『じゃまけんっ! ~望嘉大付属高校 ジャマイカ音楽研究会~』session:19
続く普通3年C組には櫂人がおり、演目は『ロミオとシンデレラ』
これは今学生達の間で流行っている人気少女漫画だ。主人公達の揺れる恋模様が気になって仕方がないと、読者達の心を常に揺さぶるファンタジーで、アニメ化も決まったらしい。
ストーリーはロミオとジュリエットが駆け落ちをするところから始まる。神父の案で2人は死んだことにしようと仮死の毒を先にジュリエットに渡して待ち合わせの場所へと行かせる。しかしロミオにそれが伝わらず、待ち合わせ場所でジュリエットが死んでいるのだと思い込み、ジュリエットが持っていた瓶の中身を煽ったロミオ。しかしそれは仮死状態にするための毒で、先にその毒を煽っていたジュリエットが目を覚ました時、状況の不自然さからロミオが死んだと勘違いし、ロミオの短剣で自殺を図る。神父が駆けつけた時には全てが終わってしまっていた様に思われた。ロミオが生きていると気付き、すぐにその場から連れ出す神父。しかしロミオはそれから数日、数週間経っても起きる気配を見せなかった。神父の秘密裏の計らいで2人は遺体も見つからずに死んだことにして、ジュリエットの供養も神父が行なった。そしてロミオは協会の地下の一室に匿われたのだった。死ぬために煽った毒がその思い込みからプラシーボ効果にも似た作用を生み出し、ロミオは眠り姫の様な状態で数十年以上眠り続けたのである。歳月を経て目を覚ましたロミオは地下室から出る、無意識の内に街を彷徨い辿り着いたのはジュリエットが住んでいた屋敷の2人が人知れず逢瀬を重ねていたあのバルコニーが見える場所だった。屋敷は昔とは少し様相が変わり、古くなってはいたが雰囲気はそのままにそこにあった。その時そのバルコニーから姿を現したのが今の屋敷の持ち主の娘であるシンデレラだった。
シンデレラがジュリエットと瓜二つとも言える容貌からロミオの意識が明瞭化し、物語は始まる。
現在4巻まで発売されており、内容はお妃選びの舞踏会へ行く件に差し掛かったところで終わっている。本誌で少し進んではいるがまだ先は読めない展開だ。それも込みでのアレンジ劇であるらしい。
櫂人は裏方で制作進行と音響を手伝っていた。だがしかし未来の指示書を見た漣と、横からそれを覗いた久美は知っていた。幕が上がり、ただ1人何も知らない凛が一心に舞台を楽しそうに見つめている。
「ロミオっ、ロミオっ。嗚呼、なんで私達はこんな運命の下に生まれてしまったのでしょう。私にはもう貴方無しの生など有り得ないというのに・・・」
「あぁ愛しのジュリエット。貴方が私を求める様に、私もまた貴方を求めているのです。私の還る場所は常に貴方の御心の中に。傍に・・・」
暗い舞台にスポットで浮かび上がるジュリエット。続きもう1つのスポットと一緒に舞台にフェードインして来たその人物こそ、
「んのぉぅぁ!? 」
思わずくぐもった声をあげた凛。それもそのはず、舞台でまさに愛の台詞を囁いているロミオこそ、裏方をやっているはずの櫂人本人だったからである。
ーーーーーーーーーーーーーーー
時は今日の朝に遡る。未来は留佳が役で出ることを知っていたのでボイスレコーダーをどうするかどうかで悩んでいた。留佳はノリが良いため、もしかしたら交渉次第で衣装の間に忍ばせて台詞を録らせてくれるかもしれないと直談判しに行くつもりでいた。舞台袖は朝早くから準備のために大忙しの3年生達で溢れ返っていた。その間を掻き分けて進む時でもしっかりカメラは手放さずに撮りながら未来は留佳を探した。その時、
「おい、まじやべぇぞ!? どうすんだよっ」
後ろの方でそんな台詞を耳にして振り返ると、どうやら何かトラブルが起きたらしい。未来はいそいそと忍ぶ様に突き進み耳をそばだてていると、
「主役がいねぇんじゃ話になんねぇじゃねぇかっ。代役は!? 」
