23.響き渡る歌のなかで
「……あのさ、クミ」
場の和やかな空気を切り裂くように、静かなトーンで語り出した。
「私たちの今回の目的地までの道、わかる?」
「もちろん、わかってるよ。もしかして道わからなくなったの? 仕方ないな~」
クミは場の空気の変化についてこれず、明るいトーンのまま返事をした。
「よかった……」
何かに安心したようにふっと力を抜く。シンデレラの体からは、にわかに煙があがっている。
「まったく、私がいないと何にもできんな~。困ったやつだ」
相変わらず明るいトーンのままクミは無邪気に話している。
「そうだね……ほんとに。あのさ……そこまで一人で行けるよね?」
突然の言葉にクミは耳を疑う。
「何を言っているの? 怒ったのか? 冗談だよ、冗談、じょうだん……」
クミはようやくシンデレラの変化に気付いた。
シンデレラの体からは相変わらず強烈な雷が放電されている。
それだけではなく体のいたる所から煙が出ている。
「なんだよ? もう戦いは終わったんだから、いつもみたいに雷は抑えてよ……」
シンデレラは目を軽くつむった。
「もう、無理そうなんだ……。本気出しすぎたみたいだ。自分でわかるんだ、これは――」
「そんなわけない!!」
シンデレラの言葉をさえぎるように、少女が大きな声で叫ぶ。
少女もこの症状を知っていた。旅の途中で何度か目撃していたからだ。
知っているからこそ、必死で否定を繰り返していた。
「お願い聞いて!!」
強い口調で放たれたシンデレラの言葉に、クミは黙ってしまった。
優しく言い聞かせるようにシンデレラがしゃべりだす。
「もう、わかってるんでしょ? もうすぐ体の融解が始まるの。何度も診てきたの」
シンデレラの覚悟は決まっていた。
「これから行くところは安全な所だから、安心して幸せに暮らせるから」
クミの目からは大粒の涙がこぼれおちている。
「あのさ、最後のお願い……聞いてもらえるかな?」
クミは無言のままである。
「あの歌、聴きたいな。クミがいつも歌ってたあの歌が聴きたいな」
咳を切ったようにクミが懸命に訴えかける。
「最後なんて言わないでよ。もっとずっとシンデレラといたいよ。
そうだ、歌うたうからさ。そしたらきっと元気になれるから。
二人で一緒にその幸せな所へ行こうよぉ」
シンデレラは無言のまま笑顔で答えた。
クミはシンデレラの手をとり、乱れた呼吸を整える。
そしてシンデレラとの旅の途中、見晴らしいのいい場所で何度も歌ったあの歌をうたいだした。
荒れた荒野に染みわたるような美しい歌声。
どこまでも遠く、どこまでも高く響き渡る歌声。
何もかも包み込むような優しい歌――
死を覚悟していたシンデレラの目から一筋の涙がほほを伝う。
――生きたい
シンデレラにとって予期せぬ感情が心の奥底から湧き出してくる。
――くそっ、なに自己満足にひたってんだよ?
このままこの子を残して自分だけが死のうなんて、かっこいいとか思ってるのかよ?
こんなんじゃロミオに会わせる顔なんてないじゃないか。
この子を守りたい。この子を幸せにしたい。この子の笑顔がもっと見たい……
――生きたい!!
ほのかに手のひらに熱さを感じる。
少女の優しい歌声は止むことなく続いている。
――生きたい!!
再びシンデレラが心の中で叫んだその瞬間――
シンデレラの体に強烈な感覚が走る。
まるで体の中を何かが動きまわるような感覚。
あまりの強烈な感覚に閉じていたまぶたを開く。
そして目の前にいるクミの姿が目に入って来た。
しかし、そのクミの姿はいつも見慣れた姿とは違っていた。
体はほのかに光を放ち、体のいたる所に不思議な紋様が浮かび上がっている。
たくさんの記号と記号が何本もの線で縦横無尽に結ばれている不思議な紋様。
おでこから腕から足にいたるまで紋様はつながっている。
光はその紋様から放たれているようだった。
クミはそんな自らの体の変調に気付くことなく歌をうたい続けている。
シンデレラは心配して声をかけようとするが、声を発することができない。
それどころか体中に力が入らない。クミは変わらずシンデレラの手を握りしめている。
その間もシンデレラは体の中を探られるような強烈な感覚に襲われていた。
やがて少女の美しい歌声が響くなか、彼女の意識は遠のいていく。
消えゆく意識のなか、シンデレラは少女の笑顔を見た気がした……。
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