君のことが好きでした
僕は君の王子様
そう、君だけのナイト
僕が君を守るんだ
例えどんなに怖い敵が現れたって大丈夫
僕が守ってあげるから
怖がらないで
君はいつも通りにしていて良いんだ

いつまでもその優しい笑顔を見せて

いつまでも









暑い
暑くてしょうがない
まぁ、季節は夏だ
暑くて当然
この日本っていう国はどうにも季節がころころ変わる
中に住む人間のことも少しは考えて欲しい

本日八月十五日
空を見上げると雲ひとつない青空
天気は快晴
何だよ
僕を嘲笑ってるのか?
何も出来ずにいつも通りに時を過ごす僕を
はは
笑われたってしょうがないな
臆病な僕は今日も何もすることなく君とグダグダお喋り


「何でこんなに暑いのに外にいるんだろうね」
「いや、僕に聞かれても……」


何の変哲も無いお喋り
僕は楽しいよ
君と居れるだけでね
でも、君はどうなのかな?
僕なんかと居ても楽しくないだろうなぁ


「何かごめん」
「何で謝るのよー」


けらけらと君の笑い声が響く
そうやって笑ってもらえると僕も楽だ


「ずっとここに居たら熱中症で死んじゃうよね」
「何でそんなマイナス思考?」
「だってー」


確かに病気になりそうだ
でもなぁ
熱中症じゃなくてさ、僕はこの眩しさが駄目かな
僕には合わないや
僕みたいな根暗には似合わないや
君にはこの綺麗な太陽は似合うけどさ


「でもほんと、死んじゃいそうだ」
「ねー」


君の方をちらりと見てみる
膝に猫を乗せて優しく撫でている

「黒猫だね」
「うん」
「横切られないようにしないとね」
「そういうのって信じるの?」

笑い声混じりの君の声


「うーんあんまりかな」
「可愛いよね。猫」
「うん」


特に会話が弾むわけでもない
むしろ変な空気だ
会話はろくに続かないし、僕は愛想良くないし
どうして君は僕に優しくしてくれるんだろう


「でもまぁ夏は嫌いかな」
「僕もだよ。暑いしさ」
「そうだね……」


君の暗い顔が少し気になった


「あ……」
「どうしたの?」
「猫が……」


黒猫が君の膝を飛び降りて道へ出て行く


「待って……」


君はパタパタとその後を追う
後を……

一瞬の出来事
猫は車道へ飛び出す
君も追いかけて車道へ
信号が点滅を終え赤く染まる
大型トラックが僕の前を通り過ぎる

気が付いたらトラックは消えていた
信号は青だ

嫌だ……
行きたくない……
見たくないんだ……
嫌だ!!

頭の中で叫ぶ
その叫びとは裏腹に足が動く
車道を見てみると潰れた顔の赤く染まった君が居た
猫は暢気に毛繕い


「あぁ……」


僕は悪くない……
だって……
君が飛び出して行ったんだから……

車道にしゃがみ込む僕を、周りの人々は不審な目をして通り過ぎていく
罵倒と共にクラクションを鳴らされた
でもそんなもの構うものか
僕は動かない

ごめんね
君の綺麗な体に僕の雫がかかちゃった
許してね


「御馬鹿さぁん」


誰かの声がした
どこから聞こえているのだろうか
何だか頭の中に響いているような気もする

汚くなった顔を上げて周りを見てみる
この気温の所為か陽炎が立っている


「ダメダメじゃないかぁ」


陽炎だった
目を細めて下品な笑みを浮かべてる


「それでもナイトなのかい?」


何なんだよこいつ……
やめろ……


「嘘じゃないぞ」


やめてくれえええええええええええ



蝉の声が五月蠅い
蝉は何故鳴くのだろうか
所詮は七日の命なのに
六年間も土の中に埋まってたんだろ
それだったら残りの七日ぐらい大人しく黙っていて欲しい
空は雲ひとつない水色

僕を嘲笑うかのような快晴









「んー」


耳元で目覚まし時計が鳴り響く
もう朝か……

朝は嫌いだ
何ていうのかな「気分爽快~」みたいなのが好きじゃないんだ

もうちょっと寝ようかな
昨日は夜遅かったんだっけ
そう思って時計を見てみる

げ……
もう昼過ぎか


「ん? 十二時過ぎ……」


うわあああ!!
君との待ち合わせ時間!!
十二時待ち合わせだったのに!!
どうしようどうしよう
時間にルーズな男だ、って嫌われるよ!
とにかく急ごう
ひたすら急ごう