「あいつなら一昨日親戚が亡くなって参加出来ねぇって昨日メールきたじゃねぇか」
「~~~だったーっ! 」
「ねぇ、本当どうするの? ヤバくない? 」
主役の1人が急性ウイルス胃腸炎にかかったらしく、今朝方早くに病院に担ぎ込まれたらしい。今は点滴打って病院で寝ているそうで、親の方から学校側に電話が届いたとのことだった。
「演技監督! お前出ろっ、お前以外全部覚えている奴はいねぇ! 」
「ばっ、ふざけんな! 私が出たら舞台の指揮は誰がするのよっ。それにロミオはジュリエットに合わせてジュリエットより身長高く設定してるんだから恰好付かないじゃない、それに私は女だ! 身長も足りんっ!! 」
「~~~っじゃぁ他に誰がいんだよーっ!? 」
「・・・? どうしたんだ」
そこに丁度遅れてきた櫂人が姿を現した。手には今日使う音響用のディスクがある。
「あ、昨日言ってた音源あったぞ。中盤の街灯でティボルト達と竹取合戦する“なら俺はこの世の5代秘宝の1つを~”から始まるとこ。一応今日使うディスクにまとめてあるから一度聞いて確認してくれ。使わないなら使わないで昨日の演出そのままでいくから」
ディスクを見せながら演技監督の方へと足を向ける櫂人。何も知らず暢気に現れた櫂人に一瞬流れが止まったが、演技監督の生徒が何事かに気が付き、櫂人をまじまじと凝視する。
「ぇ・・・? 何? って、いうか・・・そういや何か雰囲気おかしいけど何かあったのか? 」
気付くのが遅すぎるこの男、と未来は紛れた人混みの中から呆れて見ていた。演技監督はたじろぐ櫂人を睨みながら尋ねる。
「なぁ、斉藤。あんたさ・・・最初から最後まで劇の台詞全部言える? 」
ーーーーーーーーーーーーーーー
櫂人は成績上位者だ。人は見かけに寄らないとはこのことで、普段の少し頼りない感じからは想像もつかないくらい色んなことを器用にこなす。不器用なのは性格だけだ。
「・・・未来ちゃん。観るか撮るか笑うか、どっちかにしたら」
「んぶっぐぅんっ・・・す、ごめっ。いや、もう・・・思い出したらお腹痛くって」
実際に舞台上に居る櫂人は表情こそ役を全うしているが、引き受けるまでの背景が凄まじい激論だっただけに折れた時の何とも言えない苦渋に満ちた表情を未来は忘れられない。ちなみにそんな時でもちゃっかりシャッターをおろしていたのは言うまでもなく、ふってわいた出来事に未来はウハウハで盗撮しまくっている。
「いっやぁ~っ、ボイスレコーダーもやっぱ準備しといて本当によかったわー♪ 」
櫂人の出演が決まった直後、未来は他の音響担当の生徒を探し当て、賄賂と引き替えにボイスレコーダーでの録音を頼み込んだのである。その甲斐あって未来は意気揚々と撮影に専念していた。
―――自分何で未来ちゃんと友達やってたんだったっけ・・・
拍は思わずそう自信に問いかけていた。舞台では丁度舞踏会のシーンで、ロミオが人間として中身の無い王子からシンデレラを連れてその場から逃げるところだった。
ラストはシンデレラが硝子の靴を隠して逃げ、ロミオと王子がそれを探し出しシンデレラに履かせるという、シンデレラを駆けた勝負になる。探している最中に隠れながら逃げていたシンデレラとばったり会ったロミオと王子。王子は明るく上から目線な傲慢さで今に見つけて跪かせてやると笑う、しかしロミオはシンデレラの様子が少しおかしいことに気が付いてシンデレラに近寄りその手を取った。その手にはすでに何処かに隠されたと思っていた硝子の靴がそこにあった。王子は目を見開き、文句を喚き散らしている。それを無視してロミオは硝子の靴を手から掬い取ると、足を取りシンデレラに履かせる。持ったままのその靴先にキスをするロミオ。勝負に負けた王子は悔しさから出奔し、結局弟王子が国を継ぎ、ロミオとシンデレラは協会の近くで協会の仕事を手伝いながら末永く幸せに暮らしたというところで幕は下りた。
