特設ステージに集まる。
観客の歓声に驚く私とネル。
「ネルはギターなの?」
「うん、本音先輩がメインだけどね。」
辺りを見回す、キクさんはドラム、カイトさんはショルダーキーボード、メイコさんはベース。
キクさん以外は以前、兄貴とバンドを組んでいた。
その時はカイトさんがドラムでスリーピースバンドだった。
「ハク、そろそろ始めるぞ。MCよろしくな。」
「え!?」
ど、どうしよう・・・
「え、えっとぉ・・・ボーカルのハクです。」
む、無理だよ!!!
(ハク。)
ネルが小声で呼びかけてくる。
(ファイト!)
ネル・・・
「いきなりですがバンド名を発表したいと思います。」
観客が静まりかえる。
「いろんな色が混ざり合う場所ってことで・・・」
兄貴達が私に注目する。観客も私に視線を注ぐ。
初音、見ているか?私は今から歌い切ってやるからしっかり聞いときなさいよ!
「カラーパレット!」
観客が一気に盛り上がる。
「じゃあ最初の曲は・・・」
・・・・しまった。何の曲だか分からない。
「ええっと・・・」
観客がだんだんざわつく。
そんなとき、キーボードの音が鳴り響いた。
それに併せてドラム、ベース、そしてギター。
この曲・・・この曲・・・
「曲名は・・・愛猫!!」
ドラムが激しく暴れ出し、ギターが鳴き、ベースが叫び、キーボードが嘲笑う。
『鉄屑のように捨てられ
野良猫のように拾われ
わずかばかりの食事と
少しばかりのミルク』
なあ、聞いてるかい?初音。
『草むらじゃない寝床と
あなたの腕に抱かれて
朝まで浅い眠りにつく』
私・・・
『私はあなたに愛をもらった
私はあなたに恋をしていた』
私・・・
『私はあなたが好きだったけど
あなたには別の人が』
私!
『ゴメンネ、私なんかじゃダメだね
寝息立てるあなたの頬に
キスをして夜の街へ』
死ぬ気がしない!!!
『ダイスキ ダイスキ
涙が止まらない
サヨナラ サヨナラ
夜の街を走り抜ける
草むらの寝床で
今夜私の腕に抱かれて眠る
ダイスキ ダイスキ
あなたに教えてもらった
サヨナラ サヨナラ
愛の歌を歌う
あなたの愛猫でありますように・・・』
最後のドラムソロ、演奏終了。
私・・・生きてる・・・
「兄・・・」
バタン、その場で倒れた。
「あ・・・れ・・・?」
足が・・・動かない・・・
「何で・・・・?」
「言ったでしょう?あなたは死ぬのよ。」
「初音!!」
兄貴が怒鳴った。
「言ったでしょう?あなたに最初言ったでしょう?このこは・・・」
「黙れ!!!」
「あなたはいつもそうやって現実を」
「うるさい!!!」
「落ち着いてください本音先輩、今はハクの方を。」
「お、ああ。」
「ハク、大丈夫、私たちがずっと側に居るから。」
「ネル・・・泣かないで・・・」
ネルの涙を拭おうと手を伸ばす
だけど、手が動かない
「ねえ?なんでだろ?動かないよ・・・」
「ハク!!おい、大丈夫か!?」
「あ・・・ニ・・・・・k 」
「ハク!!!!ねえ、しっかりしてよ!!」
「ご・・・・・めん・・・ネ・・・」
「おい!?しっかりしろ!?おい!!おい!!!」
音無 白南、午後6時31分、メインモーターの停止
三年後
某アパート
「こんばんは。」
「・・・何のようだ?こんな深夜に。」
「あなたの心臓の調子と妹さんにお線香を・・・」
「どこから入ってきた?鍵は掛けていたはずだが。」
「大家さんが貸してくれたわ。」
「キクのやつ・・・」
「いい奥さんね、あなたの体を気遣っていたわ。」
「まだ結婚してねぇよ。」
「そう、でもするんでしょう?」
「ああ、メジャーデビューが決まったらな。」
「まだバンド続けてたのね。」
「夢だから。」
「・・・あなたの心臓、異常はないわよね?」
「問題ない。」
「あなたの妹が停止した直後にあなたが倒れるんですもの。驚いたわ。」
「へ、すました顔をしてたくせによく言うよ。」
あのとき、ハクが倒れたとき、俺も一緒に倒れた。
「俺はガキの頃から心臓が悪かった。」
「ええ、よく知ってるわ。」
「あんとき、心臓止まっちまうもんな。」苦笑いを浮かべる
「まあ運がよかったじゃない。ハクの心臓事態自体には何も問題は無かったし、ちょうど停止してすぐだったし。」
「・・・」
窓から外を見上げる。三日月が空に張り付いてる。
「初音。」
「・・・何?」
少し間を置いて返事が来た。
「線香はそこの棚の上に置いてある。」
「どうもご親切に。」
ハク、聞いてるか?
俺の音楽(ロック)を。
俺とお前とで刻んでいるこの鼓動(ビート)を。
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