「ただいまーーー!」
「失礼するでござるー。」
―――ん?
自分とレン二人の部屋で音楽を聴いていたリンは、
その声を聞いてトテトテと階段を降りる。
「おぉ、リン。」
玄関では、カイトが着物を着た長髪の男と立っていた。
「あ、こいつ、がくぽっていうんだ。」
「はじめましてでござる。えっと・・・リン殿でよろしいでござるか?」
紫色の髪、時代遅れの着物。
リンは好奇心の目でがくぽを見る。
「友達か何か?」
「うん。今日ちょっと、うちに来たいとか言うからさ。えっと・・・後で、メイコも来るらしいよ。」
「メイコ姉ちゃん?わぁい!」
カイトの幼馴染でもあり、小さいときからかわいがってもらえていたメイコが来ると知り、リンの顔がゆるむ。
「今日、メイコ殿の誕生日でござる故、誕生日パーティーを開くのでござる。
まあ、リン殿。今日はよろしく、でござるな。」
そう言ってがくぽはリンに笑いかけ、彼女の頭をポンポンっと軽く叩いた――――――。
―――――懐かしいなぁ・・・。
思えば、あれががくぽとリンの出会いだった。
そのあと、誕生日会の準備をしながら、リン、それに後から帰ってきたレン、ミクが加わり、彼らとがくぽはすぐに打ち解けた。
ミクの家はとある下宿屋を営んでいて、カイト、リン、レンはそこに下宿している。
リンとレンは双子で越してきたために、同じ部屋に寝ている。
日常的な家事などはみんなで分担しているため、洗濯などの不便はあるのだが、
協力しあって仲良く住んでいる。
そして今日。もう一人引っ越してきた。
それががくぽだ。
彼は誕生日会から頻繁にここに訪れるようになり、すっかり気に入ったのか、
「拙者もここに住むでござる!」と引っ越すことになった。
「がくぽー、先に風呂入ってー。」
「承知。お先に失礼するでござるー。」
先ほど、カイトにそう言われ、がくぽは風呂に入りに行った。
リンとカイト、レンは、3人でTV番組を見ている。
台所ではミクが洗いものを片づけていた。
「ねぇ、この番組つまない。変えるよー?」
カイトがそう言い出したのは、その時である。
リンの大好きな学園ドラマで、毎週毎週欠かさず見ていた番組だ。
リンはすかさず反抗した。
「え?!ちょっとやめて、ヤダヤダヤダァーー!」
「リンうるさい。えいっ!」
―――ピッ
「ヤダァ―――!」
―――ピッ
「あっ、ちょ、だめって!面白くないってぇ。」
―――ピッ
「ヤダヤダヤダヤダァーー!リモコン返して―!」
「こらぁー。」
「ミクねぇー2人がうるさーい」
「あんたたちやめなさーーーい!!」
レンの一言で台所からミクが出てきた。
「だってぇ・・・りんがぁ・・・」
「カイトの方が7歳もお兄ちゃんでしょ!?」
「・・・ごめんなさい。」
しょんぼりと肩を落として自分の部屋に戻っていくカイト。
その後ろ姿にリンはわざとらしくにやにやとわらいかけていた。
―――泣いてるのかな?
学園ドラマが終わり、リンはカイトが気になった。
だがそれは同情などではなく、笑ってやろうという魂胆からだった。
いつもリンとレンはふたりでいたずらをしている。
「悪ガキ」と言われるのはいつものことだった。
14歳の二人はその歳ながらもまだ幼い。
―――笑ってあげよーっと。
にやにやしながら静かに階段を上がっていくリン。
廊下をそろそろと歩き、カイトの部屋の前でしゃがんだ。
中から声がする。
「・・・ね・・・言い過ぎたよ・・・」
「・・・うん・・・・・・俺も・・・」
―――ん?
気になってドアを5cmほど開ける。
中を覗き込むとミクとカイトが話していた。
カイトの背中をさすりながら、しきりに顔を覗き込むミク。
その姿は恋人同士のようだった。
―――ミク姉ちゃん!?なんでここに?
その光景に驚いたリンは、思わず声を出した。
「え?!なっ・・・・・・――っ!?」
リンの大きく開いた口は大きな手に塞がれていた。
リンの耳に誰かの息がかかる。
(しっ・・・)
―――がくぽ・・・だ
風呂上がりのがくぽはタンクトップに少しだぼだぼのジーパンのラフな格好をしていた。
まだ乾いてない髪は結ばれておらず、その髪からぽたぽたと冷たい雫がリンのうなじに落ちていく。
タンクトップなので二の腕はむき出しになっており、抱きしめられた格好となったリンに、そのままのがくぽの体温が伝わる。
がくぽはそのままリンを抱き上げ、カイトの部屋の隣にある自分の部屋にリンを連れていった。
リンを部屋の絨毯に降ろし、ドアを閉めたがくぽはリンと同じ目線の高さになるよう、その場にしゃがむ。
そして彼は口を開いた。
「・・・リン殿、人の部屋を勝手にのぞくのはマナー違反とやらになるのでござる。ダメでござるよ?・・・・・・リン殿?」
リンは何も考えていないようにぼーっとしており、だが瞳はがくぽをとらえていた。
「だっ・・・大丈夫でござるか!?」
「・・・え?あぁ・・・・・・う・・・ん。・・・ごめん。」
「うーむ・・・やけに素直でおかしいでござる。」
リンの心は温かい気持ちで溢れており、心臓の鼓動は普段より大きく聞こえる気がしていた。
まるで、初めてがくぽにあった時に、頭をポンポンとされた時と同じような気持ちだった。
―――後に、幼いリンはこの気持ちが「トキメキ」なのだと知る。
そうと知らないがくぽは、
「本当に大丈夫でござるか?」
「・・・うん。」
とこの動作を繰り返していた。
「そうか。なら、良かったでござる。」
ようやく3回目の確認が終わると、「大丈夫」だと確信したがくぽはリンに小さく笑いかけた。
その笑顔はやはり、初対面のときの笑顔と同じで、
リンの鼓動はトクンっと跳ね上がって――――
自分の部屋に戻るとレンがゲームをしていたが、リンはそれに気付きもせず、ボーっとした顔で黄色い花柄のマイベットにぺたりと座りこんだ。
そのままリンはベットに横になる。
「ん?大丈夫か?リン。」
「・・・あんたがそれを言っちゃダメよ。」
「は?」
リンは初めての気持ちに戸惑い怖いと感じたが、
なぜか心は温かくて、幸せな気分になっていた。
そしてなぜか、これからの生活が楽しみになっていて、
リンは小さく
「むふふっ・・・。」
と笑った。
―――なんだろうこのキモチ・・・なんか、変な気分だなぁ・・・。
7歳年の離れた2人の物語は、まだ始ったばかり。
そして、、、まだまだ終わりを迎えない―――――――――
―――☆―――☆―――☆―――
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