街を彩る白い雪。
それを溶かし、暖かな春の優しさが街を覆う。
風が、微かに頬をかすめていく。
そんな日がいつか、この場所にも訪れるのだろう。
春を望む人々の気持ちを、冷たい雪が固めていく。
その雪は、人々の心に何かしら影響を与える。
そして、それは稀に、孤独を生み出す。
決して他からは考えられないような、苦痛に耐えられない、孤独を。
静かな部屋を飛び出し、私は一人で窓を見ていた。
窓…家の中では、知らない家族たちが幸せそうに笑っている。
その姿を見ると少し苦しくなり、私はまた足を進める。
街では、ほのかにちらつく白い雪が光に反射し、そして輝いていた。
ふと視線を逸らせば、そこには無邪気に微笑む少年。
耳を澄ませば、静かに歌う少女の声。
見上げた空には、街の光でかき消されそうな星。
私はそれら全てを、無気力に見ていた。
私は何がしたかったんだろう。
一人で考えて、行動して…結果的に、また『一人』。
全部自分で望んで自分でやったことだ。
それなのにどこか満たされないのは、私の傲慢だろうか?
<<Simpatia>>
『二人で…抜け出さないか。今夜だけでいいから…』
温もりと、切なさを秘めた声が、私を呼んだ。
その声を、言葉を、私は望んだはずだったのに。
気づけば、私は彼を遠ざけた。
どこか心の片隅では、彼を理解できていなかったのかもしれない。
言葉は拒絶を示す。だけど、行動は…違った。
ぽつりと残した謝罪の後、私の意識は闇に堕ちた。
このことがあったからだろうか。
私は夢を見た。
二回目の夜の出来事を。
そして…彼が残した、謎の言葉も。
『こうしないと、見れないか』
『…さあな。俺自身でも、よくわからない』
どうしてそんなことを言うの?
どうして、そんな行動をとるの…?
そんな疑問だけが残ったまま、私は夢から覚めた。
目覚めた場所は、本来私がいるはずのない場所。
……神威さんの部屋、彼のベッドだった。
どうしてこんなところに?
ふと視線を逸らせば、椅子で腕を組んだまま、神威さんは眠っていた。
……あの後、何があったんだろう?
何が起きたかわからないまま、その日を過ごした。
疑問が残るだけでは嫌だった。
だから、彼の部屋に行ったのに。
私が思っていた以上に、彼は冷静だった。
昨日のことなど、気にしていないかのように。
あのハロウィンの日と、同じように。
「これは俺の予想だけど…多分、ルカは……」
そして、また私と、無理やり目を合わせて。
「俺に、何かを望んでるんだろう……違う?」
心の奥を、全て見透かしているようなことを言って。
だから、私は逸らすことしかできなかったのに。
「どこを見ている?…俺が、見れないか」
あなたを直視するなんて、できないのに。
彼の目を見ると、壊れてしまいそうで…戻れなくなってしまいそうで、怖かった。
「さぁ、どうする?君が望むことをしてあげる」
そして…再び、私を翻弄した。
上げて…落とした。
気づけば、私は飛び出していた。
*
会いたいけど、会いたくない。
そんな矛盾した思いのまま、私は街を歩く。
「…寒い……」
勢いで出てきてしまったが、いずれ戻らなくてはいけない。
コートは着ているが、マフラーと手袋は置いてきてしまった。
どのタイミングで戻ろうかな。今戻っても気まずいだけだし。
「…神威さん……」
どうして私は彼を拒んでしまったのだろう?
私は彼が嫌いだから?
