固められる。
 優雅に一礼したドレスの下で、リンの感情は嵐のように叫び狂った。

「つまり、わたくしの役目は、年ごろのカイト皇子を籠絡することなのか」

 リンは、気づかぬふりをして、模範的な挨拶を述べて退出した。
 そして、部屋に戻るなり、吐いた。





……つづく。

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悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 6.5 すべての始まり

あの名曲を、かなり曲解。

悪ノ娘と呼ばれた娘  1.リン王女
http://piapro.jp/content/f4w4slkbkcy9mohk

閲覧数:438

投稿日:2010/06/18 21:55:29

文字数:934文字

カテゴリ:小説

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