プロローグ
私はずっと、何不自由ないレールの上を歩けばそれで良いと思ってた。あの人に会うまでは。そんな私のがんじがらめにされた、心のままに生きられもしない運命を変えてやるって、言い残して、彼は卒業とともにどこかに消えていった。
何一つ不自由のない暮らしを捨てたら、あの人に会えると信じて、そう。あの人に会う為に、この家なんか出て行く。
都会から幾らか離れた田園都市の山の麓の大豪邸。そこを出てゆこうとする人影。いかにも普通の旅行者ではないとでも言いたげなブランド物の大きな旅行用のトランクを引っ提げて、素敵な衣装に身を包み、彼女は大きな邸を堂々と後にしようとする。
「お嬢様。どちらへ?」
早速、彼女専属兼御用達の、ぴっちりとしたスーツに身を固めた若い執事、数馬がやってきた。
「私、茨 凛子は、あの人、いえ、五十嵐 譲を追い駆けます。」
「それは。それは。正直、お嬢様を幼い頃から見てきましたが、まさか、あの男に惚れたなどとはおっしゃるつもりですか?」
「そうです。あの人こそ、私の、幼馴染にして、恩人。友達の中の恋人。そう言って差支えありません。」
「正直、私も妬けてしまいますね。ただ、お父様お母様、ご家族一同が果たして、その事自体をお許しになるかどうか。疑問です。」
「数馬。家族や世間だの、人の顔を伺ったら、一体、何ができると言うの?」
「身分違いの恋など止めなさい。お互いが辛いだけよ。ましてや、相手を大事に思うなら。」
「お姉ちゃん。」
「これはこれは。申し訳ございません。恵子様。今、説得の最中で。」
「別に、数馬ちゃんが悪いわけじゃないから良いのよ。それよりも、凛子。」
凛子はどんな反対でも撥ね退けんばかりに、食ってかかるように恵子に聞いた。
「何よ、お姉ちゃん。何か言いたい事があるなら今すぐ、はっきり言って。」
諭すような微笑みを浮かべながら、彼女はすぐに受け答えた。
「可愛い妹の門出を祝いたいのは山々だけど、そうゆう事なら話は違うのよ。」
躊躇いがちに、次女の恵子は重い口を開く。
「まあ、家の事は、末っ子の凛子よりは長女の麗子さんにお任せすれば良いのだけれども。」
「そんな風に恋したって、誰の為にもならないって言ってるのよ。違う?」
事実、さすがに凛子も反論がしずらい言い方に、戸惑った。
「でもね、私はもう心に決めたの。それに、もう私だって18歳なんだから。」
「だから何?周りが心配しないとでも?あなたは、まだ子供なの。面倒を見てもらう以上にまだ特別扱いされないといけない年頃なのよ。それがいけない事ではないのよ?彼の事は心配せずに、充分に青春を謳歌すれば良いのよ。」
それがもう嫌なの。
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