靴先にロミオがキスしたシーンでは瞬間会場からは有り得ないほどの黄色い悲鳴が響き渡った。
「~~~っひゃー♪ こーれは稼げるぞぉーーー!!! 」
画面を見ながらひたすらにやけている未来を横目に、
―――うれしそうだなぁ、未来ちゃん
拍は、つい生暖かい目で見守ってしまった。そんなことに気付かない未来は幕間になるとすぐに次のバッテリーとSDの替えの用意し始めた。
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普通科が終わり国際交流科の演目へと移った。留佳の居る国際交流科3年B組の番が回ってきた頃には一度昼休憩を挟んでの頃合いだった。
国際交流科3年B組の演目名は『サンドリヨン(Cendrillon)』で、グリム童話の『シンデレラ』をフランス語読みさせたものだ。元々グリムがつけた題目はアッシェンプッテル(Aschenputtel)という。世界に広く浸透している童話なだけに呼び方も諸説も様々だ。
「久美、留佳先輩役で出るって言ってたんだよな? 」
「うん、そうだよ。何で出るかは知らないけど」
「めーちゃん先輩は知ってたみたいだよぉ~」
「まじで。それ本当、凛」
「うん」
3人の想像の中では義姉か魔女で一致していた。どっちが当たるんだろうねと笑いながら幕開けを待っていると、アナウンスと一緒に再び辺りが闇に包まれる。そして静かに緞帳は上がり、舞台が始まった。
「とある時代、とある村で。一人の少女がおりました。常に煤けているその様から少女は“灰被り”や“シンデレラ”など様々な呼び名で呼ばれておりました」
暗闇に差し込まれるモノローグ、終わった瞬間スポットがパッと落とされる。その真ん中に居たのは、
「・・・あ、れ」
ボロボロの背景に今にも折れそうな椅子、その椅子にふんぞり返って座るその人こそ彼らの部長・留佳だった。
「どれだけ予想外なのよ、アンタ」
芽衣子が事あるごとに留佳に向けてよく口にする台詞。その言葉の意味を1年達は今ようやく理解した。
to be continued...
『じゃまけんっ! ~望嘉大付属高校 ジャマイカ音楽研究会~』session:19
原案者:七指P 様
お預かりした設定を元に書かせて頂いております。
拙いながらではありますが、楽しんで頂けたなら幸いです
グリム童話っていいよね( ̄ω ̄)
大好きです
しかしやらかしたっ
シンデレラかぶった!!!
全て書き終わった後に気がつくという・・・
ま・・・楽しかったから良いんだけどねっ
ご批判ご批評お待ちしております(笑
はてさてどたばたさせてみましたよ
こんな劇あったらいいよね
そんな感じで設定にはかなり頭をひねった記憶しかない
捻り過ぎて頭がボワボワした
ボカロ曲は今回「ロミオとシンデレラ」「サンドリヨン」を使用
本来歌っているキャストにあててないのは単にまんまだと面白くねぇなと思ったから
今更だけど使った曲に全部KAITOは居るので、コイツだけは何処をどうあってもまんまになる
バカイトめっっっ(T皿^TT)!!!
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マイナスヨンド
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じん
6.
出来損ない。落ちこぼれ。無能。
無遠慮に向けられる失望の目。遠くから聞こえてくる嘲笑。それらに対して何の抵抗もできない自分自身の無力感。
小さい頃の思い出は、真っ暗で冷たいばかりだ。
大道芸人や手品師たちが集まる街の広場で、私は毎日歌っていた。
だけど、誰も私の歌なんて聞いてくれなかった。
「...オズと恋するミュータント(後篇)
時給310円
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