晶さんとは一度だけ音楽の話を軽くしたことがある。
その時に彼女が持っている携帯音楽プレイヤーに入っていた曲を1つだけ聴かせてもらった。
それは洋楽だった、キャッチーな軽いリズムのロックで、でもどこか寂しげなピアノのメロディがとても印象的な曲だった。
聴くのは洋楽ばかり、あの時に晶さんはそう言っていた記憶がある。
そんな彼女がなぜ鏡音リンの、しかもこの曲を知っていたのか。
インターネットでたまたま見つけて独特の雰囲気がある曲だったから覚えていたのか。
「どうしてあの曲が市内放送で流れたんだろね」
彼女のその言葉は問いかけというよりも独り言に近かった。
どうして鏡音リンのあの曲が流れたのか。
確か防災行政無線は市町村などの自治体が運用しているはず、詳しくはわからないけど市町村役場や消防本部などにある設備を使用しなければ市内放送を流せないだろう。
つまり普通に考えれば、行政機関が何らかの判断を下して流したことになる。
けれどもしそうだとしたら意味がわからない。
市内放送で流されるものは緊急地震速報や気象警報、時には選挙などの告知なんかもあるみたいだがどれもその内容ははっきりしている。
でもさっきの放送では鏡音リンの曲がただ流れただけだ。
「それよりなぜ人が少女になっていくのか、の方が問題かな」
晶さんは取り出した携帯電話をいじり始めていた。
それを見てこちらも携帯電話を手に取りネットに接続してみる。
会話が途切れたまま時間が過ぎていく。
町が普段よりも静かなような気がする、住宅街だから通勤時間を過ぎたこの時間帯は人や車の往来が少なくなる、それでもいつもなら人の姿はそこそこある、けれど今は歩き始めて少し経ったが出会った人は片手で数えるほどしかいない。
ちなみに、それらの人々の殆どは少女ではない普通の人間だった。
周りの様子も見ながら携帯電話の画面を眺める。
そこにはサーバからの応答がないというメッセージが出ている。
お気に入りに登録してあるいくつかのサイトにアクセスしているがどれもこんな状態だ。
朝食の後で試した時は繋がっていたのに。
携帯電話の時間を見ると午前9時20分を過ぎたところだった。
【小説】俺と70億の鏡音リンちゃんと激しく降りそそぐ流星群(20)
ある日、突然、世界中の99.9999%の人間が少女(鏡音リンちゃん)になってしまった。
姿も声もDNAも全て同じ、違うのはそれぞれが持つ記憶だけ。
混乱に陥る人間社会の中で、姿が変わらなかった数少ない人間の1人・佐藤悟は…というお話。
なお、携帯電話で見ることを前提としているので、独特の文体で書いています。
『文の終わりに改行』
『段落ごとに一行空ける』
そのため、段落の一字下げなどは省いています。
見難くなっていたら、すいません。
意見があれば見直します。
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