家を飛び出し君の居る公園へ急ぐ
蝉の声が五月蠅い
耳が潰れそうだ
蝉は何故鳴くのだろうか……
ってそんなことどうだって良いんだ!
早くしないと……

公園に着いたときには僕は酷い格好をしていたと思う
汗だくで髪の毛はボサボサ
おまけに急ブレーキをかけた所為で君の目の前で顔から地面にダイブ


「だ、大丈夫!?」


声が裏返ってる
いや、僕は全然大丈夫なんだけどね


「ご、ごめん! ほんとごめん!!」


ダイブしたついでだ
渾身の土下座


「い、いや、全然良いんだよ?」
「ほんと、さーせん!!」
「いや、良いんだって」
「いや、でも……」
「こうやって一生懸命急いで来てくれた、ってだけでも嬉しいから」


君は本当に優しい
もちろん僕だけにじゃないことぐらい分かっている
皆に優しいんだ
だから好かれるんだ
僕なんかには不釣合いな子なんだ


「本当に良いの?」
「もちろん」


キラキラした笑顔を僕に向けてくれる君
あぁ
本当に良い子だ

いつも通り、何の変哲も無いお喋りが始まる
どうして君は僕にこうやって会ってくれるのだろう
少なくとも嫌われてはいないんだとは思うけど……
何だか複雑な気分だ


「あ、猫……」


茂みに一匹の黒猫が見えた


「黒猫だね」


ふと可笑しなことを考える
昨日見たの夢を思い出す
最悪な夢だ
昨日、どうやら僕はこの公園で眠ってしまっていたらしい
君はその寝顔をずっと眺めていたらしい

夢の中で君は死んだ
トラックに跳ねられて死んだ
猫を追いかけ車道に飛び出て死んだ
道路を真っ赤に染めて死んだ
それなのに僕は悠々と生きていた

何て夢だろう
僕は最低だ


「猫、可愛いよね」
「う、うん……」
「おいで~」


黒猫を手招きする君
嫌な予感がした
もちろんあれは夢の話
僕の妄想の話だ
でも……


「ねぇ」
「ん? どうしたの?」
「もう今日は帰ろうか」
「えー」
「じゃあさこの公園から出ようよ」


今僕は意味不明なことを言っていると思う
自己中心的発言
それでも良い
もしこれで君に嫌われてもそれで良い
本当に起こるはずなんてないけど、それでも胸騒ぎがする


「しょうがないなー」
「ごめんね」
「じゃあさじゃあさ、どっか連れて行ってよ」
「良いよ」


嬉しかった
この公園以外でも一緒に居てくれることが

二人で一緒に公園から出る
一緒に居れば大丈夫
何かあったら僕が君を守ってあげるから
君に何かが襲い掛かってきても僕が振り払ってあげるから

車道を挟んだ向かいの道に知り合いの姿があった
僕は咄嗟に隠れる
君の影に隠れる


「どうしたの?」
「いや、ちょっと……」


僕と居るところ見つかったら君まで変な目で見られちゃうんだ
だから僕が消えれば良い
少しの間だけここに隠れるとしよう

一瞬の出来事
すぐ隣で鈍い音がした
僕の顔に赤い何かがかかる
君の背中を何かが貫通している気がする
周りからは悲鳴が聞こえる

しゃがんだまま硬直
何が起こったんだ

少し経っても劈く様な悲鳴は止まらない
耳が痛い
近くの店先からチリンと暢気な風鈴の音が風に舞って流れてきた
耳障りだ
不協和音の完成


「学習したらどうなんだい?」


嫌な声がする
聞いたことのある気がする声
頭の中を駆け抜けるこの声
昨日の夢で聞いた声だ


「君はまた駄目だったんだよ」


陽炎は暢気にぱたぱたと自分仰いでいる
こいつ……


「ねえ、君は本気であの子を守る覚悟があるのかい?」


やめてくれ
僕は僕は……


「夢じゃないぞ」


そんなことない
昨日だって夢だったんだ
きっとこれだって夢さ

大丈夫
君のことは僕が守るんだ
君を死なせたりなんかしない
そう誓ったんだから

顔にかかった赤いものを手で拭き取る
まだ分からない
これは何なのだろう
鉄の味がする
血なのだろうか?
でも僕はこんなに大量出血するような怪我はしてない
それどころか痛みさえもない
おかしいな
はは
何がどうなってるんだろうな……

