タグ:神話
70件
十五歳になれるのは……蓮と鈴の、どちらかだけ……
一人は、滅びる。
突きつけられた、残酷な事実に、蓮は、ぎゅっと、胸を押さえた。今にも、押しつぶされそうだった。
いや、いっそ、今すぐ、押しつぶされてしまったら、これ以上、苦しまなくてすむし、鈴は、平和に、十五の夜を迎えられるのかもしれなかった...双子の月鏡 ~蓮の夢~ 八
和沙
最後の楽譜を暗譜して、蓮は満足そうに、顔を上げた。そして、そのまま、凍り付いた。
そこには、何もなかった。暗くて、何も見えないのではなく、本当に、切り取られたように、何もなかった。
そして、その理由は、蓮が一番、よく知っていた。
ずっと前に、鈴月に乗っているときに、暗譜しながら、歌ってしまっ...双子の月鏡 ~蓮の夢~ 七
和沙
十枚目の楽譜を暗譜し終えた蓮は、はたと、海草が生い茂っているところを睨んだ。
「海九央(ミクオ)! そこで、何やっているんだよ」
守り帯を下げて、蓮が叫ぶと、海草の密集したところが、サワサワと掻き分けられて、その海草と同じ色の髪と瞳の少年、海九央が現れた。
「あ。神子蓮。いいもの、巻いているね」...双子の月鏡 ~蓮の夢~ 六
和沙
「蓮君。何枚、終わった?」
「七枚」
鍛錬や仕事を終えて、暗譜を始めた蓮は、海渡の声に、楽譜から、目線を上げずに、そう答えた。
「へぇ。蓮君にしては、ゆっくりだね。蓮生(はすう)みの儀式で、疲れちゃった?」
「それは、結構、好きだから、平気………気が乗らないだけ。早く、寝たい」
「蓮君って、寝るの...双子の月鏡 ~蓮の夢~ 五
和沙
朝餉(あさげ)の席へと、足早に歩む蓮は、ふと、足を止めて、ため息をついた。
海渡が、白いひげを蓄えた、上官なのだろう、男に、何やら、言われている。叱責でも、受けているのだろう。もっとも、叱責とは名ばかりの、言いがかりなのだが。
蓮は、小さく息を付くと、男のもとに、歩み寄った。
「海斗は、神子直...双子の月鏡 ~蓮の夢~ 四
和沙
心地の良い、夢のような時間。
いや、まさしく、夢の時間。
その蓮の夢を、壊すのは、いつも、間の抜けた声だった。
「れんぼ~う! 起きようよぉ! 朝だよ~!」
その声を聴くたびに、蓮は、その声の主が、少し、憎らしくなる。
人の夢を邪魔しないでほしい。
せめて、余韻にくらい、浸らせてほしい。...双子の月鏡 ~蓮の夢~ 三
和沙
鈴が、楽しそうに、軽やかに、舞うから、蓮も、それを、うつした。自然と、唇が、鈴の歌をうつし始める。
リン、リン、リンと、鳴り響く鈴の音と、一つの声のように、合わさった、蓮と鈴の声。その歌声に、薄桃色の花が、金の光をかたどるように舞い咲いてゆく。
伸ばした手が、触れそうで、触れないまま、離れ、扇...双子の月鏡 ~蓮の夢~ 二
和沙
まだ陸がなく、世界が空と水だけで別たれていた頃、水には、男(おのこ)しか、棲まず、空には、乙女しか、棲みませんでした。
そんな遠い昔、双子の月は、共に、水の中に沈んでいました。
しかし、ある時、ひどい津波で、月の一つが、空に、投げ出されてしまいました。
水の中の月は、一生懸命、片割れの月を呼...双子の月鏡 ~蓮の夢~
和沙
愛の女神は理不尽に言う
「歌ってばかりで 恋もしないなんて 許せない」
私に言わせりゃ
愛だの恋だの 騒いでばかりで 歌いもしないなんて
バカじゃないの?
指輪奪われたローレライの姉妹
奪われたなら 取り返しなさいよ 意気地なし
私に言わせりゃ
泣くだけだったら 子供にも 出来る
とんだ 臆病者だわ...ニンフ セイレーン
ひなぁ
月明かり降る海で ニンフは一人きり 歌う
皆人(みなひと)は消え 船は幻影に沈む
いつか風の便りに聞いた 遠い異国のお伽話
哀れなニンフ「サイレン」
天上の歌声は 甘美な夢を見せる
勇敢な船乗りたちは 抗うことも出来ずに 海に消え行く
どれほど広い海も どんなにたくさんの歌も
ニンフの乾きを 癒さな...ニンフ サイレン
ひなぁ