「あぁ…また、失敗。」
これで8回目。
「兄ちゃん下手くそだな!!」
ぐふっ!!
小さい子にまで馬鹿にされるとは…
でも、諦めるわけにはいかない。
約束しちゃったし。
―本当は一人で夏祭りに行くつもりじゃなかった。
彼女と二人で行くはずだったんだけど…
彼女が風邪をひいた。
「ゴホッ。」
「今年は夏祭り行けないな。」
「嫌。」
「駄目だよ。大人しくしてないと。」
「金魚…」
「金魚?」
「金魚が欲しかったの。……ダメ?」
風邪のせいだって分かってるけど、瞳には涙が溜まっている。
涙目で上目遣いで見られたら、断れるわけがない。
…思わず苦笑する。
周りからは、「甘過ぎる」とか言われるけど、可愛いのだから仕方ない。
「金魚は俺がとってきてあげるから。」
「本当?」
「あぁ、本当。ほら、約束。」
そう言って、小指を差し出す。
「うん、約束。」
…で、頑張ってるんだけど、まだ1匹も掬えてない。
意外に難しい。
ん?
あれって…鏡音君?
さっきから、金魚掬いをやっているみたいですけど……全然掬えてないんですけど。
気になる。
少し勇気を出して、話しかけてみよう。
「あの、鏡音君?」
「!?」
バリッ。
破れた。
「す、すみません!!」
「大丈夫だよ。」
彼は、少し笑って答えた。
「っていうか……巡音だよな?どうしたんだ?」
「どうした?」って…そ、そんなの学校以外で、好きな人に会えたから、少し勇気出して話しかけたんですよ!!
…なんて、言えるわけないじゃないですか。
「えっと…鏡音君、さっきから金魚掬えてない気がして…」
「そ、そんなに下手なのか…?」
「あの!わ、私、金魚掬い得意なんですよ!だから、その…迷惑じゃなければ、手伝っても良いですか?」
「手伝ってくれんの?マジで!!」
「は、はい!!」
「俺、金魚掬いって初めてやったんだよ。…まず、どうすればいい?」
「はい。まず――」
「やった!!」
「おめでとうございます。」
金魚を持ってはしゃぐ彼は、少し可愛らしい。
「よし、これでリンも喜ぶな。」
彼の言葉に胸がチクッとした。
「リン」という子のために、金魚をとろうとしていたんだ。
…彼女、かな?
「巡音、ありがとな!!」
「いえ、私は、何もしてないですよ。」
「いや、助かったよ。金魚、2匹掬えたからさ…1匹巡音にあげる。…何かおかしい気もするけどな。」
「…良いんですか?」
「あぁ、リンはどうせ自分で世話しないから。」
「え…?一緒に住んでるんですか?」
「?当たり前だろ。兄弟なんだから。」
きょ、兄弟!?
じゃあ、彼女がいるわけじゃないのかな?
今日の私は、少し大胆になっている気がする。
お祭りの熱気かもしれない。
「あの!!鏡音君、私、」
―ドン!!
大きな音。
夜空には色とりどりの花火。
花火のせいで、私の言葉は彼に聞こえなかったみたい。
残念なような安心したような。
花火が終わってからでも大丈夫かな?
夜は長いんだから。
鏡音家
「ただいま~。」
「お帰り、レン。金魚は?」
「はい。」
「…1匹だけ?」
「“だけ”ってなんだ!!その金魚1匹千円以上するんだぞ!?」
「…レン、下手なんだ。」
「うるさい。」
「…でも、ありがと。」
「ちゃんと世話しろよ。」
「うん!」
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