~数年後~
「お誕生日おめでとうラヴィア姉さん!!」
「ありがとうレイチェルっ!!」
レイチェルが持ってきたのは美しい花。ラヴィアは花の香りを嗅いで、嬉しそうに微笑む。
「今日は待ちに待った陸に顔を出して良い日!!早速行ってくるわね!!!!」
「あまり遠くへは行かないのよ?」
「わかってるって。じゃ行ってきまーす」
「姉さん気をつけてね~」
ぐんぐんと上へと泳ぐ人魚姫に不安そうに見つめる母と弟。
一方、黒魔女の洞窟。
「時期がようやく訪れた…」
「えぇ…」
「アナタが陸の王子を介抱するのよ?」
「わかってるわ全ては…」
『レンを奪い返すため』
王女の格好をした魔女の分身と魔女は、
手を重ね笑い合い、分身はすぅっと消えた。
「後は私の番ね…」
リンはそう呟くと手を上に伸ばしパチンっと指を鳴らす。
すると海面の上の天候が荒れ始め、海は大きく波立った。
「さぁ……童話の人魚姫を再現してあげる」
そう言うとリンは、姿をひっそりと消した。
~海上~
「海が荒れてきたぞ!!」
「スカイ王子!!大丈夫ですか!?」
「あぁ……」
ザバァ!!!!!!!!!!
「えっ……」
「王子っ!!!!!!!!!!!」
大きな波は船を…いや王子だけを飲み込み、王子は海に沈んでいった。
……俺はこのまま死ぬのか―
王子は意識を失った。
「誰か沈んでる…?!」
人魚姫が陸に上がる寸前、少し離れた所で青髪の青年が徐々に海底へと沈んでいっていた。
「助けなきゃっ!!!」
そう思った人魚姫は青年に追いつき、抱えると陸まで猛スピードで泳いでいった。
陸に上がっても王子は目を開けずぐったりしていた。
「大丈夫…よね」
青髪の青年を見つめ、手を握り人魚姫は歌を歌う。
すると少し楽になったのか青年は微笑んだ。
その微笑みに人魚姫はドキッと心が動いた瞬間
「スカイお兄様!!」
可愛らしい金髪の少女が、ドレスの汚れなど気にせず必死で走って向かってきた。
―人間は怖いのよ
母の言葉を思い出した人魚姫は急いで海へと逃げ出した。
「……ただいま」
ラヴィアは熱が冷めないまま人魚の住処へと帰ってきた。
「初めての陸はどうだった?」
「…うん。とても素敵だった」
母の問いにそれだけ応えるとラヴィアは自室へと入った。
「…素敵な方だったわ。あんな優しそうな表情……。反則よ」
しばらく考えたラヴィアは、ミクリアの元へと向かった。
「ミクリア様…人間になる歌を教えてください!!」
「それは……ダメよ」
「何故ですか?確かここにある無数の曲はどんな事も可能に出来るんですよね?」
「えぇ……でも、わたくしに嘘をついた貴女には教えない」
「…私は嘘なんか吐いてない!!!」
そうラヴィアが言うと、ミクリアは優しくラヴィアに語りかけた。
「逆の立場なら、きっと貴女もあの娘と同じ事を考えるはずよ…?だからこれ以上罪を重ねない方が身のため」
「もういいです。どんな手段を使ってでも私は人間になりますから」
ミクリアの言葉を遮りラヴィアは冷たく言い放つとミクリアの横を泳ぎ去った。
……私が全てを狂わせたのかしら。
それとも別の誰かに私も知らず知らずに操られて…まさか!!
ミクリアは慌てて、人魚族の世界へ旅立った。
~aquatopia~
「ここが、黒魔女の住む洞穴…」
ラヴィアは数日前に聞いた、何でも望みを叶える魔女が住むと噂の屋敷へと来た。
「……怖い。でも王子にもう一度逢うためなら!!」
ラヴィアが決心したのと同時に洞穴の入り口が開き、黒い可愛い服を来た少女に出逢った。
「あら…お客様?」
にっこり微笑む金髪の少女に私は唖然としながら促されるまま中へと案内された。
「お茶をどうぞ?」
「あ、ありがとう…」
ご機嫌な少女は私を見つめてニコニコしている。
「あの~」
「なぁに?」
「願いを叶える黒魔女はお留守でしょうか?」
「いいえ。私がその黒魔女ですけど」
「えっ……?」
確かに、出で立ちは魔女そのものだが、あまりにもイメージとかけ離れており、私は少女をただ見つめることしか出来なかった。
「…で、要件は?」
「わ、私を人間にしてください!!」
「わかりました~。…では」
「?」
「対価をいただきます」
「対価…?」
「そう。願いを叶えるにはそれ相応の対価を戴かなければ」
「何をお渡しすれば…?」
「……そうですね。では貴女の声を頂きます」
「声…ですか?」
人魚姫は戸惑いを隠せなかった。それは彼女の声はクリスタルヴォイスと呼ばれ、海の中で評判とされる歌声だったから。
「嫌なら契約は無しで」
笑顔で初めて冷酷な声を出した黒服の少女が、その場を去ろうとした時、
「待って!!!」
と人魚姫は呼び止めた。
「じゃっ。契約成立っと♪」
リンは静かな声で
―レンの記憶を消した罪を思い知りなさい―
と呟き、秘薬を人魚姫の尾鰭にかけた。
するとみるみるうちに尾鰭は美しい素足になり、ラヴィアの喉はカラカラに乾いた。
――!!!!!
「さて、そのままじゃ溺れるわよ?」
苦しそうに上に泳いでいく人魚姫を見つめるリンにメイは話しかけた。
「これからね……貴女の復讐は」
「メイ様…」
「私は最後まで付き合ってあげるから」
「…メイ様が珍しく優しいと甘えたくなります」
そして、リンはメイにそっとうずくまった。
―本当は止めるべきだったんだけど…
私は血は繋がってなくてもこの娘の母親。
この娘がどれだけ双子の弟を愛してるかも知ってる。
だから
「絶対に貴女の片割れを奪い返しましょうリン?」
「はい…!」
そして、私は悪の蜜を彼女と分かち合ってしまった。
ここで止めていたら運命は変わったのだろうか?
でも……
今の私に出来ることは見守ることだけだと
私の姉は夢で教えてくれた…。
ねぇ…ユカリ姉さん。
これが海の神から私への罰なの?
そうメイは考えながら、少しだけ大きくなったリンを強く抱きしめた。
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