起き上がると、枕元に『本当は怖い! グリム童話』が置いてあった。
あんな夢を見たのはこいつのせいか、と思いながら、私は開いてあったページを閉じた。
「レン……レン起きて……」
横にいる双子の片割れは、パジャマから萌えもしないヘソチラをサービスしながら、すやすやと幸せそうに眠っている。
「レンってば!」
揺すっても揺すっても起きないこいつに痺れを切らし、胸に響くようにどん、と手刀を入れてみた。
「しょうゆっ!」
何故か調味料の名前を叫んでびよん、と起き上がった彼が、目をこすって辺りを見回す。少し力を入れすぎたようで、直後にけほけほ、と咳き込んだ。背中を擦ってやると、少し落ち着いたようだった。
「なんだよ、リン」
「……」
未だに少し苦しそうな表情をする彼に構わず、ぎゅ、と抱きつく。
「怖い夢見た」
「あ、そ、あ、そうです、か。へぇ……」
なぜか慌てるレンを、更に抱きしめる。彼はよしよし、と言いながら抱きしめ返してくれた。温もりが広がる。
とても、冷たい夢だったの。
もう、あんな夢は見たくないよ。
夢の中の苦しさと恐怖を思い出し、身震いが沸き起こった。
「明日は休みだし、眠れるようになるまで夜更かししようか」
1時を指した時計を見つつ、レンがにやりと笑った。
「レン……。ありがとぉー……」
暫く談笑していたのだが、彼女は彼の膝の上で眠ってしまった。
彼はそんな彼女の額に軽く口付け、悲しそうな瞳で笑った。
私は――ただ、謝ることしか出来なかった。
魔女は残酷なのだ。人々が思うよりも遥かに。
灰娘症候群。2
私はまだ走り続けていた。城までの一本道はあっても、その脇は森で囲まれている。私は兵士達から逃げるため、土地勘もないくせに森を駆けずり回っていた。
私がさっきまで閉じ込められていた“ココロ”の中に、あの子がいるのを感じる。
――この子だけは、守らなければ……。
胸に手をやる。早い鼓動が私の手の平を叩いた。
足の裏に刺さる痛みを感じながら、私は人魚姫みたいだ、と思った。
王子を刺し、罪の意識に乗っ取られて魔女になった子もいた。罪の意識に苛まれて泡に還った子もいた。ハッピーエンドで人生を謳歌した子も知っている。
私だって沢山いるはずなのだ。
違う世界の『私』は、王子を刺していないかもしれない。魔女が家に来なかった『私』だっているかもしれない。そして、父や母が死んでいない『私』だっている。
そんな幸せな世界の『私』を、私はこの世界に引きずり出したのだ。
――ごめんね、ごめんね……。
この『私』は、そんなことを知らず、ただ夢で見ていると思っているようだ。ということは、まだ15に満ちていないのだろう。
だけど、夜を何度も越えるうちに気付くはずだ。
その夢が、嫌にリアルなことに。
その夢が、ストーリーのように進むことに。
その夢を見ると、自分が体力を削ったように辛く、苦しいことに。
そして、客観ではなく主観なのだということに。
私は走った。どこへ行くかなんて知らない。ただ、私のシックスセンスが告げている。この先にあるものを。
「白雪!」
ばん、と扉を開くと、7人の小人がこちらを一斉に振り向いた。
「誰だ誰だ」
「灰被りだ」
「灰被りだって!」
「白雪姫に出てきちゃいけないよ」
「いけないよ」
「壊れちゃうよ」
「物語はナイーブなのさ」
「そうなのさ」
「だって君は」
けろけろ、という、女性のような男性のような声が、私をからかう。
「シンデレラ!」
私を呼ぶ声だけは、透き通った声をしていた。
「白雪!」
「どうしたの? 驚いたわ、この森に尋ねてくるなんて」
ショートの黒髪が、優しく揺れる。その中に赤いリボンが美しく映えた。
「助けて……!」
私は、悪魔に乗っ取られて王子を刺したこと、違う世界の自分を巻き込んでしまったことを話した。
彼女は、私と同じ反応を示した。つまり、真っ青になって震えだしたのだ。頭脳明晰な彼女のこと、事の重大さを誰よりも理解したのだろう。もしかすると、私よりも。
「そんな……それが貴女の運命にしたって……したって……」
――惨過ぎる。
そう呟くのが聞こえた。
彼女が唇を噛む。まるで、その言葉を発した自分自身を諌めるようだった。
「あなたが死ぬことは許されないわ」
人差し指を、私の胸にとん、と当てる。
「この子を守り抜くのよ」
私は顎を引いた。それは誰よりも分かっているのだ。
私の中で、可愛らしい『私』が首を傾げているのが分かる。
「シンデレラ、私も手を貸すわ」
旋律のように流れ出る言葉に、拳に入れていた力が緩むのが分かった。
「一物語に一魔女、でしょ?」
くす、と微笑む彼女は、清純なものではないように見えた。
「小人たち、彼女の足の手当てを。サタデーとサンデーには、お母様に伝言を頼むわ」
途端、私達の足元に群がっていた小人達が、ちょろちょろと走り回り始める。
彼女は小さなテーブルでサラサラとメモをつけると、赤い服の小人に渡した。
「お願いね」
赤と青は小さきものとは思えぬ速さで駆けて行き、椅子に座らせてもらった私の足は、てきぱきと包帯が巻かれていった。
「すごいわ、貴方達」
思わずそう口走ると、ピンクの服は笑って、オレンジの服は怒ったように腕を組んだ。……が、頬が赤かった。
「シンデレラ」
白雪が、私の隣に椅子を持ってきて座る。
「私達が今特別に交流を持っているということは、貴女の中にいる『シンデレラ』も、違う世界の『白雪』と何かしら交流があるはずよね?」
私は頷いた。昔の文献には、そう記してあったはずだ。
「その世界の『白雪』に事情を話して、あっちの世界とこっちの世界からシンデレラを守ろうと思うの」
「そんなことができるの?!」
私は目を丸くした。違う『私』がいる世界を特定するのでも幾千という世界から探さなければならないのに、そこにいる『自分』とコンタクトを持つなんて!
「そんな魔法が使える魔女、聞いたことがないわ!」
そこへ、サタデーとサンデーと呼ばれた小人達が帰ってきた。
「今の世界の私、お母様とはとても仲がいいのよ」
彼らが持ってきたメモ用紙を広げ、彼女は言った。
「あら、案外簡単な魔法陣じゃない」
灰娘症候群。2
この際歌詞は総無視で突っ走るよー!←
ファンタジー色強いな! 周です(`・ω・´)
もっと切なくってなんかやりきれない感じの物語なんだよ! ……あれ?
どうしてこうなtt/(^O^)\
切な可愛い本家様(ごめんなさい)↓
http://www.nicovideo.jp/watch/sm13673226
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