気が付くと道の向こうにいたはずの知り合いがすぐ近くに居た
それは顔を恐怖に歪ませ、赤く染まった少女を見た
そして僕の方を見る


「この人殺し」


そう吐き捨てて去っていった

最もですとも
僕の所為なんだ……

一緒に居れば大丈夫?
ふざけるな
僕はやっぱり弱いんだ
ちっぽけなんだ
二回もチャンスを貰ったのに大好きな人一人助けられないんだ

あぁ
頭が痛い
世界が回る
今日の天気は快晴
そんな八月十四日
世界が閉じる前に君の顔が見えた
綺麗な顔だ
いつもの笑顔のまま君の顔だ

笑顔……?









何度も何度も世界が閉じた
赤を見て、眩んで、閉じて
そうして目を覚まして目覚まし時計を止める
また嫌な朝がやってきて
君と代わり映えのない話をして
君は笑顔で
僕は愛想無くて
天気は快晴
いつでも僕を嘲笑っている
君がどこかへ行こうとするとまた赤
真っ赤な世界が広がる
僕は呆然と立ち尽くし、時には力なくしゃがみ込み
そうして陽炎がやって来て嗤って全てを奪い去る

今日も目覚ましがなる
何回目だろうか
もう、これもまた夢なんだろうと思う
僕は夢の国に迷い込んでしまったみたいだ
どうやったらこの迷路から這い出せるのだろうか
考えても分からない

何も分からないからいつも通り君と話をして君が死ぬ
僕は今日も暢気に生きている
君はもう何回死んだのだろうか
考えたくない
そうやって逃げている
弱虫なんだ

君が死ぬのが嫌なんだ
君が生きているのが怖いんだ



本当は単純な話なんだよ
僕にだって分かる
答えは簡単

どうやったらハッピーエンドを迎えれるのか
弱虫な僕はとっくに気付いていました









「あ……」
「どうしたの?」
「猫が……」


黒猫が君の膝を飛び降りて道へ出て行く


「待って……」


君はパタパタとその後を追う
後を……

君の袖を強く引く
君は驚いたような顔をして公園の中に引き戻された


「え……?」


これで君はトラックに轢かれない
綺麗な顔はそのまま

でもこれじゃ駄目なんだ
これだけじゃ君は死ぬ
そういうルールだから
攻略方法を僕は見つけたから

昔からゲームは得意なんだよ
君だけにクリアなんてさせない
僕だってクリアしてみせるんだ

驚く君を置いて車道へ飛び出す
そう
これで良いんだ
見慣れた大型トラックがこちらへ向かってきた
ふっと力を抜く

あぁ
やっと君を守れたんだ!
これで皆ハッピーエンドだね!!

僕の体から毎日見た赤い液体が噴出す
何だか変な感じだ
いままではずっと君のを見てきたのにね
同じ赤でもこれは見てて清々しいよ

きっと僕は今笑顔だ
とびっきりの笑顔だ
可笑しいよね
普段は愛想無くて笑わないのに
こんなときに限って笑顔だなんて
はは……

ふとアイツのことを思い出す
毎回毎回嫌味を言っては消えていくアイツだ
いつもの笑みはなかった
口をへの字に曲げて不機嫌そうな顔だ


「ざまぁみろよ」


そう言って嗤ってやった
はは
僕の勝利だよ


「君は間違った選択をしたんだよ」


意味不明なことを言われた



陽炎に一発かましてやった
それが嬉しかった
その笑顔のまま奥を見ると、大きく見開いた君の瞳が見えた
その瞳からは透明な液体が流れ出していた
あれ?
どうして?
どうして君は笑顔じゃないの?
ほら、いつもみたいに笑ってよ
それが僕の幸せ何なんだから









何の変哲も無い夏のある日
世界に何か影響を与えたわけじゃない
でも大きな何かが変わったんだ
これでハッピーエンドだ



そう思ってた

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

カゲロウデイズ  ……さぁ、いざ夏休みの旅へ!…………

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投稿日:2011/12/20 19:41:30

文字数:4,974文字

カテゴリ:小説

ブクマつながり

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