否、怖かっただけだ。
この気持ちを自覚したのは、あの日…ハロウィンの夜。
彼は特別な意味はなく、私に悪戯をしたんだろう。
だけど、私は悪戯を真に受けた。
そして…彼への想いに、気づいたんだ。
抱きしめられたりしたのは、何度かあった。
だけどそれはすべて演技の話。
本気でやったことなど一度もなかった。
本当の気持ちを演技に出したって、彼が困るだけだろうから。
そう思って、ずっと本音を隠してきた。
つもりだったけど…彼に翻弄される度に、私は嘘をつけなくなる。
きっと私は、彼に遊ばれてるんだ。
何回も焦らされて弄ばれて…私の反応を見て、面白がっているんだ。
彼の感情の「答え」が、見えない。
私は彼が好きだ。
だから彼の態度が、少し怖くもある。
「彼は私を嫌っているかもしれない」なんて。
私のこの思いを知ってほしい、だけど知られるのが怖い…
私の感情は矛盾だらけだ。
「…今、何時かな……」
誰に言うわけでもなく呟いてケータイを開く。
時刻は零時を過ぎていた。日付も変わっている。
もう周りには、あまり人影はない。
たまに車が通るぐらいのこの時間帯だ。
自分で出てきたとはいえ、少し寂しい。
寒いし、もう帰ろうかな。
マフラーと手袋を忘れてきたから、手と首はとても冷たい。
でもさっきあんなことがあったから、自分からすぐに帰るというのも気が引ける。
「…今すぐ、私を見つけてよ……」
何気なく呟いてみる。
私の吐息は白い息となって、街へ揺らめいて消えていく。
その様子を、ゆっくりと眺める。
「…やっと、見つけた」
心地良いトーンの愛しい声が言葉を紡ぐ。
白いマフラーが私の首に巻かれる。
…温かい。
私が後ろを振り向くと、そこにはやっぱり神威さんがいた。
「…どうして放っておいてくれなかったんですか」
「できるはずないだろ、そんなこと」
私はあなたを見つけられないのに、どうしてあなたは見つけだすの。
いくら望んでも、私は手に入れられないのに。
「俺はルカを探しに来たんだ。一緒に帰ろう」
彼が私の腕を掴む。
私はなぜか、彼の手を振り払っていた。
彼は軽い力で掴んでいたので、簡単にその手は離れていった。
「嫌です。帰りません。……あなたの答えを知るまでは」
あぁ、どうしてこんなことを言っているんだろう。
探してくれてありがとう、そしてごめんね。
言うべきことは、私の口からは素直に出てこない。
「わからないんです、どうしてあなたが私にあんなことをしたのかが…私は、どうすればいいんですか」
彼を困らせるような言葉だけが出て行く。
だけど、私がそのことを考えているのは事実だ。
『君が望むことをしてあげる』、確かにあのとき、神威さんはそう言ったのだ。
あの言葉が今も有効ならば、彼は答えてくれるんじゃないか。
一人で、勝手に期待してみる。
「ルカ」
「あなたは本音を教えてくれない」
「ルカ、聞け」
「あなたはずっとはぐらかしていた。それにはきっと理由があるんでしょ?」
彼の本音。私がずっと手にしたかった、本当の回答。
今まで全てはぐらかしてきたのは、彼だけじゃなく私もだろう。
「…なぁ、ルカ」
「今までの行動から考えると、私には一つしか回答が浮かばないんです」
“拒絶”。
彼の答えは、きっとそれ。
本当の答えがどうなのかで、私の気持ちも変わる。
大体予想はつく。だけど、少し期待してしまう。
その期待を裏切るか裏切らないかは、私にはわからない。
だから彼自身に教えてもらうしかないのだ。
「きっとあなたは…私のこと、なんとも――」
「……聞けって、言ってるだろ?」
彼がそう言ったのが聞こえる。
その声が少し怖くて、私は反射的に目を強く瞑った。
だから、今の状況がよく理解できない。
もしかして、叩かれる?
そう思っていたけど、そんな痛みは一切やってこない。
私が言おうとした言葉だって、最後まで言えなかった。
それは彼の雰囲気が少し怖かったからというのもあるけど。
多分もう一つの理由は…私の口が今、何かに塞がれているから。
柔らかくて温もりのある何かに。
「『あなたの考えてることを知りたい』って、ルカは俺に言ったよな」
彼がそう言ったのは、口を塞いでいた何かが離された少し後。
私がゆっくり目を開けると、彼が少しだけ笑っていた。
手を伸ばせば、届く距離。
「これが俺の答えだよ」
えっと…何が、起きたんだろう?
残念ながら私は目を閉じていたのであんまりよくわからないけど…
「えっと…神威、さん…さっきのは……?」
「あぁ…これは演技とかじゃないから、ほとんどできないけど…簡単に言うなら…」
私が尋ねると、彼は少しだけ言いづらそうに間を置いて、
「……奪っちゃった?………これ」
左手の人差し指で一瞬だけ、私の唇をつついた。
えっと、ということは…?
さっきの温かい何かは…神威さんの…。
「……っ!」
言葉の意味を理解した瞬間、私は咄嗟に両手で口を押さえた。
えっと、なんかすごい展開で理解が追いつかなかったりするんだけど…
じゃあ、神威さんの答えって…
「ま、そういうこと」
そういうこと、って…。
じゃあ、私は期待してもよかったってこと?
