タグ:NL
6件
* * *
彼女が起きてから早いもので数日が経った。彼女は相変わらす元気で、寝込むようなこともない。
「マスター、それ、楽譜ですか?」
ふと、彼女がひたすら画用紙に書いている線を見て、僕は聞いた。彼女は頷くと、画用紙を反転させて僕に見せる。
『カイトに歌ってもらいたいの』
「……いいですよ。完成した...reir5後編
若坂癒時
She Side
よく、現実か夢か分からなくなる時がある。
だけど今は夢だと分かる。体は重いし、まぶたは開けようとしても開けられない。
一度、起きようかとしたが、面倒になってやめた。諦めて夢に体を預けると、夢がぐにゃり、と動き出した。
喉と肺の病気が発覚したのは、幼い頃だった。お偉いさんの前で歌って...reir5前編
若坂癒時
彼女の実家に来て数日が経った。
彼女は兄弟からのいじめを受けつつも、本来の目的の日まで、ひっそりと練習をしていた。僕自身、つい最近まで『本来の目的』なんて知らなかったが、母親に呼び出されたまま帰ってこない彼女の留守番をしつつ、唯と縁側で話していたときのことだ。
「もうすぐなんねぇ」
と、唯が独特の口...reir3後編
若坂癒時
彼女からもらった藍色の着物を着て、黒い帯をしめる。
「カイト。男の人は帯を腰に巻くの」
彼女のを真似たせいか、お腹辺りに巻いてしまった帯を直す。
彼女は深緑色の着物を完璧に着こなしていた。髪を上に結い上げ、金のかんざしで止める。
「じゃ、行こうか」
彼女はそう言い、下駄をはく。
「はい」
僕もはくが...reir3前編
若坂癒時
「おはようございます」
朝方。僕・カイトはゆっくり起きて、リビングへと歩きながら、ソファに座っている彼女にそう言った。彼女は振り返ると、やぁ、と言わんばかりに片手をあげて返事を返した。
彼女は肺から喉にかけて病を持っている。だからか、時たま声が出なくなる日がある。そう、それはまさに今だ。彼女が『おは...reir2
若坂癒時
僕が目を覚ますと、彼女は僕を見て柔らかく微笑んだ。白い肌とふんわりとカーブを描く癖毛がより一層彼女の優しさを引き立てている。僕はこの人がマスターだと認識すると、深く頭を下げた。
「はじめまして。カイトです」
「うん、はじめまして」
その声は優しい顔に似合わず低い。だが、少し掠れたような声でも、僕には...reir1
若坂癒時