とある夜のこと―――――。





『ターンドッグさーん、まだ起きてますー?』

「……ん?」


夜も更けたころだというのに、ゆるりーさんが訪ねてきた。


「はいはーい、なんぞ……ってぬお!?」


ドアを開けてびっくり。ゆるりーさんが抱えていたのは、でこぼこした風呂敷包みだ。


「よっこらせ……っと、夜分失礼します」

「お、おお……そりゃいいけど、これはいったい……」





「……ネルちゃんに連絡お願いします。シルルスコープを、戴きに来ました」





途端にどっぐちゃんが立ち上がった。


「……ゆるりー」

「何?　どっぐちゃん」

「今の清花の精神状態……わかってる?」

「………」

「あたしの説得で多少マシに放ったけど、それでも現世の人間に対する不信感はぬぐいきれてないよ?」

「……わかってるよ。こないだ話してくれたじゃん」

「下手に接触しようとすれば、しるるさんみたいに信じてもらえなくなるだけで済むかどうかはわかんないよ!?」

「それでも……!」



『私は清花ちゃんと……友達になりたい』



「……っ」


どっぐちゃんが唇をかみながらわなわなと震えている。

……が。



「……まったく。幸せもんね、あの子も……。Turndog、ちょっとあたしネルのとこ行ってくる」

「おk」


体重を感じさせない動きでふわりと飛んで、どっぐちゃんの体は時限転移用PCの中へ飛び込んでいった。


「……すいません、いきなり……」

「気にすんにゃ。……それよりも、清花ちゃんのために何ができるか、よく考えて行動するんだな」

「……はい!」





しばらくして、どっぐちゃんと一緒にネルが寝間着状態でやってきた。


「ね～む～い～……なんなのよいきなりぃ～……」

「改造だぞネル」

「んだってぇ!!!!?」


バチコーン!!　と音がしそうな勢いでネルの目が開いた。ドーピングかよ。


「ネルちゃん!　シルルスコープ作って!」

「あいよぉ!!　どれ、材料よこして?」

「はい、これ……!」

「ふんふん……いいね、こいつはいいものができるわよ……友情のバトンなんかコアにしたら、Turndogの以上にいいものができるかも!　おし、ちょっと待っててー!」


しゅるん、と時限転移用PCに飛び込んでいくネル。

とりあえず世間話をしつつ待つこと五分―――――




「はい出来たよー!!」

『ほんっとうに早いな(ね)!!!!』




全力ツッコミである。、これで手抜きとかしてないんだから恐ろしい……。

ゆるりーさんに渡された紙袋の中には、俺のとは違う形のシルルスコープが入っていた。


「これは……リング?」

「そ。このコアの宝石の横から開いて填めることができるようになってるから、髪留めかブレスレットの代わりに使ってみて。この宝石を押すと、ゆるりーさんの視界に幽霊とかの姿が映りこむ仕組みになってるの」

「すさまじいハイスペックだな……大体なんで俺はスカ○ターなのにゆるりーさんはメ○リングなんだ?」

「あんたの場合は格好なんざ気にしなくてもいけるけど、女の子は姿かたちに気を使うべきよ」

「この野郎」


男女差別反対。


「あと、やっぱ友情のバトンの存在が大きかったかもね。あれがなかったら、ここまで高性能なスコープはできなかった……!　ゆるりーさん、人と仲良くなる才能は案外持ってるのかもね」

「そ、そんなの持ってないよ!　……………多分」

「ふふ、相変わらずね。それじゃ、あたしは今度こそネルからー」


ぴらぴらと手を振りながら、ネルはヴォカロ町に帰って行った。


「……Turndogさん、どっぐちゃん」

『ん?』

「……清花ちゃんも、ここの住人にしてあげたいですね」

「……何言ってんだい。清花ちゃんはすっかりここの住人だよ。だって―――――」





どっぐちゃんに、ゆるりーさん。そしてつかさ君や、しるるさんだって。



皆がみんな、いろんな形で彼女を想っているのだから。





ゆるりーさん、シルルスコープ取得。