1.だーれだ。

「ただいまー、と」
 小さく呟いて、玄関の扉を閉める。
 いつもならここでミクが迎えにくるはずだが。
「……あれ、寝てんのかな?」
 靴を脱いで、居間へ。

 ――明かりが点いてるし、起きてるとは思うけど。

 居間に辿り着き、扉を開ける。すると、微かに、本当に小さな音が、食器を拭く彼女の耳から漏れていた。
 何だ、音楽聴いてたのか。
 そりゃ聞こえない。
 音が漏れているということは、結構な音量なのだろう。なのでミクは、まだ俺の存在に気付いてはいない。
 
 よしよし。
 こんな時はいたずらのチャンスだ。

 そぉー、っと彼女に近づいていく。極力大きな物音を立てないように、背後へと。
 ビックリして食器落としてしまうといけないから、食器を拭き終わったタイミングを見計らう。
「ふんふーん♪ る~るる~♪」 
 随分上機嫌だなあ。
 ipod、買ってあげてよかったな。
 
 
 カチャ。
 皿を置いた、今がチャンス!


「だーれだ」
 両目を抑えて、決り文句。
 ミクは一瞬ビクリとし、ipodの電源を切った後、そのまま固まってしまった。
「……ミク?」


「――声紋分析、開始します。ガーガー、ピー、99.9%、マイマスターのものと一致。
 続いて手の平照合モードに移ります。ガチャガチャ」


「もういいよ、俺だよ」



2.硬い。


「なあミク、あれ、どこやったっけ?」
 テレビを見ながらせんべいをかじっている、やたらと熟してしまった主婦ような彼女に問う。
「え? あれって何ですかー?」
「ほら、あれだよ。あのー、こう、長くて……」
 ……老化が進んでるかなあ……とか思いながらも、名前が出てこない。
「あー、あれですか。階段の下の物置に入ってますよー」
 おお、伝わったか。
 だがそう言った後で、どうでもよさそうにキャハハと笑い声。
 まぁいいけど。
 
 居間を出て、階段下のこじんまりとした物置を開ける。ぐは、埃が……。
 散乱している物を出してどけて――ていうか、何でこんな物が? ちょ、うわ、ネギをこんなとこに仕舞うんじゃないよ、何でだよ! 
「あ、あった! おーい、あったよー、ありがとなー」
 ……あれ、無言?
 まぁいいけど。

 
 いや、良くない。

 なんか最近俺に冷たいな、あいつ。
 全く。
 ここは一つ、俺が奴のマスターだという事を、再確認させてやらねばならんな。

 ぼりぼりと音を立てながら、だらしなくせんべいをかじるヴァーチャルな歌姫。どの辺りがヴァーチャル? とか、突っ込んではいけない。
「ミークー」
 その名を呼んで、トントンと肩を叩く。
 叩いた手の人差し指は、汚れのない少年の瞳のように、真っ直ぐに伸びきっていた。

 さあ、振り向け。
 この指がお前の頬を、

「何ですか?」
 
 ゴリッ。
 メキャ。 
 


3.おねむ(チャージ)。

『A○IMOの動き!』
 何気なく、お笑い番組を見ている。
「アハハ、やっぱおもしろいなー、FU○IW○RA」
 もう原○の動きは名人の域に達してるよね。この物真似好っきゃわー。
『ウィーン』
『充電すな!』
「ぶ、アッハハハハ! 
 はあ、やばい、面白過ぎる……おーい、ミクー」
 

 む。
 ああ、そっか。今日はもう寝てんだった。 
 
 ……そういえば、ミクの寝姿って見た事無いな。いや、見ないでって言われてるんだけどね。
 ていうか、何故か寝巻きが妙にエロイんだよな。水玉ピンクのキャミソールに黒の下着って。
 
 
 んー、きっと可愛い寝顔なんだろうなあ。
 ……ちょっと覗くくらい、いい、よな……。

 立ち上がり、あいつの寝室へ向かう。
 一階の和室。
 ふすまの前で、一度だけ深呼吸。
 理性よ、何とか俺を繋ぎ止めて置いてくれよ。

『ああ、任せろ☆』

 ぅぇ!? ……え? 空耳?
 ええっと、その、頼んだ、ぜ?


 
 
 ガラッ。


 
 
 
 
 あれ。
 うちに居たのって、AS○MOだったっけ。



4.おはよう

「う、……がっ、はあ……!!」
 苦しい。
 痛みに喘ぐ事しか出来ない。
「どうだ! 痛いか、苦しいか!
 もっとその声を聞かせてくれ、もっとだ、もっと!」
「や、止めてくれ……!!」
 これ以上押し潰されたら、骨が折れるとか、そんなんじゃ済まないだろうが!
 そんな懇願とは裏腹に、圧は、徐々に徐々に強くなる。
 ……もう……駄目だ。

「――ミク――」
 意識が途切れるその瞬間、確かに俺は、最愛の者の名を、呟いていた。




「呼びました?」
 鳥の囀りと、飄々としたあいつの声が、上の方から聞こえた。
「……と、とりあえず……カーテン、開けて……」
 びゃ、っとカーテン開き、暗い部屋に朝日が舞い込んでくる。
「……今、何時……?」
「7時ですよ」
 相変わらず、上から声が聞こえる。
「……何、して、る……?」
「起こしに来ました」

 
 ……そうか。
 よーし。


「……分かっ、たから、降り、てくれ……!!」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

ショートみっくみく。

ども、五月雨。です( ・ω・)ノ

ふと思いついたので、幾つか書き殴ってみました。
とあるマスターと、初音ミクの日常です。
細かい設定とかは抜きで、単純に楽しんでいただければ、それでいいかと。

それにしても非常にいい息抜きですね、ショート書くのってw
個人的に、すごく楽しく書けました。

閲覧数:135

投稿日:2009/08/25 00:01:08

文字数:2,113文字

カテゴリ:小説

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