流沢 圭(NagaresawaKei)の投稿作品一覧
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Last Scene
《夜が明け始めた時頃、とあるアパートの一室。》
「どうだ秀一、少しは好きになったか?」
「すまん英和……それは無理だ」
《昨晩は早く寝すぎた住居人が、珍しく二人とも目覚めていた。
今日もまた、新しい一日が始まる。》
「そんなっ……俺はこんなに愛しているのに……!」
「待てっ!...ヘビトモ final
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Scene15
季節が過ぎ、また春が巡ってきた。
「へくしっ」
「どうした笠木、花粉症か?」
「……あぁ」
「大変だな」
あれから俺は、武藤がタツオを首に巻いている姿を見ていない。以前のように思わず叫んで隣の部屋の人に注意をされる、なんてこともなくなった。
「秀一、はい」
武藤がティッシュを持...ヘビトモ 15
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Scene14
「おい聞いたか? あいつ結局武藤のところに戻ってきたんだってよ」
「は? 誰が?」
「俺たちの憐れな友人」
「……あぁ、笠木か。なんだ、とうとう諦めたのか」
「……いや、前から諦めてたと思うけどな……」
「今度はお前が情報を仕入れてきたのかー」
「あー、俺の妹と笠木の姉ちゃん、同じピ...ヘビトモ 14
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Scene13
ふぅ、と一息ついて俺はチャイムを鳴らした。武藤は必ずドアにチェーンをかけていたからな。俺もだけど。
数秒経って、武藤の声がドアホンから聞こえてきた。
「はい、どちら様ですか」
「……笠木だけど」
何となく間を置き、俺は答えた。
「……えっ」
驚いたような一声をあげた武藤が、慌...ヘビトモ 13
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Scene12
《新年を迎えて四日目の朝、武藤家にて。》
「…………」
力なくケータイを開く。相変わらず、笠木からのメールは一通もきていない。
「兄ちゃん、返信きた?」
和佳が若干心配そうに訊ねる。
「……いや」
それに俺はやはり力なく答える。和佳も、そう、と残念そうに言ってテレビに視線を戻し...ヘビトモ 12
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Scene11
《一方、表札に武藤と書かれた民家では、久し振りに帰ってきたブルーな英和兄ちゃんを弟の和佳(かずよし)くんが慰めていた。》
「だからタツオを連れて行くのはやめた方がいいって言ったのに……まぁ離れたくないのはわかるけどさ」
「……うん……」
笠木は、泣きながら部屋を出て行った。
あの...ヘビトモ 11
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Scene10
《とある町の、とある民家にて。》
「おかえり、帰ってくるの明後日じゃなかった?」
「あー……まあね」
《表札にある名前は、笠木。》
「母さん、俺、部屋変えるよ」
「え?」
「あっ、秀一おかえりー。なになに、どしたの?」
「姉ちゃん……」
俺はとうとう帰ってきた。まあ、数行前にもある...ヘビトモ 10
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Scene9
「なぁ聞いたか? あいつとうとう夜逃げしたんだって」
「は? 誰が?」
「俺たちの憐れな友人」
「あー笠木か。そうか、ついにか」
「あぁ」
「……そういや俺、武藤とは同じクラスになったことなかったな。お前あったか?」
「あー、一年の時同じだった。でもほとんど話したことねぇな」
「ふぅん...ヘビトモ 09
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Scene8
そんなこんなであっという間に夏は過ぎ、紅葉の季節も過ぎ、冬季休業期間に入ったある日のこと。
事件は起きた。
俺は休み明けに提出しなければならないレポートを作成していた。炬燵で暖まりながらノートパソコンと面して、資料を見ながら黙々とキーボードを打ち、時々お茶をすする。なんということ...ヘビトモ 08
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Scene7
薄桃色の桜は目立たなくなり、いつの間にか葉桜の季節となっていた。感じる気温もだいぶ暖かくなり、重ね着が少し暑いくらいだ。
そして相変わらず苦手だがようやくタツオの存在にも慣れ始め、以前ほどには武藤と言い合いをしなくなった。言い合い、といっても俺が一方的にぎゃあぎゃあ言っていただけな...ヘビトモ 07
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Scene6
夕飯を食べ終え、のんびりとソファーでくつろぎテレビを観る。その上にある時計をふと見ると、八時になろうとしている。
俺の名前は武藤英和。もう覚えてくれたかな? 二人の薄情者をつくる原因になったらしい男だ。まぁなんのこっちゃわからんが。
それはさておき、俺は今日も幸せなひと時を満喫し...ヘビトモ 06
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Scene5
空はすっかり闇に染まり、星がチカチカと煌いている。ふと時間を確認すると、もう七時を過ぎている。
俺の名前は国崎光留。少し前の無駄に長い二百メートル描写によって記憶が薄れつつあるだろうか? 憐れな友人いわく「薄情者其の弐」だ。
ようやく家に着き、鍵を開けて中に入り、鍵を閉め直す。リ...ヘビトモ 05
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Scene4
キャンパスから一歩外に出ると、世界は茜色に染まっている。そして真っ赤な夕陽に向かって何かがアホー、アホー、と三羽程飛んで行った。ふと時間を確認すると、五時半を少し過ぎている。
俺の名前は原田海都。つい今さっき登場した、憐れな友人いわく「薄情者其の壱」だ。
たまたまルームシェアした...ヘビトモ 04
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Scene3
それから数時間後、大学の学食ホールにて。
「そりゃ災難だなー笠木ぃ、まぁ頑張れよ」
武藤以外の割と仲のいい友人の一人、原田海都(はらだかいと)は俺の肩に手をポンと置き、笑顔で言った。
「ひ、他人事だと思って……」
「だって他人事だもん」
「うぐぅ……」
この薄情者め。せいぜい胡麻...ヘビトモ 03
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Scene2
《のんびりとした日曜の正午前。緩やかな風が部屋を吹きぬけ、カーテンをひらりと踊らせる。》
「……なんかゆったりした感じに情景描写してるけど、俺の心境はいたって穏やかじゃねぇぞコラ!」
言うのは二度目ですが、どうもみなさん、笠木秀一です。どこにでもいる普通の大学一年生、新生活をスタート...ヘビトモ 02
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Scene1
俺の名前は笠木秀一(かさぎしゅういち)。
今、アパートにやってきた友人と玄関で対面しているわけだが……。
「俺は好きだ、笠木……」
その友人・武藤英和(むとうひでかず)は真剣な眼差しでそう言った。
「そ、そうか……」
あまりのことに衝撃を受け、俺は顔が引きつってしまった。
大...ヘビトモ 01