「簡単に、奪っていいものじゃ、ないですよ…」
私としては凄く嬉しいことでもあるんだけど。
だけど結構恥ずかしかったりするんだよね。
実のことを言うと、すでに演技で一回やってはいるんだけど。
もちろん仕事で。
「どうしてくれるんですか?」
「そうだな…じゃあこうしようか…」
そこまで彼が言ったときだった。
突然、私のケータイが鳴った。
鳴ったというか、バイブの音が聞こえただけなのだが。
ケータイを開こうとしたら、手首をつかまれて制止された。
「今は放っておけばいいだろう」
「ですけど…着信みたいですよ?ほら」
かけてきた相手の名前の表示を見せると、神威さんは少し面倒くさそうな表情になった。
かけてきた相手はリンちゃんだから無理もないだろう。
リンちゃんはだいたい三回くらい不在着信を入れてくる。
だから今もバイブが鳴りっぱなしだ。手が痺れてきた。
神威さんも観念したようなので、電話に出る。
「…もしもし?」
『もっしもーし!ちょっとルカ姉、今どこ!?なんかがっくんもいないし、心配してんだけどー!?』
「ごめんね、ちょっとコンビニ行きたくなって。プリンでも買おうかなって思ったんだけど」
『ふんふんふん、それでそれで?』
「売り切れてたから諦めてね」
『ぐはぁ!…で、ミク姉が今探しに行ってると思うから、はやめに戻ってきてよ?』
そこで切られた。
リンちゃん…心配してくれてるのは嬉しいよ。
だけどもう少し空気を読んでくれたらよかったな。
そして、ミクちゃんもやってきたようだ。
「…いい雰囲気だったんでしょ?」
「え?ま、まあそれなりに?」
「その表情だと、うまくいったみたいですねー…よかったじゃないですか二人とも。どうぞお幸せにー」
ミクちゃんはなんとなくわかっていたのだろう。
意外と勘が鋭いし、よく周りを見ているし。
そういえばマスターも気づいていたんだよね…
マスターの場合、ハロウィンのときに偶然見ちゃったからだろうけど。
「じゃあほら、帰りますよ。雰囲気変えちゃってごめんなさい」
「いや、ミクは悪くないよ。リンのせいだし…俺はあんまり気にしてないよ」
「ちょっとは気にしてるんですか」
ミクちゃんは苦笑いをして、そして家の方面へ歩き出した。
少し遅れて私たちも歩き出す。
「…残念だったな、ルカ」
「別にいいですよー、気にしてなんかないですから」
「そうか、俺もちょっと気にしてる」
「そうですか…」
そして、少しだけ声のボリュームを落とす。
「どうしてくれるのか…後で、教えてくださいね」
「あぁ。責任はとってやるから。……二人きりのときに、な」
後でぎゅってしてくれるんだろうか。
とりあえず、期待していいんだよね?
そっと繋がれた手に、少しだけ力をこめる。
私の冷え切った手に、彼の手は温かかった。
どうかこの温もりが、未来への幸せの架け橋となりますように――…
【がくルカ】Simpatia
※この話の中では季節はまだ冬です。
雪どころかもう桜の時期も終わりました。
季節はずれすぎる。
そういえば最近シリアスばかり書いているような。
「Snowy night」の続きです。
今回は結構イチャイチャさせました(当社比)
リア充らしきものをあまり目にしたことがないので、わからないところは必死で考えました。
こんなんでよかったんでしょうか。
「Jack-o'-lantern」→「Secret answer」→「Snowy night」→「Simpatia(今ココ)」という順番になっております。
反省ポイントは数え切れないほどありますが、やはり一番の反省は
「なぜJack-o'-lantern(初っ端)からハードル高くした」ですね。
後になるにつれ、書きにくくなってしまうという。
とりあえずこのシリーズは完結(?)です。
シリーズ名とかはとくにありませんが、舞台裏が中心なので「舞台裏シリーズ」みたいになると思います。
ご意見やご感想など、メッセージをしていただけると嬉しすぎて鼻血ふいてぶっ倒れます←
ご閲覧ありがとうございました!
コメント3
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ご意見・ご感想
Tea Cat
ご意見・ご感想
…あれ?
私、コメントしてなかっただと…?
うわあああああああああああゆるりーのがくルカ!!
今めっちゃ読み返してるけどコメントしてないとか!!
たしかに受験とかあったけど!!
うわあああああああああああ!!!!
何回読んでも萌えるよ!!
ありがとうございます!!
ブクマ…はしてた(`=ω=´)
2014/08/11 18:55:14
ゆるりー
あれ?てぃあちゃんがコメントしてなかった…だと?
見るたびに書いた本人は赤面するけどね。
頑張れ!お二方!
2014/08/25 23:05:25
和壬
ご意見・ご感想
あまあま!超イイ!!!
ぽルカってあんまりドッロドロのやつないから今度書いてみて下さい!
ルカがー♪超カワイイー♪
※ちなみに私は鼻血が出やすいです!(どうでもええわ
にひひひひひひひひひひ…(キモい
2013/04/21 09:07:31
ゆるりー
それはよかったですw
だが断る←
ルカさんはいつでもかわいいんです!←
奇遇ですね、私も鼻血が出やすいんですy((
ハーッハッハ!((魔王か
2013/04/21 22:05:05
Turndog~ターンドッグ~
ご意見・ご感想
鼻血吹いてぶっ倒れるのは俺だぁー!!(うるさい
これはあれだな、memoryでがっくんが治った時相乗効果でリア充度が高くなったりとか!
大罪ギャグでカヨさんがグミにツッコミしてるヴェノさんに『ああああああああああそんなー子ーがーこーのみなのねー(キラーン☆)』とか言いながら鋏を投げつけちゃう可能性が高くなるって感じかな!www
演技には私情を持ち込んじゃだめですよ?www
ナイス舞台裏。
2013/04/21 01:26:55
ゆるりー
あなたでしたか←
「演技は演技」と割り切ってくれる!……はずです←
ってか鋏投げつけたら危ないwww
舞台裏でいちゃ(ryはけっこう好きなんです。
2013/04/21 22:01:42